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1、終学式の日

いろいろ変更して再投稿。

「それじゃあホームルームを終わる。この休みは次の学年への準備期間だ、怠けて過ごさないようにな。」


 担任がそう告げ、周りが騒がしくなると同時に帰りの準備をし始める。通知表やプリント類、学校に残していた教材などでバッグの中身は登校時よりも少し重くなっている。今日は3月25日。終業式が終わり、これからしばらくは短いが春休みだ。しかし春休みは春休み、どこかへ出かけようか――などと考えながら帰りの支度をしていると、声をかけられた。


「かなめ、一緒に帰らないか?」


 振り向くと、そこにいたのは親友、北山(きたやま)伊澄(いずみ)だった。


「イズミか。部活は?」


「今日は終業式だから無いんだよ」


 伊澄は男子テニス部に所属している。1年前にオレがこの町に引っ越してきた時、最初にできた友達が伊澄だった。


「なるほどな。じゃあ早速帰ろうぜ」


 そう答え、丁度荷物をまとめ終えたオレは伊澄と共に教室を去った。 




 玄関を出ると、春先のやわらかい日が出ており、涼しい気温と合わさって丁度よい空気となっていた。桜の木にはつぼみが開きかけている。次に学校へ来る頃には満開の花が咲いていることだろう。


 そんな中、伊澄と軽く雑談しながら歩いていると、校門のあたりで


「春休み中にどこか行かないか?」


 と、伊澄が切り出してきた。


「2人でか?」


「ああ、秀斗と豊は部活で忙しいらしい」


 秀斗(ひでと)(ゆたか)とはいつも行動を共にしている別の友人たちである――そこにオレと伊澄を合わせれば、所謂いつメンという奴になる。


「まあ、剣道部は厳しいからな。テニ部と違って」


 ウチの高校の剣道部は強いことで有名だ。その分大変らしい。ちなみにオレはどの部活にも入っていない。


「うるせー! 帰宅部のかなめにそれを言われたくないぞ。それで?どうするよ」


 言葉の仕返しとばかりに小突いてきながら伊澄が再び問いかけてきた。


「痛いじゃないか――そうだなあ……イチゴ狩りにでも行こうか」


「かなめがイチゴ好きなのは知ってるけど、何が悲しくて男2人でイチゴ狩りに行かなきゃならないんだよ……」 


「いや、さすがに冗談だけどさ」


 イチゴはオレの大好物だ。しかし、オレ自身も男2人で行く勇気は元よりなかった。




 しばらくそんな他愛もない話をしながら、結局どこへ行くかも決まらないまま歩いていると、伊澄の家との分かれ道にたどり着いた。


「確か」


 と伊澄が立ち止まる。


「かなめと最初に会った場所はここだったよな。」


 オレも去年のことを思い出して伊澄の横に並んだ。


「そういえばそうだったなあ。あの時は急いでてお互いこんなに仲良くなるとは思ってなかったな」


 1年前、授業初日から遅刻しそうになっていたオレと伊澄は、角から飛び出してきたお互いに気付けずぶつかってしまったことがあった。それがオレたちの最初の出会いであった。


「ほんと、でも男とあんなシチュエーションになっても全く嬉しくなかったぞ」


「それはこっちのセリフだっての」


 そう言って笑いあった。出会ってからまだ1年しか経っていないが、オレたちは気兼ねなく冗談を言い合える仲になっていた。


「じゃあかなめ、俺はこっちだから」


「おうイズミ、2年生からもまたよろしくな!」


 そうしてそれぞれの家の方向へ歩いて行った。







「あれからもう1年経つのか……」


 伊澄と別れた後、信号を待ちながらオレはこの1年間のことを思い出していた。


 オレは1年前、高校入学と同時にに別の町からこの町に引っ越してきた。誰も知り合いのいないこの場所で、初めてできた友人だった伊澄はオレにとって大きな存在だった。入学式の次の日、同じクラスで朝にぶつかった相手だとわかった後は、互いの趣味が似ていたこともあってそのまま意気投合したのであった。


そんなことをぼんやりと考えながら歩いていた時、ふと中学生くらいの男の子――着ている制服からして恐らく近くの中学校の生徒だろう――が目に入った。じっとスマホに夢中になっているその姿を見て、大人げなく悪戯心がうずいてしまった。


 オレは隣にいる中学生を横目に、さも信号が変わったかのようなフリをして2、3歩歩いてみせた。すると、狙い通り中学生も歩きだす。あとはこの中学生が信号に気付いてびくりとすれば悪戯は成功――のはずだった。中学生は赤信号に気付かずに、そのまま道路へ出てしまう。



 --ッ



 まずいと思った瞬間、クラクションのけたたましい音が鳴った。目を上げる中学生。迫る銀のトラック。


 オレはとっさに走り、その中学生を引き戻した。代わりに自分が前に出てしまう。後のことは考えていなかった。


  


 吹き飛ばされた体が強く地面に打ち付けられる。体の感覚がない。残っているのはコンクリートの感触と、全身から来る鋭い痛みだった。目を開けると先程の中学生がスマホを使い、慌てた様子で119番へ通報してくれているようだ。


 頬をつたう涙に気付いた。それは痛みによるものでは無く、後先を考えなかった愚かな行為を後悔する涙だった。オレは心の中であの中学生、そしてトラックの運転手に謝った。自分の体から流れ出る血を感じて、オレは――自業自得だな――と妙に落ち着いて自嘲していた。


 次第に落ちてくるまぶたの裏に、走馬燈のように駆け巡り巻き戻るように映る記憶を懐かしいな、などと思いながらオレの意識は暗闇の中に消えていった。







 …………「っ!」


 目を開けるとそこはベッドの上だった。体に少し違和感があるが、痛みは感じない。横にはいつも朝お世話になっている目覚まし時計が置いてある。周囲の家具からしても、ここはどうやら病院などではなく自宅であるらしい。


「……確かさっき、ん?」


 オレは顔にかかっていた髪を払い、体を起こしながら先程あったはずのことを思い出そうとした時、異変に気付いた。


「あー、あ。うーん?声が――」


 声が変に高いのだ。上ずっているようでもない。嫌な予感がし、体にあった違和感を確かめるべく顔を下に向けると、いつも着ているものとは違うピンク色の寝巻きとそれを押し上げるふくらみが目に飛び込んできた。


「どうなってるん、だ?」


 チラリと目の端に動くものが映った。目を向けるとそこにあるのは何の変哲もない姿鏡。本来ならそこには自分の姿があるはずだった。



 しかし、そこに映っていたのは記憶にある自分の姿ではなく――



 ――見慣れぬ少女の姿であった。



更新はかなり遅くなると思います。

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