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「頭痛い……」

 ズキズキと痛む頭のまま、私は目的地へと向かっていた。

 昨日はあれから、部長としばらく話をしていると

「そうそう、明日は出てこなくていいよ。悩んでいる君に特別手当、ってやつだね。明日、堀本さんの学校を訪ねるといい。正確には、クラスメイト、かな。学校に色々話を聞いてた時にさ、少し彼女と接点がある子がいたみたいでね。そのうちの一人と話してくるといい。なに、気にすることないよ。無理やりこの仕事を押し付けたようなものだからさ」

 というような会話があって、現在に至る。

 こめかみを抑えながら、携帯に表示されている地図の通りに歩く。それによると、もうすぐみたいだ。ああ、こんなことがあるなら、昨日、あんなに飲まなければよかった。

 約束の時間までは、まだ少しある。とりあえず、近くのコンビニに入って水と、それから、お酒の匂いがしたら嫌だから、ブレスケアも買っておこう。

 さっと買い物を済ませて、待ち合わせ場所である、学校から少しだけ離れた喫茶店へと向かう。どうやら、昨日の間に連絡を取っておいてくれたみたいだ。一体いつの間に、とは思ったけど、かなみ以外の話が聞けるいい機会だったので、ありがたく受け入れた。

 かなみの時ほどには緊張していないけど、さて、どうしようか。前回同様、いきなりだったので、大した準備もできていない。

 時計を確認しながら入り口を見ていると、しばらくしてきょろきょろと辺りを見回す女子生徒の姿が見えた。

「川田さん? こっちこっち」

 名前を呼ぶと、どうやら正解だったみたいだ。こちらへと歩いてくる。

「すいません、少し遅くなってしまって」

「ううん、いいの。こっちも急だったと思うし、むしろ、受けてくれてありがとう」

「いえ、とんでもないです。こちらこそ、あまりお役に立てないかもしれませんが……」

 鞄を小脇に置いて、私の正面に腰掛ける。かなみの時も思ったけど、一連の動作がやっぱり綺麗だ。

「じゃあ、いきなりだけど……って、その前に、何か注文する?」

「そうですね。じゃあ、ホットコーヒーで」

 店員を呼んで、ホットコーヒーを注文する。

「改めて、三島、と言います。初めまして」

「川田です。初めまして」

 丁度お互いが名乗り終わったくらいに、さきほど注文したものがきた。

「さて、それじゃあ早速本題に入るけど、大丈夫?」

 構いません、と目で合図される。

「かなみ――堀本さんは、学校ではどういう感じだったのかな」

「あまり詳しくは分からないですが、大人しい子でした。なので、正直、今回のことにはとても驚いています」

 何か、少し言いようのない違和感を感じた。だけど、具体的にどうとか、そういうのは分からなくて。

「やっぱり、あまり他の人とは接点がなかった感じ、なのかな」

「そうですね。私は堀本さんとは今年クラスが一緒になったんですが、基本的に、いつも一人でいるようなことが多かったです」

「基本的に?」

「はい。彼女たち――今回の事件の被害者たちに、たまにちょっかいはかけられていたみたいです」

「それは、いつから?」

「具体的には……でも、あの様子だと、恐らくかなり前からなんじゃないかとは、思います」

「それで、あなたも含めて、クラスの子たちはどうだったの?」

「先生方も含めて、気づいている子が大半だったと思います。私は……私は、何とかしようと思って、堀本さんに声をかけたことがあるんです。あの時、堀本さんは、少し笑っていたように、私には見えました。でも、それは最初だけで。何度か声を掛けているうちに、だんだんと、無視されるようになって。それでも、私は堀本さんのことを嫌いではなかったですし、だから、それからも変わらず接していました。少しでも、彼女の気持ちが楽になれば、と」

 かなみが言っていた、声をかけてきたクラスメイト、というのは彼女のことだったのか。かなみを助けようとしてくれた、一人。だけど、なぜだろうか。胸がモヤモヤとする。目の前の彼女は、何一つ間違ったことは言っていないというのに。

