5月12日 morning chill
朝の4時台、太陽はまだ地平線の下に隠れ草木も眠る時間帯。
そんな中、一人瑞希は部屋で目を覚ましていた。正確に言うと、覚めさせられていた。
しかし、先ほどまで考えていた恐ろしい夢についてはいったん記憶の隅に置いておいて、予定よりも早く起きたので京都研修の荷物についての確認を始める。前日にすでに数回確認はしていたので忘れているものなどはないはずであったが、興奮からか何かをしていないと気分がどうにも落ち着かなかった。
リュックやスーツケースの中の確認を終えたが、時刻はまだ4時31分。こういうときに限って、時計の針が進むのがとても遅く感じられる。過ぎて欲しくない時は早く過ぎ、早く過ぎて欲しい時はゆっくり進むとはなんとじれったいことか。
朝の早い時間帯は家族で暮らす多くの人がそうであろうが、なるべく静かに過ごさなければならない。それは大きな音を立ててしまうとまだ眠っている両親や、兄弟姉妹を起こしてしまいかねないからだ。
瑞希の場合はなおさらそうである。
瑞希は現在、父方の両親、つまり彼の祖父母と三人で暮らしている。
祖父母は70代後半と高齢で、最近は深い眠りにつけないようになってきたそうだ。そのため朝は祖父母にゆっくりと睡眠をしてもらうために瑞希は、もちろんのこと自分で起床はするし、弁当や朝食も自分で用意するようにしている。
まさに瑞希は親孝行者ならぬ祖父母孝行者である。
また、今日みたいな修学旅行などの朝は、普段よりも特に早く起きねばならないため、毎度のことながら物音を立てないように、よりいっそう気を配るように生活することを心がけている。
であるから瑞希はとりあえず荷物の確認や着替えなどの部屋でできることから済ませ、それから他の活動を始める。
着替えを終えるとキッチンにゆき、手慣れた手つきで朝ご飯をササッと作り、食べ、歯磨きをするなどの朝のルーティンを手早くこなしてゆく。
かれこれ身支度をしている内に時刻は過ぎ、時計を見ると4時58分になっていた。祖父の家は学校の付近に建っており、徒歩で12分かかるかどうかの近い距離である。そのため集合時間の5時30分までに学校にいるには最低でも18分に家を出ればよい。まだ時間は十分にある。しかし、
「集合時間ぴったりに着くように行くのは怖いし、10分までに家を出よう。」
瑞希はそう心の中で家を出る目標時刻を決め、それに間に合うよう準備を急ぎ始める。そして数分の内に
「荷物よし、消灯よし、戸締まりよし。」
家を出る前にすべき全ての準備が完了していることを確かめ終える。そして次は玄関に向かうかと思いきや、瑞希は進路を変え、静かに祖父母の寝室へと向かう。そして引き戸をそっと開け、彼らの姿を目に収め、それから起こさないような小さな声で
「いってきます。」
とだけささやく。
もちろん、寝ている祖父母からの「いってらっしゃい」と言う返事はない。しかし、瑞希は言えたことに満足していた。これからほぼ二日間、祖父母に会えないためである。それからも抜き足差し足と音を立てないように歩みを重ね今度こそ玄関へと向かう。
現在の時刻は5時12分。初め決めたよりも時間がかかったが、こうしてようやく家を後にする。
ガチャっと、ドアを開け外に出るとそこは冷気の漂う早朝の街中である。日はまだ昇っておらず、辺りはまだまだ暗い。そんな中をガラガラとスーツケースを騒がしく鳴らしながら、瑞希は学校へと向かってゆくのであった。
そろそろ、物語を動かし始めれそうです。
読み続けていたき、ありがとうございます。