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アルヒノ大陸 8/1 0-3

 日本人が真夏に食いたい食べ物ナンバーワンと言ったら何だろうな。

 俺にとってのナンバーワンは刺身だが、次点では冷たい素麺だ。

 ちょっと変化球だが、俺はそれをもみじおろしとぽん酢で食う。 これが旨い。

 最初に素麺を茹でるのが結構面倒だが、茹でるだけなので他の料理に比べれば手間は雲泥の差だ。

 ちなみにこのメニュー、みっきーにご馳走した時があり、彼女も絶賛していたのを思い出し、その彼女が今何をしているのかを思い浮かべるが……。


「きっと飲まされ過ぎて、家で潰れてるんだろうな……。」


 女の子達は飯を食いに行くイコール飲み会に行けば、何とかみっきーを酔わせようと必死になるそうだ。

 結果限界まで彼女は飲まされてしまう訳だが、部下達はあわよくば彼女をお持ち帰りしたいのだろうか……いや。

 ……毎度の事だが、これ以上想像するのは可哀想だ。

 実は、以前彼女からチャットで告白された事がある。

 酔い潰れて部下に介抱された飲み会の次の日の朝の事、その部下達は介抱という名目で自主的に彼女の家に泊まったそうだが、朝起きた時、彼女はパンツを履いて居なかったそうだ。


『あたしがトイレに行った後に履き忘れたのかもなwwww』


 と、語尾に沢山草を生やして居たが、トイレに行ってパンツを履き忘れるってどうよ。 あり得るか?

 ノーパンのみっきーを想像してちょっと興奮したのは内緒で今回の話とは関係無いが、その後で、

 

『それか、あたしが本当に女なのか確かめたかったのかなwwww』


 と、またもや無駄に草を生やして居たが、多分それで間違い無いだろう。

 男の俺に置き換えてみれば、酔い潰れた俺が同性の部下に、俺が本当に男かどうかを確かめられる為に下着を脱がされ、そのまま朝まで放置されて居たという事になるが、それが非常に不快である事は言うまでも無い。

 彼女をノーパンにした犯人はまだ特定されていないが、そこまでする人物は異常と言える。 現時点での犯人は警察に厳重注意されて、山を一つ越えた田舎に帰ったあの悪名高いスーパーストーカーえりちゃんだろうと俺達の中では決着が付いている。

 消して、今の部下の中の一人では無かったのだ。 と……思いたい。

 まあ、その一件があってから部下を家に泊める事は無いらしいが。

 ……頑張って家に帰れよ、みっきー……。


 さて、素麺を食べながらテレビを付けると、芸人が日本のどこかに旅に行くという定番の番組が放映されていた。

 これも懐古主義というのかもしれないが、昔はゴールデンタイムを過ぎて、十時からのテレビ番組と言えばもう少し魅力的な番組があったものなのに、今じゃこんな番組ばかりでうんざりする。

 俺はそのテレビの電源を消して、素麺をすすりながら古い14インチのブラウン管のテレビを見やる。


「今日も少しモンクエ3やるかな……。」


 そして、そのブラウン管のテレビの電源を付けた時だった。

 いきなり俺の携帯が鳴り出した。

 ――――表示は、非通知。

 まさかみっきーか!?


「もしもし!?」

「…………。」


 電話先の相手はすぐには何も言わず、外に居るようで、車が通り過ぎる音だけが聞こえた。


「……大丈夫か?」

「え? うん。 だ、大丈夫。」

「ほんとかよ……。」


 みっきーは声が心持ち気落ちしている様な感じで、飲み過ぎたのか声も少し変だった。


「あの……モンクエ3って、あたしもやっても良い?」

「はぁ? 態々そんな事の為に電話掛けて来たのか。」

「だ、駄目かな。」

「何言ってんだよ。 競争するって言ってたじゃん。」

「そ、そう? そうだっけ、か。」


 何か変だなこいつ。 酔っ払って変になってるんだろうか。


「お前本当に大丈夫か?」

「だ、大丈夫らよ。」


 らよっ!? あの滑舌の良いみっきーがそんな言い間違いをするなんて……。 呂律が回って居ないのか?


