アルヒノ大陸 8/1 1-1
小学生の時、俺は結構詩人だった。
中でも俺は、自分の孤独を詠うのを好んで居た。
秋の風、ぴゅうぴゅう吹いて、僕一人。
つむじを巻いて巻き上がる枯れ葉達。 なんだか家族のようだ。
でも僕は一人で歩く。
この先に何があるのか、僕は知りたいからだ。
この一節からお分かり頂ける様に、孤独な俺、カッコ良い病に掛かって居たのであるが、今思い返せば、お前はそんなに独りでどこに行って何を知りたかったんだよ、と、ツッコミ所が満載の詩な訳だが、実は先生方から高評価を受けて居たのが不思議である。
さて、俺が今何を言いたいかと言うと……。
「なんだってんだ……これは。」
そう。 俺はこつんとゲームのカセットを小突いただけなのに、またもや一人で夢を見て居る。
や……夢ってか、現実にあり得ないだろ。
カセットに触ったらゲームの中に入っちゃった?
耳を大きくするマジックじゃあるまいし、そんな事を真顔で言って居る奴が居たら、脳汁が赤くなるまで頭をシェイクしてやるさ。
今もそんなのぶっちゃけあり得ないと声を大にして言いたいが、今俺が体験している現象は、昨日に続いて二回目の体験なのであり……。
「認めざるを得ないというのか……。」
まあ、そうなるのだ。
俺にだけ起きる現象なのか、それとも他の誰かにも起き得る現象なのかは分からないが、起きてしまっている事は認めざるを得ないのだ。
しかも昨日に続いての――――強制ぼっちプレイ。
……虚しい。 滅茶苦茶虚しい。
なんでゲームの世界でまでぼっちライフをロールプレイしなければならないというのだ……。
小学生の時の俺が孤独の世界を詠い過ぎたせいなのか?
仲間斡旋所の中、そうやって独りやさぐれて居た俺は、取り敢えず目の前にあった椅子を足で前に蹴り出した。
激しい音を立てて床に転がる椅子。
……まあ、そんな事で虚しさは消えない。 うん。
俺は蹴り倒した椅子を、八つ当たりした罪悪感からか若干丁寧に扱いながら、元あった場所に戻し、それに腰掛けた。
そして、頭を整理する為に足と腕を組んで目を閉じる。
――――昨日、いや、今朝俺が起きた状態から察すると、俺に害する何かがこの現象を引き起こして居るとは考え難い。
例えば、金銭目的でも、店の女の子達の変な呪いとかでも無さそうだ。
ならば……。
「昨日と同じように宿屋に泊まれば、また朝早くに普通に起きる事が出来るという事……かっ!」
カッ! と、目を見開く俺。
そうだ。 ……前向きに考えたならば、これは悪い事では無いではないか。
超絶テクニックを持つマッサージ師に癒して貰った後にすっきりお目覚め。
しかもゲーム内通貨を支払うだけ、と。
「よし。 オッケーオッケー。」
腕組みをしながら何度も首を縦に振って勝手に納得する俺。
もう迷わない。
適当に遊んだ後に宿屋に行って、素晴らしい朝を迎えようでは無いか。
◇
街の中には、何故かこの街の名前と、北の村の名前を言う女性のNPCが居る。
主人公が産まれた街なのに、ちょっとにある北の村の名前を知らない主人公、ヤバい。
でも、何度も同じ説明をしてるこの女も相当ヤバいと当時は思ったものだ。
まあ、何故そのNPCの話が出て来たかと言うと、だ。
……男の子なら一回は想像するよな?
女性のNPCの……スカートの中身がどうなってるのか、を。
「ここは――――。」
「そんな事はどうでも良い。 ……お前、そのスカートを捲り上げて俺に見せてみろ。」
「えっ!?」
その街の名前を言うNPC役は、俺が高校生の時、近所に住んで居たほんわかとした可愛い系のイメージのお姉さんだった。
さて、俺の発言にたじろぐ西洋風のコスプレをしたお姉さん。
「ここは――――。」
「だから街の名前など、どうでも良い。 お前のスカートの中身に興味があるんだ俺は。」
「なっ……そ……だ、ダメです……。」
「ならそこを動くな。 俺が――――お前のスカートの中を確認してやる。」
ふははははっ!! なんという最低な俺!!
だが良いのだ。 ぼっちプレイで何を気にする事があろうか!!
