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色々。

付き合ってない二人の話。

作者: 花菱。


 貴方、遠距離恋愛なるものを知っていますか?

 突然このように言われて驚きましたか?そうでしょうね、見たらわかります。別に驚かせたかったわけではありませんよ。

 遠距離恋愛とは、二人の気持ちがずれ始めたら一気に御終いを迎えてしまう恐ろしいものだと私は考えています。そのようにホラーなもの、どうやって自分から進んでやろうという気になるのでしょうか!私には考えられませんわ……。


「ねぇ、貴方もそうでしょう?」


 そこまで一息に言いきった先輩は若干肩で息をしながら俺の方を振り返った。長くて真っ直ぐな黒髪がバサバサと揺れて、まるで何かの芸術作品のようだ。


「全然思わねっす」

「どうしてかしら!?私の話を聞いていまして?!」


 まぁ、それとこれとは別ってことだよ、うん。

 今回の先輩のヒステリック、何が原因かって他の誰でも無いこの俺だ。俺が安易に、先輩、俺留学するんすわ、なんて言ったらもう大変。あと、俺達付き合ってたっけなぁ、たぶんまだ付き合ってないんだよなぁ。俺は先輩のことが好きだから別にいいけれど、俺以外にやったらドン引かれるぜ、やめとけよ。むしろ俺以外の男を見るな。

 なんて思っているうちに先輩のヒステリックはどんどん悪化していく。最早これは動物園のサルとそこまで変わらない周波数を叩き出しているんじゃないだろうか。……喉大丈夫か、この人。


「ちょっと!聞いていますの?!」

「ああはい、なんだっけ、俺もゼリーよりはヨーグルトのが好きっす」

「そんなことは話していません!いつ誰がどのタイミングでゼリーとヨーグルトどちらの方が好きかなんて話を出したんですの!?」

「でも先輩も好きでしょう?ヨーグルト」

「私は!プリン派だと!何度言えばわかるんですの!!」


 はは、顔真っ赤だ。いつか倒れるんじゃねぇの、先輩。俺の前だけにしてね。あとプリンはカロリーやばくねぇか?あんた、この前体重がどうのこうのブツブツ言ってたじゃないか。俺も手伝うから無理するなよ?プリン、今度駅前のたっかいやつ買ってきてやろうな。


「先輩は面白いなぁ」

「っなんですの!私は、真面目に話してっ……」


 先輩の声のトーンが落ちる。いつの間にか、いつも自信満々な表情貼っつけてる先輩ご自慢の綺麗な顔も下がっている。ありゃりゃ、いかん、やりすぎたか。


「わ、私は、文武両道品行方正です」

「そうっすね、品行方正な人はもっと穏やかに話せると思いますが今はほっときましょうね」

「でも、どうにも出来ないことだって、あります……」

「先輩、知ってますか?本当に何でもできる人は自分で出来るーなんて言わないんすよ?」

「……っ貴方!」

「まあ、だから俺がいるんすけどね?そうでしょう?先輩」

「え……」


 先輩が顔を勢い良く上げる。そぉら、こっからが俺の腕の見せ所でしょう、先輩。ちゃんと聞いてて、俺をもっと好きになってくれ。


「あんたが出来ないことあるから、俺がいるんですって。あんたの苦手教科、全部俺の得意教科なの知ってます?プリンが一番好きなのも知ってます。実は今日も買ってきたんすよ?ねぇ先輩。あんただけが寂しいと思ってます?あんただけに俺が任せると思ってます?俺、今までそんな風にしましたか?あんたの横で何もせずに突っ立ってるだけでしたか?」

「い、いいえ……」

「じゃあ、俺が遠く離れたとこにいても、いいじゃないっすか。俺とあんた。どっちも頑張りゃ何とかなりますよ、きっと」


 俺がそう言うと先輩はあからさまに表情を明るくして、また何かよくわからないことを言いながら両足を交互に上げたり下げたりしている。楽しそうで何よりだが、こんなに簡単だと流石に心配になる。それは今後の課題、かな。

 さて、じゃあ、ネタバラシといこうか。


「で、先輩」

「なんですの?今貴方が向こうにいる間の一ヶ月ごとのスケジューリングを……」

「今日、何日かわかります?」

「今日、ですか?今日は、四月の、一日です、け、ど……」


 先輩の顔がサーッと青くなる。そしてまた赤くなる。カラフルだなぁ。そんなに色変えたら疲れないか?


「あ、あ、貴方、もしかして……!!」

「エイプリルフールは騙すか騙されるかの戦なんすよ先輩?ちゃんと覚えましたか?」


 肩がわなわな震えているから、きっとそろそろ怒りだすだろう先輩に、俺は微笑んで、用意していたセリフを言った。


「先輩って、怒っても可愛いっすね!」

「ふざけないでくださいましーっ!!」


 俺が言ったのとほぼ同時だったろうか、先輩が叫んだのは。ああ、先輩は今日も元気だなぁ!


「貴方何を考えているんですの?!私を馬鹿にしているんですのーっ!?」

「ハッピーエイプリルフール!先輩、俺がどっか行かなくて良かったっすね」

「ふざけないでくださいまし!許しませんわ!」

「まあまあ、プリンでも食べて落ち着いてくださいよ」


 ギャンギャン言い続けている先輩は五月蠅いことこの上ないけれど、しおらしくしているよりはずっといい。プリンをさり気なく差し出しておくと取られた。こういう時も食い意地はってんの、嫌いじゃないぜ。


「これからもよろしくお願いしますね、先輩」


 先輩の五月蠅い声にかき消されるくらいの声でそっと呟く。安心してくれよ、まだ離す気なんて無いさ!


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