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アルヒノ大陸 8/1 1-2

 俺の目の前に突然現れたのは、赤とピンクを混ぜたような基調のワンピースに、白いリボンのワンポイントや同じく白い布地のレースの下地が裾から見え隠れする服を着た女の子。

 少し垂れ目ぎみだが、くりんと丸みを帯びた大きな瞳。

 そこから伸びるくっきりとした鼻立ちに、桜色の唇、その全ての可愛らしさを柔らかそうな栗色のショートカットの髪が包み込みんでいた。

 歳は……12歳、13歳くらいだろうか。

 ぶっちゃけ言えばお金を払わなければ見てはいけないのではと感じてしまう程の――


「なんという……可愛さだ。」

「えっ!? あ、あた……し、可愛いですか?」

「滅茶苦茶可愛い。」

「あっきー!! 一体誰だよその子!?」


 俺の左手を掴んで揺さぶるみっきー。


「知らん。」


 そんな風に幼女の手で可愛く揺さぶられても知らんものは知らんのだ。

そうはっきりとみっきーに向かって言い返した俺。


「「えっ。」」


 その俺の答えは意外だよ、と、二人は呆けて俺を見る。


「えっ。 いやマジで知らないんだけど。」


 俺の方が意外なのだが、まるで俺の理想の女の子が具現化したような可愛い子の事を……俺が知っていなければおかしいって事か? だが、確かに彼女は俺の名前を呼んだのだし、少なくとも彼女の方は俺の事を知ってるって事か?

 