「や、やめて、やめて下さい!」
「良いぞ! と、とても良いぞ、その反応は! もっと嫌がるが良い!!」
俺は身を低くすると、お姉さんのスカートを摘み上げ、頭をずぼりとそのスカートの中に差し入れた。
「や、やめ!! やめて!!」
「暗くて良く見えないぞ。 地面に転ばせて良いか? 足を開いて良く見せろ。」
俺はお姉さんの両足の太腿……うむ……やわらかい……を、掴み、地面に転ばせる様に力を加えながら言うのだった。
「はぁはぁはぁはぁ。」
「やっ! いやぁ!!」
遂にお姉さんを地面に転ばせる事に成功し、一旦スカートの中から頭を出した俺は、必死にスカートの股の部分を押さえるお姉さんの手を俺の右手で押さえる。
そして左の手で、彼女のスカートの裾をそろり、そろりと捲り上げる。
真っ白な太腿が露わになり、遂に股の部分が視界に入るかと目を血走らせたその時――――
「お、お巡りさん!! 変態があっきーしてるっ!!」
「……はぁっ!?」
な、何だ今の声は。 何処からか魅力的な少女の声が聞こえたが。
だが言った内容が問題だ。 変態と言う表現と、あっきーという固有名詞が逆じゃないか。
ってそうじゃない。 何でぼっちプレイでツッコまれるんだ!?
俺はきょろきょろと周りを見渡すと、俺の後方に回復士の恰好をした……女、いや、少女が立っていた。
「……やあ、僕はあっきー。 君は?」
「えっ!? はぁ!? ……あたしの事? 何言ってんだよあっきー。」
……な、何だ? 俺はこの子の事を知って居て、あっちも俺の事を知って……居る?
白い肌に釣り目がちの目。 薔薇の様な真っ赤な唇に、少しくせ毛だがやわらかそうな腰まで伸びる長い髪。
「おぉう……。 おぉ……。 き、君……可愛い……な。」
背は130cmくらいだろうか。
今のままだと流石にちょっと低年齢過ぎるが、二、三年くらい成長したらとても良い美少女に育つ事だろう。
「か、かわっ!? 何言ってんだよ!! あ、あれ? あたし酔っ払って変になってんのか!?」
「……ん? その話し方……どこかで聞いた覚えが……。」
「っていうか、あっきーこそ若いし、なんでそんなにでか……えっ!? ちっちゃ!! あたしちっちゃ!!」
俺を見た後、慌てて自分を見下ろした後、手で自身のあちこちを触りだす少女。
「お、お前まさか……みっきーか?」
そこでようやく俺も彼女が誰だか分かった。
「そ、そうだけど……えっ!? 何これ。 えっ!? 夢!? あっきー!? 何であんたはでかくて、あたしはこんなにちっちゃいの!?」
「お、落ち着けみっきー。 こ、これは俺の世界なんだ。 お前は出て来なくて良いんだよ。」
「いきなり退場宣言された!? そんな事言われても困るっ!」
「っていうか、何でそんな恰好な訳……お前? 滅茶苦茶……可愛いじゃねぇか。」
「え? こ、これ? ……あれ? なんでこんな格好してんだろ。 ……あれ?」
自分の服を改めて調べるみっきー。
濃い黒紫のワンピースのスカートの裾を引っ張ったり、胸と背中に掛かって居る前掛けの様な布をぺろりと捲ったり。 ……いいぞ。 もっとやれ。
じゃなかった。 俺も落ち着こう。
「よし。 こういう時はお互い順序立てて話そう。」
「あ、ああ。」
「まずお前はみっきー。 おっけ?」
「おっけ。 で、あんたはあっきーだよな。」
「そうだ。 だが、今の俺は16歳だ。 お前はいくつだ?」
「あたしは……えっと……これ何歳くらいだ?」
「俺に答えろと? 10歳くらいかな。 あっ!!」
「え? な、何!? ……あっ!! あたしとあっきーの歳の差かっ!?」
「そ、そうらしい……お前、滅茶苦茶美少女だったんだな……。」
「だった、とか、過去形でしみじみ言うなよ……あたしだってあんだけ大きくなりたくてなった訳じゃないんだから……。」
「す、すまん……。」
俺の言葉に悲しそうな顔を見せるみっきーに、罪悪感を覚えて謝る俺。
そうだよな。 そんな事言ったって仕方無いよな。 すまんみっきー。
「中学の時にバレーやらなきゃあんなに伸びなかったのかもしれないんだけどな……はは。」
「いや、マジすまん。 お前の気持ちを全然考えて無かったな。」
「いや、いいよ。 マジで。 どうせ夢なんだしさ。」
少し肩を少し上げた後、両手をだらりと下げ、溜息を付く幼女みっきー。
やべぇ。 ちょっとやさぐれかけてるぞ……。
「自分が背にコンプレックス持ってるのは知ってたけど、夢に見るとかどんだけって話だよな……ははっ。」