「そう」

 意識していないのに、素っ気ない返事になってしまった。ハッと川田さんの方を見ると、少し、驚いたような表情で。慌てて、私は言葉を続ける。

「ああ、ごめんなさい。それで、彼女たちの前では、声をかけたりはしなかったのかな」

「そうですね……堀本さんが一人でいるときがほとんどでした」

「やっぱり、怖いよね。もしかしたら、次は自分が標的になるかもしれないし」

「そう……ですね。とても怖かったです。初めて話しかけた時は、内心、誰かに見られているんじゃないか、って。すごく怖かった。だけど、今となっては後悔しているんです。私が勇気を出せていたら、って。彼女と仲良くしていたら、って。あんなにも追いつめられていただなんて、知らなかったんです。もしかしたら、私があの時、堀本さんの味方になっていたら、結果は変わっていたかもしれないのに」

 彼女のその言葉に、抱いていた違和感がだんだんと、自分の中で形になっていく。

「三島さん……彼女は、堀本さんはどうなるんですか? どうにかならないんでしょうか? 彼女が何も悪くない、だなんて言いません。ですが、私たちにも責任の一端はあります。見て見ぬふりをしていた私たちにも。どうか、どうか、彼女に、やり直すチャンスを与えてはあげられないでしょうか?」

 ふっ、と。その瞬間に全てが分かったような。あの時、かなみが言っていたことも、少しだけ理解できたような気がした。

「そうだ、確か、いま堀本さんと面会、していらっしゃるんですよね? もしよかったら、ですが。彼女と会わせてはもらえないでしょうか? 勇気が出なかった私を。彼女のために何も出来なかった私を。直接、彼女に謝らせて……」

「ずるい人」

 自分が意識していたよりも、ずっと低い声が出た。目の前の彼女は、さっきの素っ気ない返事をした時とは比べ物にならない、驚いた表情へと変わる。

「……え?」

「ごめんなさい。もう、お話は結構です。ありがとうございました。色々と、参考になりました。それでは」

「な、何ですかそれ? 私は、堀本さんのことを心配して言っているのに」

「ううん、もう分かったから。ありがとう。ごめんね、大人げなくて。でも、本当にもういいの。あなたが悪い、ってわけじゃない。私が悪いから。だから、気にしないで。うん。そうね。何も、あなたが気にすることなんて。何一つないから。気に病む必要も……いえ、気に病む権利なんて、あなたにありもしないから」

 そういって、さっと鞄を持って立ち上がる。

「いくらなんでも、あんまりじゃないですか? わざわざ呼んでおいて、話をさせておいて。大人として、とかじゃなくて、人として、その態度はどうなんですか?」

「だから、ごめん、って謝ってるでしょ。大人げないのは、自分でも分かってる。お金はここに置いていくから、ゆっくりしていって。気にしないでいいから」

 そういって、財布から千円札を取り出して机の上に置き、そのままその場から立ち去る。

「そうだ、最後に一つだけ」

 呆然としている彼女の隣を過ぎようとして、足を止めた。一つ、一つだけ、言いたいことがあったから。

「仮に、あなたがかなみと仲良くなっていたとしても、結果は変わらなかったと思う」

 川田さんは、不満を隠そうともしない表情で私を見つめる。

 私は、無表情のまま。何の感情も乗せずに。

「だってあなた、吐き気がするほど“いい子”なんだもの」

「そ、それってどういう……」

 彼女の言葉を最後まで聴かずに外へと出る。

 折角の部長の厚意に悪いことをしてしまった。よくよく思い返してみると、もっと他に対応もあっただろうに。美徳だとは言われたけれど、もう少し、後先を考えられるようになった方がいいのかもしれない。