「あっきーさん……あたし……またあっきーさんに会えて……まるで夢みたいなのに……。」


 俺が彼女を覚えて居ないのが心外だと言わんばかりに目に涙を滲ませる女の子。 ときめく俺34歳。

 俺の方が君みたいな美少女に会えるなんて夢のようなのだが……それはみっきーが居るから言わない。


「すまないがお嬢さん。 君と何処で会ったのか教えて貰えないかな?」

「あっきー喋り方キモいんだけど!」


 速攻でツッコミを入れて来るみっきー。


「黙ってろ少年の敵エネミーオブジュヴナイル。」

「何かその通り名カッコいいんだけど!」


 ふん、と、鼻息を荒く吐くみっきー。 そんな変な名前を気に入るなよ。 根から腐ってんな。


「えっ!? その子、もしかしてとっても危ない子なんですか?」

「……そうだ。 とっても危ないんだよ。 怖いんだよ。 こんな姿形をしてはいるけれど、少年を食いまくる魔女なんだから。」

「少年が好きな人なんですかっ!?」

「ああ! 大好きだ!」


 俺の返事の代わりに無い胸を張って答えるみっきー。

 ぶるり、と、身震いする美少女。

 この世界のみっきーよりは彼女の方が背が大きいのに、妙な構図である。


「いやいや。 少女は食べないから安心して良いぞ。」


 と、俺は自分の目の前で手を横に振る。


「えっ? あたし……え? 何これ!! なんでこんな昔の身体にっ!? しかも何この可愛い服っ!?」


 すると、急にぺたぺたと自分の身体を触り始めた女の子。


「あれ!? ここってもしかしてモンクエ3の世界!? あっきーさんとはPPOしてるんじゃなかったっけ!? それとも夢見てるだけなの!?」

「…………ん? 今なんつった?」


 PPOとは、フェリオスプロジェクトオンライン、所謂MMORPGのタイトルの略である。


「え、いやだから、夢見てるのかなって。」

「いやその前だ前。」

「えっ……いや……その……PPOの話ですか?」


 …………こいつ、どっかで見た事ある。

 と、思ったら、今朝……俺とみっきーを覗いてた女だ。

 だが、俺は今朝会う前に、こいつに会った事があるらしい。

 しかも、PPOの中で、だ。

 あのゲームでここまで親しくした相手と言えば……


「お前まさか……織姫(おりひめ)か?」

「あっきーさん! 覚えていてくれたんですね!」

「いやいやいや。 別に覚えて居たくて覚えて居た訳じゃないんだがな。」

「ひどっ! ひどいじゃないですか! 人間としてあたしを好きだって言ったの、忘れたんですか!?」

「おいおいおい、あっきー。 お前こんな可愛い子とでっかいフラグ立てておきながらモテない光線出してた訳?」

「何でお前が怒り出すのか意味が分からんが、こいつは正真正銘の――――男だ。」

「何バカな事言ってんだよあっきー。 こんな可愛い子が男の子な訳が……。 まさか、あるのか?」

「ああ。 俺も最初に会った時に可愛いと思ってヒャッハーした。 だが……残念な事に男だ。」

「ふーん。」

「いやお前。 ふーん、って、お前の大好きな小学生男子だぞ? 何か思うところは無いのか?」


 逆に食い付いて来るかと思ったんだがな。 こんな可愛い子が女の子な訳があるか! とかさ。


「えっ。 別に無いよ。 可愛いね。」


 全然感情込もってねぇ……。


「何? 何かあたし変な事言った?」

「いや……別に……。」

「あ、もしかしてあたしの反応が薄いのが不満?」

「不満って訳では無いが……。」

「そうだ。 こう言ったらあたしの気持ちが分かるかもな。 あっきーの前に男の子のフリをしてるロりな女の子が居るとしよう。 そして、その子の見た目が完璧に男の子に見えるとする。 何かにょっきり股の所に生えてそうな感じがする。」

「ふむ。」


 ロリという部分に若干引っかかりを覚える俺だが、みっきーの言いたい事を察して想像してみる俺。


「どうだ? 萌えるか?」

「いや。 全然全く微塵も萌えないな。 俺はただの男の子に興味は無いからな。」

「それ逆にしてみ。 それがあたしの気分だよ。」

「……おおっ! すげぇぞ、みっきー! 流石に本当の変態は言う事が違うな!」

「それよりもあんたらは一体どんな関係な訳?」


変態だねという俺の指摘は華麗にスルーして、俺と織姫に説明を求めるみっきー。


「話せば長くなるが……。」



今から約六年前の事。 俺がまだ本社でシステム開発部に居た頃の話だ。

俺にとっては通算五つ目となるMMORPG、いわゆるネットゲーム。

ゲームタイトルは先ほど言ったPPOフェリオスプロジェクトオンライン。 ベータテストが終わったばかりのそのPPOに俺は手を出していた。

 今までのゲームでは魔法職ばかりを使っていた俺だったが、その時ばかりは今までの陰鬱な気分を変える為にも一撃離脱タイプの近接戦闘職を選んでみた。

そして、今回はどうせなら、と、いきなりクラン、ギルド、他のゲームでは一般的にそう呼ばれるプレイヤー同士の同盟にもプレイし始めたばかりだが加入してみることにした。

その俺と時期を同じくして加入したのが……この織姫なのである。


そのネットゲームの基本設定に話は移るが、俺が選んだ一撃離脱キャラと、織姫が使っていた弓職のキャラ。 その二つの職業は、大規模戦以外は『居たら便利だが別に居なくても狩りが出来ちゃう』という、ある意味残念な位置付けなのだった。

しかしその半面、お互い装甲は紙だが攻撃力と速度だけは半端無いので、自分たちよりレベルの低い雑魚を大量に狩るという点においては、二人で組めばヒーラーが要らないという利点はあった。

気が付けばいつも同じ時間に待ち合わせて、お互い寝る時間になるまで狩りをしながらチャットをして……気の置けない関係に二人がなるのに、そう時間は掛からなかった。

彼女とは色んな話をした。 ゲームの話、好きな漫画の話。 更には銃器や戦車の話にまで付いて来た。

さて、銃器に詳しい辺りでちょっと怪しく思わないか? 俺は、思った。

彼女は――実は男なのではないかと。

ちなみに彼女だが、チャットでは絶対に一人称を使わない。 それも俺が彼女が男では無いかと思った理由の一つだが、《僕》や《私》などの一人称の代わりに、自分で構築した文脈で会話を成り立たせていたのだからある意味凄い人物である。

