序章 one evening
初めての投稿となります。
つたない文章ですが、読み続けていただけると幸いです。
5月13日
太陽が頬を染め、景色すべてにまで伝播し赤らみ始めた夕方。
静かな境内の中で俺は人を待っていると、そう遠くはないところからギターの悲しげな音が聴こえてくる。つい人を待っていることを忘れてその音がする方へ行ってみると、芝生の上に学校帰りの高校生だろうか、一人の女性が座りながらギターを弾いているのを発見する。
その女性は容姿端麗で見つけた瞬間ふと目を奪われてしまう。こんなにも美しい女性にも何らかしらの悩みがあるものなんだなぁと思いつつ、時間を忘れ彼女のギター音色に聞き入っていた。何分たったのか分からなかったが、その音がやむ。彼女はどうやら次の曲にはいる様子はなく、俺はその余韻に浸っていた。
この甘美な瞬間、なぜかは分からなかったが俺の足は彼女の方へ動き出していた。そして気づくと彼女の前にいた。
「あの、すいません。ギター弾くのとても上手ですね。思わず聞き入ってしまいました。」
自然と感想が口からこぼれ出る。彼女は、突然話しかけられ若干驚いた様子であったが、振り返りながら
「まだまだ未熟でお恥ずかしい。あり・・・」
彼女は「ありがとうございます」と言いかけたのであろうが、俺の顔をみると彼女は突然言葉を失う。互いに初めて会う二人の間に流れる沈黙。さすがに気まずさを感じ、別に悪いことはしていないよなとは思ったものの余計なことであったかもしれないとも思い、感想は言ったのでサッとその場を後にしようとする。すると、しばらく言葉を失っていた彼女が声を発する。
「あの、もしかしてだけど、君ってみっ・・・春崎君だよね?」
その発言に、今度は俺が驚いて言葉を失う。それは会ったこともない女性が突然自分の名字を当てたからである。俺は一度も彼女に会ったことは確かにない。こんなにきれいな女性ともし会っていたのなら忘れるはずがないからだ。いったいなぜ彼女が僕のことを知っているのか、という頭にわき上がった疑問について考えていると、ある一つの結論にたどり着いた。どうして忘れていたんだろうか。ここは京都上賀茂。
「なんであなたが俺の名前を知っているかわかった気がします。それはとても“悲しい”けれど。」
俺はついに自分と向き合わなければならない時が来てしまったと思った。運命の女神様が俺が何も知らぬままのうのうと生きることを許さず、元に戻そうとしているのだ。
彼女との出会いが俺の人生を狂わせてしまうだろう、そんな気がした。
読んでくださりありがとうございます。
よい区切りまでは早めに投稿する予定なのでお待ちください。