 まだ少し痛む頭で、とりあえず、気が重いけれど、今日のことは謝っておこうと、痛いほどの日差しに目を細めながら、職場へと向かった。





「かなみは得意科目ってあった?」

「得意科目ですか? 国語はそれなりにできたと思います。あと美術も」

「その二つは好きだった?」

「はい。元々本を読むのは好きでしたし、絵を描くのもそうですね」

「そうなんだ。私は読書ってちょっと苦手なんだよね。体育とか、体動かしてる方が好きだったかな」

「……そうなんですか」

「あ、もしかして今見たまんまとかそんなこと思ったでしょ?」

「いえ、全然そんなことは……ほんとのこというと、ちょっとだけ」

 そういってかなみは少し笑う。初めて会った時よりも、笑う回数が増えたような気がする。

「失礼しちゃうわ。なんてね、冗談。好きな本のタイトル教えてよ。面白そうだったら、今度読んでみるから」

「それは全然かまわないですが……」

「どうしたの?」

「その……なにか、あったんですか?」

 なんだかよく分からない、といったような表情で私を見る。

「……やっぱり変かな?」

「い、いえ、変というほどでは。ただ少し気になるというか、どうして急に?」

いきなり自分のことを、それも事件とは関係ないようなことを質問されて戸惑っているのだろう。

「急に、というか……」

 きっかけは、この間の川田さんとの一件。私は、とにかくかなみのことを知りたい、と感じた。上手く言葉にはできないけど、とにかくそう思ったのだ。

 ただ、このことを伝えるには川田さんの名前を出さなくてはならない。もちろん、彼女の名前を出さなくてもいいとは思う。だけど、それは、なんとなくだけど、いけないことのように思えて。

「実はこの間、川田さんに会ってきたんだけど」

「川田さん……あぁ、川田さんですか」

 思っていたよりも、だいぶそっけない反応が返ってくる。考えすぎだったのだろうか。

「彼女がどうかしたんですか?」

「少し話を聞いてこい、って部長に……上司の人に言われてね。私もいい機会だと思ったから会ってきたんだけど」

「そうでしたか」

 本当に、なんでもないかのように答える。やっぱり、私の考えすぎだったのだろうか。ただ、予想外すぎる反応で、少しだけ戸惑ってしまう。

「う、うん」

「どうかしましたか?」

「一応学校のことだし、嫌がるかなと思ったんだけど……」

 そういうと、彼女は少し考え込む様子を見せたが、すぐになるほどと合点がいったようだ。

「だから言いづらそうにしてたんですね。全然、平気ですよ。だって私、悲劇のヒロインなんかじゃないですから」

 かなみはこともなげにそういう。むしろ、楽しそうな声音で。今度は少しどころではなく、完全に面喰ってしまった。

「……あれ、面白くなかったですか?」

「面白いって、そもそも笑うところだったのか疑問なんだけど」

「そうですか? ふふ、とにかく、気にしないで大丈夫ですよ」

「それならいいんだけど」

 とは言いつつも、やはりなんだか釈然としない。そのなんだか釈然としないというのが、自分の中でも上手く消化ができないからこそ、もやもやが余計に溜まっているんだろうけど。

「……三島さん、もしかして誤解していませんか?」

「誤解?」

 あれこれ考えていたのが顔に出ていたのだろうか。それにしても、誤解とは一体どういう意味なのだろう。

「私、誰も恨んでなんか、ないですよ。だって、恨みたい人は、私が殺しちゃったんですから」

 突然のことで、少しぎょっとしてしまう。一方のかなみは、私とは対照的になんでもない風に見える。

「私ね、いろいろ考えたんです。たくさんのことを。考えても見てください。衝動的に3人も、殺せるわけがないでしょう? 私は最初から正気でしたよ。凶行なんかじゃないです」

 淡々と続けるその言葉から、悲壮感は全く感じられなかった。

「だから、三島さんは誤解してるんです。私は、全然普通なんかじゃないです。だって、普通の子は殺人なんてしないでしょう? それにもう、終わったことです……いいえ、私が全部終わらせてしまったんです。だからね、三島さん。私は、悲劇のヒロインでいられなくなってしまったんです」