例えば、仮に今日何処に狩りに行くのかという質問をしたならば、


『エリモフ岬付近とか良いんじゃないかな。』


こう返してくる。 これならば確かに一人称は必要無い。

仮に複雑な質問をしたとしよう。 当時の彼(彼女)の勤務先は銀行の窓口業務だったが、今日の仕事はどうだったのかと聞けば、


『そうそう。 今日、結構歳のおじいちゃんが窓口に来たんですけど、その人、身分証も印鑑も無しにいきなり現金を一千万円近く持ってきて、箪笥に入れてたんだけどやっぱり盗まれるのが怖いから銀行に預けたいって言い出したんですよ。 まあ、無理に決まってるじゃないですか。 で、そこで言ったんです。 外回りの人がおじいちゃんの家に行くから、印鑑と保険証を準備しておいてねって。 それから先輩に電話してその人の家に行って貰ったら、おじいちゃんは渡しても居ない筈のパンフレット、投資ファンドなんですけどね。 それを指差して、窓口の人に勧められたって言った後、なんと三千万円分投資したんですよ。 三千万円。 吃驚ですよね。』


実際にこのように返ってきた事がある。 まあ、この場合も一人称は使っていない。

しかも、窓口に居たビジュアル的に魅力的であろう自分のお陰で、おじいちゃんにそのファンドの商品を売っちゃったアピールも入っている。

 普通はここでやっぱ織姫っていう人物は女だ。 そう思うのが大半だろう。

 しかしそこで発動したのだ。 俺のひねくれスキルが。

 これで男だと疑う奴は居ないと思うか? まあ、俺のひねくれ加減も大概だったので、ぶっちゃけ彼女に問い詰めた。

お前の中身は男なんじゃないか、と。 ところが、彼女はあっさりとそれを否定したのだ。



「待て待て。 何でそこで嘘を付いたんだこいつ。」


俺が織姫の中身を疑って問い詰めた下りまで話すと、急に食いついて来たみっきー。


「あたしの身体は男でも、心は女です!」

「だ、そうだ。 性同一性障害というものらしいが、こいつはそういう意味での中身は女かと聞かれたと思ったらしいな。」

「ああ……そうか。 普通のホモじゃないのか。」

「なんでそこでがっかりすんだよ!! 普通のホモって何なんだよ!!」

「あたしにホモを語らせると長くなるが大丈夫か?」

「大丈夫じゃねぇよ。 真顔でほんと何言ってんだお前。」

「あ、あの……それよりも結局ここって何処なんですか?」


祈るように両手を合わせて俺に聞いて来る織姫。


「何も考えるな。 感じるんだ。」


まるで風を感じろとでも言わんばかりにどうでも良い返事を返すみっきー。


「あれ? それで結局二人はリアルで会ったんだよな? なんでこいつが男だって分かったんだ?」

「こいつがカミングアウトする以外判断する事は出来なかっただろうな。 燃え上がった俺は、流されるまま、二人で夜の街に消えていたかもしれん。」

「だからそうなる前に言ったんじゃないですか。 あたしの股にはまだエクスカリバーが生えてますよって。」

「それってファミレスで初めて会う人に言う台詞じゃないよな。 しかも何だよエクスカリバーって。 無駄にでかさを強調されても困るんだけど。」

「あれの別称ってエクスカリバーじゃないんですか?」

「誰だよそんな事教えたの……。」

「小学校の修学旅行の時に、みんなが言ってたんですよ。」

「ん? みんな? ……ああ。 風呂の時間に見られたって事か。 って事はマジででかいのか?」

「女装する時大変だったんですよ。 女物のパンツからだと上か横にはみ出ちゃうんで。」

「普通女性ホルモンとか注射してたら小さくなるんじゃないのか?」


 と、何故かそっち方面の話に詳しいみっきーが割り込んで来る。


「注射を始めたのは中学三年生だったので……少しは小さくなったんですが、元が大きかったみたいで……。」

「ふーん。 どんどん小さくなるもんだと勝手に思ってたけど違うんだな。 そういや、もう手術はしたの?」

「半年前にタイでやってきました。」

「へぇ。 どっちにしたの? 反転式? それともコロン式?」