あ、そうだ。 夢じゃないって伝えてみるか。
「……え? 何言ってんだ。 夢じゃないぞこれ。」
「へっ? あんたこそ何言ってんの? 頭沸いてんの?」
「自分と似たような反応する相手って超面白いな……。」
「何言ってんだマジで。」
「いや、こっちの話だ。 ……お前がみっきーだとしたら、俺と今朝した話、覚えてるよな。」
「え? えっと……ソシャゲ―の話?」
「そっちじゃなくて、モンクエ3の話だ。」
「……ああ! ここってモンクエ3の街の中か! おおっ! マジで懐かしい!!」
目を輝かせて周りを見渡し始めたみっきー。
「あっちが城?」
「そう。」
城の方向をにこやかに指差すみっきー(幼女)。 それににこやかに答える俺。
「ここから進むと外に出るの?」
「そそ。」
「うっひゃー。 何この画面。 すっげー……。 夢じゃないって言うなら、どうしたんこれ。」
「……実はな……ゲームの世界の中に俺達は居るらしい。」
「やっぱ頭沸いてるだろあんた。」
「幼女のお前に言われると、そういう悪口は何だか気持ち良くなってくるからやめろ。」
「やっぱあんた本物のあっきーじゃん!?」
「どこで俺が俺だという確信的な判断が付いたのか意味が分からないよっ!?」
あっきーはやっぱりとってもロリコンですね、みたいに言われても困る。
「あれ? じゃあ、あっきーがスカート捲ろうとしてたのって、NPC?」
「……何の事だ。」
「あんた……ぼっちワールドでやりたい放題しようとしてたのか。」
「ぼっちワールド言うなよ!!」
人に言われると心に響くからやめてあげて! マジで!
「NPCの服を脱がそうとするなんて、あっきーはよっぽど変態なのですね。」
「今度は『ですます』口調で的確に俺の心を抉るというのかっ!」
流石に俺の数少ない友人なだけあるな、みっきー。
「ちなみにあんたいつも女の子のミニスカートの裾の所見すぎだから。」
「何で今それを言うかなっ!? 追撃ならせめてNPCの話の続きにしてくれよっ!!」
「…………。」
「やっぱ続きを想像すんな。 頬を赤らめんな。 上目遣いはやめろ。」
「注文多いなあっきーは。 だから彼女が出来ないんだよ。」
「お前だって彼氏居ねぇじゃねぇか!!」
「あたしはいつか小学生男子と大人の階段上るから良いんだよ。」
「絶対俺よりお前の方がタチが悪いからな!!」
「どっちかっていうとあたしネコだけどな。」
「そっちのタチじゃねぇよ!!」
やばいよみっきー。 今回はいつもより斜め上を行ってるぜ。
「…………あっきー。」
と、俺の名前を呼んでいきなり真顔になるみっきー。
「なんだよ。」
「ここ、ゲームの中って言ったよな。」
「……ああ。 だ、だからどうした。」
「あそこの走り回ってる少年引ん剥いてぺろぺろしても良いのか?」
「あれうちの近所に居た小学生だぞ!? ダメに決まってるだろこの変態!」
「変態はあんたも一緒だろうが! なら話は戻るけど、さっきそのNPCにあんたは何をしようとしてたんだよ!」
さっと下を向く俺。
「……愛の告白だ。」
「あんたは愛を告白するのにまずスカートを捲って服を脱がそうとするのかよ!」
「おまっ! そこはマジで察しろよ! ぼっちになったら人は何をする? 欲望爆発するだろ?」
「……まあ、めっちゃするな。」
「な。 するだろ……って、だからあの男の子見るのやめろってば!!」
「わかったよもう。 じゃああんたに譲る……よ……。」
「なんで最後歯切れが悪いんだよ。」
「良い……それ、良いよ!! それ!」
鼻息を荒くして言うみっきー。
「良くねぇよ!! 歯切れが悪いと思ったら俺と少年を勝手にカップリングしてただけかよ!!」
「どっちが……どっちなんだ?」
「ネコでもタチでもねぇよ! お前突っ走り過ぎだろ!? 見た目幼女なんだから慎めよ少しは!!」
「そ、そうだった! あたし幼女だった!」
つるぺたの胸を触るみっきー。
背は大きく成長しても、あんまりそこは膨らんでないよね、なんて言ったらみっきーパンチで殴り殺されるから言っちゃダメだ。
「ってか……ふぅ。 落ち着いた。 良い妄想貰ったよ。」
心臓の辺りをすりすりと撫でながらそう言って勝手に落ち着くみっきー。
「何でいきなり賢者になってんだよ!! まだ転職出来るレベルじゃねぇだろうが!!」
「あっきー。 そのツッコミはいまいちだったな。」
「うるせぇバカ! ほら、もう少年もNPCも忘れて純粋にゲームを楽しもうぜ。」