 そこまで聞いて、ようやく彼女の言葉の意図が分かった。つまり、というかかなみはずっとそうだった。そしてもう一つ分かったことがある。

「……うん、誤解なんてしてないよ。だって、かなみはいい子だもの」

 さっきまで淡々と、全くなんでもないかのようだったかなみの表情が、少し変わる。

「まだそんなに長い付き合いじゃないけどさ。でも、私は確信を持ってそう言えるよ。ただ、ちょっと上手くいかなかっただけなんだよ。もしかしたら上手くできたかもしれないけど、でもかなみも言ったでしょう? もう終わってしまったことだ、って」

「でも、いい子は人殺しなんてしません」

 いつもの、どこか余裕があるような感じではなく、語気を強めてそういう。

「そうかもしれないけど、それはかなみの意見でしょ? 私は、なんて言われてもかなみのことはいい子だと思ってるから」

「…………」

 大人の大人らしい大人げない意見に言葉もないのだろう。愕然とした表情で私を見る。

「でも、いい子だけど……だから、なのかな。自分が全部悪いだなんて、そんな風に思うのは傲慢だよ」

「傲慢って、どうしてですか? だって、私が悪いのは事実じゃないですか」

「違うよ。さっきも言ったでしょ? ただ、ちょっと上手くいかなかっただけなんだって。別に、全部を自分以外のせいにしろって言ってるわけじゃないの、分かってるでしょ? ただ、全部自分がだなんて、そんな都合のいい話はしちゃいけない」

「……分かりません。私には、三島さんが何を言ってるのか、分かりません」

「本当に?」

 そういうとかなみはうつむいて、ぎゅっと唇を、ともすれば血がでてしまいそうなほど強く噛みしめる。

私は、かなみが顔をあげてくれるのを待つことにした。

 長い、長い沈黙。こんなに沈黙が続くのは、初めて会った日以来だろうか。あの時とは、状況が全く違っているけれど。

「……でも」

 しばらくして、ようやくかなみが口を開く。

「でも、それを認めてしまったら駄目なんです。いけないんですよ」

「どうして?」

「どうして? どうしてって、三島さんはどうして私を否定してくれないんですか。そっちの方がおかしいじゃないですか。私が全部悪いんです。それでいいじゃないですか」

「よくないよ。それに、私は何も行為自体も悪くないって言ってるわけじゃない。もちろん、それはいけないことだよ。ただね、確かにそのこと自体は悪かったかもしれない。だけど、それをするまでがあるじゃない。だからその、行為の責任はかなみにはあって、だけど動機の責任はかなみにはなくて……ごめん、上手くまとまってないね」

「いえ、言いたいことは分かります」

「そう? それならよかったけど」

 上手く伝えられるか不安だったけど、というか本当は上手く言葉にできた自信も、まとめられた自信もないんだけど、伝わってくれたのならよかった。

「でも仮にそうだとしても、同じことです」

 と思ったのもつかの間、今日のかなみはやけに強情だ。それとも、私が知らなかっただけなのだろうか。

「違うよ」

「同じです」

「違うよ」

「同じです」

「違う」

「……っ」

 無言で見つめあう。多分、どちらが正しいということはないのだろう。それでも、私は退くわけにはいかない。ここで退いてしまったら、今まで考えてきたことがすべて無駄になってしまう気がしたから。エゴ、なのだろうか。

「……私は、三島さんの言葉を受け入れるわけにはいきません。受け入れてしまったら、私は……私は……っ」

 そこで言葉を切る。悲痛な面持ちの彼女を見ていると、一体私はその先の言葉を聞いていいのだろうかと不安になってしまう。それでも、かなみのことを知ろうと決めた。だから、私にできることは、ただ待つことだけだ。

