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『To you』の宛先  作者: 朝雛
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5月11日 school life

ホームルームと一時間目の間の休み時間はこの高校では五分間となっており、ほかの時間との間が10分間であることからしても短い。そのため生徒達は性急に準備をしなければならず、ほかごとをしている暇が少ない。


廊下にある個人ロッカーにしまっておいた教材を取りに行く者もいれば、赤本などで膨らんだリュックから探し出そうとする者もいる。


「なぁ、瑞希。お前って京都行ったことある?」


そう問いかけるのは浩紀である。


「行ったことはあるらしいんだけど、昔のことで覚えてないんだよね。」


瑞希の答えを聞いて、浩紀は驚き、普段よりも早口で言葉を続ける。


「つまり、つまり、行ったことないって事だな?」


なぜか分からないが、瑞希を京都に行ったことがないことにしたいらしい。瑞希は行ったことはあるんだけどなぁ、とは思いつつも仕方なく


「まぁ、つまりそういうことだね。」


と答えることにした。すると浩紀は


「よかったぁー、京都に行ったことないの俺だけだと思ってたわ。」


と突然声高になり言う。どうやら浩紀は京都に行ったことがないのを柄にもなく気にしていたらしい。確かに、京都は小学校や中学校での修学旅行の行き先としては定番であり、行ったことがない高校生の方が少ないのかもしれない。


瑞希は多少驚いたものの、そんなことかと思って「そうなんだ」、とだけ告げ会話を終えようとするが、そうはならず浩紀の昔語りが始まる。


「お前は引っ越してきたから知らないと思うけど、ここら辺の小学校って六年生の時に京都に修学旅行に行くんだよ。」


その言葉に、瑞希は疑問を隠せず、つい質問をしてしまう。


「じゃぁ、なんでヒロは行ったことないの?」


それを受けて浩紀は調子づき


「まぁまぁ、聞けって。」


ともったいぶりながら話し続ける。


「俺ってさ、結構行事ごとの前とかって緊張しちゃうんだよ。それだからさ、修学旅行の前日はやっぱり全然寝付けなかったんだ。でも何とか寝ようと思って、羊とか数えてたら929匹目の時にようやく眠りに落ちる事ができたんだよ。で、翌日目を覚ましたらもう集合時間を過ぎ・・・」


瑞希の席の周りでそんな話をしていると5分は短く、容赦なく鐘が鳴る。浩紀はまだまだ話したりなかった様子ではあったが「続きは後でな」、と言い残して急いで席へと戻っていった。瑞希は浩紀が京都に行ったことがない理由に推察がついたので、続きは別にいいよと言おうとしたが浩紀の話したい気持ちを察しやめておくことにした。


なんやかんやしている内に時間は過ぎて、放課後。


「授業終わったぁー。瑞希帰ろうぜ。」


授業が終わるなり、浩紀が瑞希の席に近づいてきてそう言う。瑞希は若干気まずそうに


「ごめん、ヒロ。今日は香華と二日目の打ち合わせをしなきゃいけないんだ。一緒に帰りたかったんだけど・・・。」


と浩紀の誘いをやんわり断る。


二日目とは京都研修二日目のことであり、その日は夕刻まで自由行動となっている。友達と巡るもよし、恋人と巡るもよし。もちろん、瑞希は香華と京都を散策する予定を立てていた。浩紀は別で友達と回る予定を組んでいる。そのため、自由行動の間の行き先などは各自で決めることとなっている。


しかし、瑞希と香華は事もあろうかそれを前日まで決めていなかったのだ。


さすがの浩紀もそれを聞いて驚き


「お前ら・・・もう前日だぞ。」


とあきれながら言う。瑞希は頬を書き苦笑いをしながら


「うん、もう前日なんだよね・・・。忘れてたとかじゃなくて、また今度決めようって言っている内に今日になったって言うか・・・。」


弁明の言葉を述べる。浩紀はもうあきれを通り越したあきれの境地にいたり


「なら今日はほかの奴と帰るから、お前らはちゃんと予定立ててこいよ。」


と言い残し、自分の席に戻って帰りの準備を始めた。浩紀が戻ると次に、瑞希の元に片付けを終えリュックを背負った香華がやってくる。


「香華、今日どこで打ち合わせする?」


瑞希が、帰りの支度をしながら問いかける。すると、香華が少し悩んだ末に、妙案をひらめいたのかパンッと手をたたきながら答える。


「じゃぁ星海カフェに行きましょ。ちょうど食べたいケーキがあったのよ。」


瑞希は特に案もなかったので、香華のその提案を「そうしよっか」、と肯定し行き先を星海カフェに決定する。


それから数十秒して瑞希が荷物の片付けを終えると、二人はともに教室を後にする。


4時過ぎの昼下がりの街。太陽はすでに傾き始め、ビルとビルの間から赤い光が差し込んでくる。そんな街の中を二人は星海カフェへと向かっていくのであった。

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