牢獄にて
ビアードパパのシュークリームうんまい。
寒っ........
思わず身じろぎして気づく。
ここが自分の部屋ではないことに。
そう由樹は地下牢獄に囚われていた。
「あれっ俺.....なんで..……」
自分の身体を見てみると特に鎖で繋がれている部分はなく、五感もしっかりと働いている。
「囚われたのか。俺は。」
まだ頭がぼんやりとしているがある程度は状況が理解できた。牢は前が鉄格子で後ろは岩で敷き詰められており、床には魔法陣が描かれている。
「でも、まさか俺たちの召喚が命の犠牲の上に成り立ったものだったとはな.... 」
扉の間からこっそり見た黒と肌色の物体。あれはもはや人と呼べるものではなかった。体や手はなく、顔は溶けかけており全身から煙が上がっていた。
「うぷッッッ‼︎」
思い出すと吐き気が込み上げてきた。
「ん.....んぐッ‼︎........はぁはぁ .....
あー気持ち悪りぃ」
胃液で濡れた唇を拭いて、ひと段落つく。
「ふぅ、今頃理沙たち、何してんのかなぁ〜。うーん、でも戦争かぁ.....もし理沙が参加させられるようなら止めないとなぁ〜。ワカメ王様に今回のことを取引材料にして........」
そうやって暇な時間を思索する事で潰そうとすると、由樹はあることに気づいた。
「なんか静かだな......」
そう静かすぎるのだ。
いくら監獄といっても看守くらいはいそうなものである。先程から由樹は会話レベルの声の大きさで独白している。
囚人がここまでペラペラと喋っていたら黙らせにくるくらいはしそうなものだが、それも来ない。
どう言う事だ.......
「おーい!だれかー!」
叫んでも応える声はなくただ自分の声だけが響く。
「おいおいまじかよ。この鉄格子も動かせねぇし、これ見捨てられたやつじゃねぇか........?」
そう気付くと由樹の頭に絶望という文字が現れ始める。
「いや、まだだ。まだ見放されたと決まったわけじゃない。たまたま聴こえてないのかもしれないしな‼︎.....」
…………………
…………………
..............「まじかよ」
あれから何回か間隔を置いて大声で叫んでみたが一向に返事は返って来なかった。
「ハァーア。異世界ってもっと楽しいもんじゃなかったのかよ。魔法があって仲間がいて、色々冒険するんじゃねぇのかよ。なのになんで俺はこんなことに...........」
いつも学校では友達がいた。席に着くとよく理沙が話しかけて来た。近くに瑞季もいた。家に帰ると母さんがいた。妹がいた。いつだっていつだって誰かがいた。
「独りは暇だな.......」
そう愚痴られずにはいられないほど由樹の心は憔悴仕切っていた。
「独りは辛いな........」
「独りは寂しいな......」
呟いていくうちに自分でも壊れていくのが少しずつわかってくる。
学校の友達と会いたい。
母に会いたい。
妹に会いたい。
瑞季に会いたい。
............理沙に会いたい。
寒さのせいなのか、自然と握る手に力がこもる。見ると間から血が出ていた。
「このままずっとこの中にいるならいっそ...........」
ガシャン.......ガシャン.........
ガシャン.....ガシャン.......
「ん?」
遠くから足音が聞こえた。
絶望に陥っていた思考が一気に明るくなる。誰か来てくれたんだ。そう思い慌てて鉄格子に張り付いて見てみるとそこには、5、6メートルはあろうかという鎧の騎士がまっすぐこちら側へと歩いて来ていた。
「なんだ、あれ........」
ガシャン....ガシャン...
鎧騎士は由樹の視線を諸共せず、雄大に歩を進め、ついに由樹の前で静止した。
「お、助けてくれんのか?」
「オマエ ナマエ イエ」
「は?」
「オマエ ナマエ イエ」
「か、葛城由樹だけど.....」
「ユキ ナマエ」
「お、おう」
「ユキ オマエ コロス コレ オウメイ」
「えっ......ッ‼︎」
鉄格子があるからと油断していたのがいけなかった。次の瞬間俺は、鉄格子ごと巨大な拳で吹き飛ばされた。
..…何が起こったのか分からなかった。
岩に叩き付けられた身体は、まるで自分の身体ではなくなったかのように動かなくなる。
床に倒れた時には痛みが由樹を襲っていた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
ガシャン..ガシャン..
まだ生きていると判断したのか、鎧騎士は追撃をかけるべく追いかけて来る。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
ガシャン....ガシャン..
必死に鎧騎士から逃げようと身体を動かすが意志に反して体は動かずただ呻き声が漏れるだけで由樹の目からは、恐怖で自然と涙が溢れてきた。
ガシャン.........ガシャ
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ
痛みと恐怖で何も考えられない。
身体が死へと近づいていくのか、少しずつ感覚が薄れていく。
...........『お主の望みはなんじゃ?』
混濁した意識の中、声を聞いた。
...........『ん?聞こえてるじゃろ?ほら言うてみぃ』
何が何だか分からず、由樹は涙で潰れた顔で欲望のままに呟いた。
「............でぃにだく.....ない!!!!!!」
刻奪の手
その瞬間、由樹を除く全てのものに停滞が訪れた。
書きたいことがいっぱいあり、構成上、バトルが次回になりました。も、申し訳ないm(_ _)m じ、次回こそは絶対だよッッッ