「……ごめんなさい、少し取り乱しました。でも、もう平気です」

 かなみは、その先の言葉を飲み込んでしまった。精一杯の笑顔とともに。私には、その先を聞く権利がないということなのだろうか。それとも。

「ねぇ、そんなに私は頼りないかな」

「そういう訳じゃないんです。ただ、ただ私は……」

 そこでまた、言葉を切ってしまう。

「……そうだ、大分話がずれちゃったけど、私がかなみのことを聞いた理由」

「はい?」

 かなみにとって予想外だったのか、素っ頓狂な声をあげる。

「そういえば、最初の話はそうだったよね。うんうん。それでね、川田さんと話したとき、まぁ内容はほんと大したことなかったんだけど、彼女と会って話して、私あなたのことを知らなきゃいけないって……ううん、知りたいと思ったの。って、これじゃ理由になってないかな。とにかく、知りたいと思ったの。だけど、だけどさ、私は結構なんでも喋っちゃう方だから余計に分からないのかもしれないけど。でも言葉にしてくれなくちゃ分かんないよ。かなみが何を思ってるのか、何を考えているのか。話せないことなら、話したくないことなら、ちゃんとそう言ってくれないと、私には分からないんだよ」

 これが、今できる精一杯の言葉。少し、ずるい言い方をしてしまったような気もして、罪悪感。だけど、それでも、言葉にしなきゃ伝わらないから。それが、たとえ届かなかったとしても。

「……ありがとうございます。でも、ごめんなさい」

 ダメ、だったのだろうか。

「私は、やっぱり甘えるわけにはいかないんです」

「甘え?」

「だって、どこまでいっても私は人殺しなんです。そんな人が優しい言葉をかけてもらう資格なんて、私は、私には、どうしても許せないことなんです。だから、ありがとうございます。でも、ごめんなさい」

『どうして』

 そう言いたいのを、必死に堪える。だって、そうだとしても、あなたが悪かったのは、あなたが間違えたのは。

「そ、っか」

 違う。全然、納得なんてしていない。私は、ただ私は、あなたに――

「だからその、三島さんが頼りないとか、全然そういうわけじゃないんです」

「うん、分かったよ」

 そういって、ぐいと一息に紅茶を飲み込んだ。もうすっかり冷めてしまっていたから、今の私にはちょうどいい。

「あ、気づかなくてごめんなさい、新しいの淹れましょうか?」

「じゃあお願いしようかな」

 そういって手際よく準備を始める。私はそれを眺めながら、ふと最初に聞いた言葉を思い出した。

『私ね、もう、死んでるんです』

 今なら、かなみの言っていたことが分かるような気がする。本当なら、思い切り否定してやりたい。だけど、今の私にはそれができないのが無性に悔しくて。

「そういえばさ」

「なんですか?」

 無理矢理に話題を出す。そうしないと、ずっと囚われてしまいそうだったから。

「どうして私だったの?」

 とはいえ、これも純粋に気になっていたことで、私の記憶が正しければ、かなみからの希望で、ということだったはず。最初は聞く気もおきなかったし、そのあともなぁなぁで済ませてしまっていたが、よくよく考えるとすごく不思議だ。

「理由ですか?」

「うん」

「別に、大した理由があるわけじゃないんです。ただその、三島さんって親戚のお姉さんに似てるんです」

「……それだけ?」

 はい、と頷く。

「なんとなく、カウンセラーの先生、というのは気が引けてしまって。だから、たまたま見かけて雰囲気が似てた三島さんにお願いしてみたら、案外あっさりといってしまったんです」

「……なるほどね」

「何か心当たりでもあるんですか?」

「うーん、まぁその、ないわけでもないかな」

 後日問いただしてみるとオーケーを出していたのは部長だと判明した。なーにが上の人間にだ。結局全部部長の責任だったんじゃないか。とはいえ、ほんの少しだけは感謝している。だけど、私は諦めが悪いのだ。だからしこたま文句を言ってやることに決めた。お礼を言うのは、それからでも遅くはないだろう。

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