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ストローハット  作者: くろうさぎ
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2/2

gate

ボロボロになった麦わら帽子の中でうずくまっていた子猫は、かすかに息をしていた。


どうしていいかわからず、しばらく立って眺めていた。しばらくといっても、恐らくそんなに時間は経っていないと思う。

こんな寒い中で、震える体力もなく、タオルに身をゆだね、ただ息をしているだけ。

動物を飼ったことのない私でも、見てわかるほど痩せている。


わかってる。


そのまま見捨てて家に帰るか。


家に連れて帰るか。


親はなんと言うだろうか。


怒られるだろうか。


色々考えた私は、そっとボロボロの麦わら帽子を持ち上げた。膝に抱えてしゃがみこみ、ポケットからカイロとハンカチを取り出した。

ハンカチでカイロを包み、子猫とタオルの隙間に入れる。


家に連れて帰れない。


連れて帰れば間違いなく怒られるだろう。

そして戻してこいと言われるだろう。戻しに行くというのは、今私が想像している以上に心が苦しいはず。そんな苦しみを味わうくらいなら、連れて帰らなければいい。私に助けなければいけない義務などない。


そう心で思いながらもそのままにしておくことはできず、せめてカイロで暖まってくれればとカイロを挟んだ。


「ニイ・・・」


微かに子猫が鳴いた。

なんだろうこの気持ち。



耐えられず、私は子猫を連れて帰ることにした。


・・・時間が経ってしまった。

早く帰らないと。


子猫を麦わら帽子ごと抱え、私は帰宅した。


ガチャっ。

「ただいま」


「あー、ナズミおかえり。」


玄関のドアを開けると、廊下に兄が立っていた。


「ただいま・・・なにしてたの?」


兄が手に持っていたノートパソコンをみるあたり、リビングで寝っ転がって動画を見ていたのがわかる。いつもそうだ。


「ん?リビングで動画みてたよ。」


そう言うと自分の部屋に戻っていった。 私が兄のパソコンを見るように、兄も私が手に持っていた麦わら帽子を見て、なにか聞きたそうだった。


歳が1つ上の兄の名は「伊規須(いぎす) 尊生(とうき)」

成績優秀、スポーツ万能、ルックスは申し分ない、趣味はゲームの動画鑑賞。


トウキも私も根っからのオタクだ。アニメというよりは、ファンタジー系のゲームオタクだ。


でも学校ではそんな事は言わない。


トウキも言っていない。お互い学年で1番頭が良く、スポーツ万能。私はともかく、ルックスがいい。よく居る「なんでもできる人」というやつだ。


違うのは、トウキは明るく友達も沢山いる。

私は内気であまり喋らず、友達がいない。

話せばいいのだけど、どうしても人前だとこわくて、両親の前でも口篭る。


それ故、両親は兄ばかりを可愛がる。小さい頃からそうだ。誰からも慕われる存在であれ、それが両親の口癖。慣れている。それでも、兄は私に優しいし、両親が私に厳しく当たる中、とても気にかけてくれる。



玄関で靴を脱ぎ揃え、麦わら帽子を持ったまま洗面所に行き、手洗いうがい。小さい頃からの日課というか、親にそうしつけられている。


お風呂場でお湯をだし、子猫を洗ってあげた。

黒い子猫だった。肉球まで真っ黒。

真っ黒なからだに、抹茶色の目。

タオルでよく拭いて、抱えてキッチンへ。


猫用のミルクなんて生き物嫌いの親が買っているわけもなく、ネットで調べて牛乳に手を加えて与えた。

飲んでくれるか心配だったが、すぐに飲んでくれた。そのまま寝てしまったので、その間にわたしは家事を済ませ、明日のテストに備えて勉強を始めた。




ガチャ。

夜8時。

両親が帰ってきた。仕事で疲れている顔をしている。毎日だから大変なんだろう・・・。


「「おかえりなさい」」


私が言うと同時に、兄も2階からおりてきて両親にいった。


「ただいま」

そう両親はいったが、私の方ではなく、兄の方を見ながらいった。



もう気にならなくなった。私の出来が悪いのがいけないのだ。


両親、兄、私の4人で夕飯を済ませ、私が最後にお風呂に入る。


食事中、テストのことを母に聞かれた。


「テストはどうだったの?」


「俺は問題ないよ」


母はつぎに私を見た。あなたはどうなの?と言いたいのだ。


「わ、わたしも大丈夫・・・とおもう・・・」


やってしまった・・・。どうしてもスムーズに話せない。


「しっかりしなさい、テストなんかで落ちこぼれていてはいけません。あなたの将来がかかっているのよ。」


そんな私と母のやり取りを見て父は、


「まぁトウキがしっかりしているから問題ないんじゃないか。」


それは私に対する庇いや慰めではなく、兄の成績がいいから兄の話をすればいいという一言。

子供の能力も、親のステータスなのだ。親同士の自慢の為のネタでしかない。

親が立派であれば、子も立派でなくていけない。

いつものことだ。


いつも通り、何も変わらない日常。


変わったのは、こっそり私の部屋に子猫を隠していること。


バレませんように。


そう祈りながら夜を過ごした。


夜12時。

親が寝て、わたしも明日のテストの為に寝なければと布団に入った。

子猫は机の上にひいてある毛布の中で寝ている。

ふと、名前何にしよう・・・と考えた。


チラっと目線をそらすと、部屋の床においてある麦わら帽子。

コムギ。


そう直感した。でも子猫に勝手に名前をつけていいのか・・・。


試しに呼んでみた。


「コムギ・・・。」


返事はない。それもそうか。わかるはずがないから。

そんなことを考えているうちに、わたしはいつの間にか眠っていた。


夜中の3時。

時計の針が12と重なったと同時に、私は目が覚めた。


「・・・ん?」


お腹に重みを感じる。

くらい中、目を凝らしてみる・・・。


子猫がじっとこっちをみていた。

抹茶色の瞳に吸い込まれそうだった。


布団ごと子猫を抱え、ベットに置く。私はベットから出ると、キッチンへ飲み物を飲みに行こうとした。

部屋のドアを開けた瞬間、足元を黒い塊が通り過ぎた。子猫が部屋を出て1階へ駆け下りる。

音は静かだが、すごいスピードだ。


わたしは焦り、慌てて階段を降りる。

子猫はまっすぐキッチンへ向かった。・・・おなかすいたのかな、とわたしは呑気に考えていた。


キッチンの戸棚の前に子猫は座っていた。鳴くわけでもなく、ただこっちをすわってみている。


「おなかすいたの・・・?」


私がそう声をかけると、子猫は戸棚の扉をカリカリと引っ掻いた。


んー・・・そこには乾物しか・・・あ、ニボシあるよ・・・と独り言をいいながら、戸棚を開ける。


キッチンの電気はつけていなかった。

窓から入る月の光で明るいからだ。


その光を暗いと思わせるぐらいの紫色の光が、私を驚かせた。


扉を開くと、乾物が置いてあるのがいつもの光景。その乾物の袋と袋の間に、奇妙なものが挟まっていた。


何かの機械のパーツのような、手のひらより少し大きな鉄の塊。鉄の塊と言っても、幾何学模様が刻まれていて綺麗だ。真ん中から紫色の光が溢れている。


驚きすぎて声も出なかった。

そんな私を子猫はじっと見つめていた。

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