「反転式だとアレが大きくなりすぎるかもしれないから、コロンにしました……。」


 二人が何を言っているのかさっぱりな俺。 ただ、もう現実の織姫は男では無くなっているらしい。


「……んっ!? ちょ、ちょっと待って。 何か変だと思ったらあたし……。 ぎゃーーーー!!! あるじゃないですか、エクスカリバー!!」


 股のところを触っていきなり叫び出す織姫。


「そりゃ皆昔の身体になってんだからな。 お前も13歳の頃の姿に戻ってるんだろ。」

「滅茶苦茶痛かったんですよ術後! モルヒネ中毒になりかけたんですから!」


 何という生々しい体験談。


「あっきーさんとも折角出来る(・・・)ようになって帰って来たって言うのに!!」

「……えっ。 出来るって……マジで? ……出来るの?」

「子供は作れないですけど……はい。 少し濡れ方が足りないかもしれませんがジェルとか使って貰えれば……。」


 生々しすぎるわ。 色んな二次元のフィルターを総動員しても想像出来ないんだがどうしたらいい。


「良かったなあっきー。 リアルで彼女が出来そうじゃないか。」


 ……いやさ。 色々あったのは分かるよ。 それで性転換したのも分かるよ。

 しかも多分だけど俺の為に頑張ったってのも伝わるよ。


「結構……可愛い女の子の形に、頑張ってしてもらったんですよ……。」


 そ、それは確かに大変だったのかもしれないし、可愛く仕上がったのかもしれないが、本物を生で見た事が無い俺がその違いが分かると思うかい?


「ううむ……。 高かった?」


 取り敢えず値段だけ聞いてみた。


「80万くらいと親子の信頼を失いました……。」


 おおう……。 結構重い……。 値段よりも信頼が重い……。


「この夢が現実に続いてるなら明日、ってか今日か。 覚えてるならコンビニで会うか。 それともPPOにログインした方が良いか?」

「リ、リアルでお願いします!」

「お、おう……。」


 内心、かなり複雑な気分だが、今朝も本当は俺に話しかけたかったのだろう。

 それを全く気付かずにスルーしたのは少し悪いと思ってる。

 そういや、PPO時代の織姫だが、絶妙なところで入る追撃や一歩自分が引いた時のカウンターなんかは、それを狙ってるかのように入れて来るんだよな。

 だのに、エクスカリバーの一件で5回くらいやりとりした後に音信不通になるとか、俺の方が矮小な感じがするな……。

 にしても、本当にエクスカリバー取っちゃったのか……。 思い切ったなぁ……。


「ちょっとその13歳のエクスカリバーあたしに見せてくれよ。」

「は? みっきー。 何言ってんだお前。」


 明後日の方向から信じられない発言が飛び出した。


「13歳の生エクスカリバー。 将来切り取られる前に見てみたいじゃないかっ!!」


 な、生ってお前……。


「こ、困りますよ……。」

「どうせ切り落とすんだろ? ちょっとくらい良いじゃねぇか。」

「舐めたりします?」

「し、した方が良いの?」

「みっきーやめろ。 目が少年を貪る目になってる。」

「見せるだけなら……構わんだろ?」


 俺は織姫の目を見た後、仕方無いから少し見せてやれと目配せしたのだった。


 ◇


「あっきー。 大人のあたしでもあれが入んないのだけはわかったわ。」

「お前いつもぶっちゃけすぎだからな!!」

「小指で勘弁して欲しい。」

「大人のお前の図体でなんで小指サイズが限界なんだよ!!」

「実は結構小さい……って何言わせんだこの変態!!」

「お前が言い出したんだろうが!! おい。 俺はもう寝るからお前らあっちいけ。」

「……あっちってどっち。」


 みっきーの言葉で初期村を見渡す俺。 まあ、休むと言えば宿屋しか無い訳だが……。


「あー。 もう良い。 マッサージでもして寝るか。 お前らは別の部屋で寝ろよ。」


 しっしっと、手で二人を払い除けながら宿屋に向かう俺だった。

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