「ゲーム? ああ。 そっか。 モンクエ3やるのか。 ……そういやNPCは殺せないの?」
ちらりと俺に押し倒されて居た女NPCを見るみっきー。 完全にハンターの目だ。
「お前……なんでどんなゲームでもまずNPCを倒そうとすんだよ。」
「なんだ、殺せないのか。 がっかりだ。」
「俺はお前の発想にがっかりだよ! ってか、もしかしてお前、まだ酔っ払ってんのか?」
「そういやまだ少し残ってるかも。 ゲーム買うからって早めに抜けて来たんだけどな。 ……最後に飲んだテキーラが結構効いたのかも。」
テキーラか。 確か強い酒な筈。 俺ならきっと三人は死んでるな。
「まあいいや。 ……で、あたしとあんたがパーティ組んでるんだとしたらどんな感じになる訳、これ。」
手をひらひらと振って言うみっきー。
「俺が主人公で、お前が回復役だな。」
俺を右手の親指で指した後、その手をみっきーの前に出して少し大袈裟に表現する俺。
「なんかずるいな。 あたしは主人公役って出来ない訳?」
「出来ないんじゃないか? お前の服装って、それ回復士の衣装だし……あれ? でもデザインが何かちょっと違う様な……。」
「うん。 何かちょっと黒いよな。 もっと青くなかったかこの衣装?」
「みっきーの心の黒さで染まったんだろうな。」
「だったらあんたはもっと全身真っ黒でもおかしくないよね!」
「あ。 分かった。 喪女だからじゃね。」
「あんたあたしに対してはほんと容赦無ぇな! 流石にそこまではっきり言われると傷付くんだけど!」
「お前いっつも俺にモテないモテないって呪文の様に言ってるが、俺が傷付かないとでも?」
「だいじょうぶだあっきー、おとこのかずだけおんなはいる。」
「今めっちゃ棒読みだったよなお前。」
「良いから普通にゲームしようぜ。 ほら、次何すんだ? NPCから物を盗めるかどうか試すのか?」
「ブレないなぁ、お前……。 いつも思うけどお前とチャットしてると言葉の弾丸でロシアンルーレットをしてる気分になるぞ。」
「おいやめろ。 そういう例えだと、言葉の弾丸がヘッドショットした場合の出来事を想像してしまうじゃないか。」
……同僚の女にパンツを脱がされた件か。
それとも大量の薄い本を母親に発見されて男を紹介しようとした母親がそれを諦めた件か……。
はたまたその薄い本を買いに行った時に、ガチホモだと思われて女子高生にキャーキャー言われた件か……。
「むっ。 待てよ。 良く考えたらあたしは今……。」
「な、なんだよ。」
いきなり不敵な笑いを浮かべるみっきー。
「これからあんたとあたしが一緒に冒険を始めるとする。」
何をそんなに偉ぶりたいのか分からないが、腰に手を当てて力説し始めようとするみっきー。
「この構図。 ……高校生に酒を無理矢理飲まされた幼女が、その高校生に無理矢理連れ回される感じに見えるだろうなっ!」
「確かに……見えるかもしれんな。 だが、それがどうした。」
「だからって……どうも思わないのかよ。 もうあたしが言葉の散弾銃持ってる感じじゃないか? 一発一発の弾がロリロリロリロリ言ってるぞ。」
そう言う台詞を幼女が連呼するとちょっとエロいな。
……そんな事言ったらみっきーローキックが飛んで来るから間違っても口にしないが。
「……それでこの世界の誰かに職務質問でもされんのか?」
「ん? ぬ……され……ないな。」
「なら問題無いだろ。 ……って、何故顔を赤らめる。」
「なら、あたしを連れ回して……欲望に正直になったあっきーがあたしを……っ!」
「流石にあと二年は歳が足りないな。」
「あとたった二年で行けそうなのかよ変態!!」
「それを人は逆ギレって言うんだぜ!?」
なんだこのグダグダ感。 オープンチャットでやっちゃダメな感じだろ。
まあ、俺とこいつしかこの世界には居ないんだけどな。
もしかしてこいつも、俺以外にはこのチャットを誰にも聞かれは無いと知っててはっちゃけてんのかもな。 ……まあ、面白いから良いけどさ。
「あ、あの……。」
「ん? なんだ? 今取り込み中だ。」
ふと、誰かに話しかけられた方を見て、しっしっ、と、手で追いやる俺。
――――が。 二度見した後、シュバンッ! と、俺の身体は翻り、話しかけて来た女の子の前に優雅に舞い降りる。
「何かな? お嬢さん。」
「あっきーさん。 ここ、どこですか?」
……俺の好みに完璧にどストライクな少女が俺の名を呼んだのだった。