「お前やっぱ変だわ。 帰って寝た方が良い。」


 酔っ払いに酔っ払っていると指摘すると逆ギレするので、この場合変という言葉は結構有効だ。


「で、でもゲームは……。」

「そもそも買わないと駄目だろ。」

「え? 買った、んだけど。」


 買ったのかよ! 早いなおい!


「じゃあ、無理しないで眠くなるまでやっとけ。 じゃ、また明日な。」

「あ。 え? う、うん。」


 例えみっきーとは言え、呂律が回らない酔っ払いと長電話をして良い事があった思い出は無い。

 元同僚から酔っ払って三時間も愚痴を聞かされた時が一番きつかったな。

 しかも、俺があまりにも生返事するものだから、お前なんて友達じゃねぇバーカと半ギレされて電話を切られたのは……。 くそ。 今思い出しても腹立たしい。

 その怒りの勢いで、そのままボタンを押して通話を切ってしまった俺。


「……ちょっとみっきーに冷たくし過ぎた……かな。」


 ゲームをしても良いか、なんて、彼女らしく無い言葉から、ただ寂しくなって電話して来ただけなのかもしれないしな……。

 まあでも、生存は確認出来たし、そのゲームをする元気はあるのだから良しとするか。

 ……明日の朝、あいつのロッカーのノブに胃薬が入った袋でも掛けておいて、それでチャラにしよう。 うん。

 そう自分に言い聞かせ、気を取り直してゲーム機に向かう俺。

画面は今朝ゲームを終えた場面、宿屋の主人の前で止まって居た。


「しかし……変な夢だったな。」


 きっと俺は寝ながらモンクエ3をやっていて、それで夢にでも見たのだろうと自分を納得させるしか無いのだが、何故か腑に落ちない。

 あ。 そうだ。 あのクソババアが言って居た仲間が居ないし、作れもしないってのは、何でなんだ?

 俺はコントローラーで自分を操作して、仲間斡旋所に向かう。

 そこには……最初からゲームをすれば、初期状態で居る筈の仲間になるキャラクターが一切居なかった。


「俺が……自分で消したって事か?」


 まあ、そうとしか考えられないのだが、消した覚えが無いんだよな……。

 首を傾げる俺だが、答えは出ないので斡旋所の二階へとキャラクターを操作する。


「確かここで仲間を作るんだよな。」


 画面の中のキャラクターに話しかけるように独り言を言う俺、34歳独身。

 ……言ってて辛くなるからこのツッコミはやめよう。


「……ん?」


 なんだ? 話しかけたのに進まないぞ。

 俺は再度、コントローラーでキャラクターと話すというコマンドを打ち込むが、本来仲間を作りに来たのかと聞いて来る筈のキャラクターが無言のまま、ただBGMだけが流れている。


「……バグか? いや、そんなバグあったかな……。」


 っていうか、ハードは無事でも、流石にソフトは無事じゃなかって事か?


「あっ!!」


 そうだ。 思い出した。 これって、カセットの中に電池があるタイプのゲームじゃなかったっけ。

 まさか、その電池が切れたせいでキャラクターが作れなくなってるって事?


「おおう……。」


 落胆する俺。

 …………いやでもおかしいな。

 カセットに通電している以上、RAMにアクセス出来ないって事は無い筈だ。

 もしアクセス出来なかったとしたら、プログラムが停止してそこでフリーズするだろうしな。

 ……いや、RAMにアクセス出来ないならそもそもセーブデータが作れないだろう。

 俺のあっきーという名前でデータを作る事には成功したのだし……。

 ……この矛盾が分からん。


「よし。」


 分からん時はどうするか?

 昭和の人は取り敢えず何でも――――叩く。

 まずはテレビを叩いた。 うん、意味無いな。

 次にゲーム機の後ろを叩いてみた。 これも意味が無かった。


「…………。」


 ……や、やるのか?

 遂にカセットに俺の手が伸びて、その手が一瞬止まる。

 現役時代にこれをやって、接触が悪かったせいで回復した事が一回だけ……あるが。


「……や、やるか。」


 ここまで来たら何故かもうやるしかないという焦燥感に駆られた俺は、遂にカセットの左上の角のところを、こつん、と、叩いてみた。


 ――――そして、俺はまた意識を失った。

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