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アルヒノ大陸 7/31 1-2

「ちっちゃ! 街ちっちゃ!」


 それがゲーム内の自宅から一歩外に踏み出した俺の感想。

 俺の想像力は街を一から創造するには至らなかったようだ。

 人口が20人くらいしか居ない城下街。

 どんだけ小さい街なんだよって話だが、確か実際のゲームでもそのくらいしか(キャラクター)が居なかった筈。

 256キロバイトROMだもんな。 無駄なのは詰め込めないよな。 うん。

 だが、背景や建物、NPCの画像に関するクオリティは俺の脳内補完グッジョブって感じに結構凄い。

 スパコンを使っても可能かどうか分からない程の細かい解像度で3Dに表示された生意気なガキは、現実に居る普通の人間の子供の様にウザく走り回って居るし、井戸の近くに居る爺さんはプルプル震えて居て、今にもその井戸に落ちて死にそうだ。

 兵士はやる気が無さそうに槍を持って立っているし、道具屋のおっさんの顔は想像通りエロそうだ。

 ……そういや、何で商人ってあんなにスケベそうに見えんのかな。

 ああ。 胸に顔を埋めるあのイベントが、俺達にそういう先入観を与えたのかもしれないな。

 

「ほら早くお城に行かないと。 今日は旅立ちの日よ。」


 と、腕を組んで考えて居た俺にはお構いなしに、城に行くように俺の腕を引っ張って急かすお袋。


「旅立ちとか……いつも通り頭沸いてんのかお前は。」


 親に対してお前呼ばわりは失礼だとは思うが、見た目十代後半にしか見えないお袋の頭の中も、結構お花畑なのだ。

 なので、中学生くらいからお袋にタメ口を聞き始めたのを思い出したが、こんなに若々しい母親を持つという稀有さを34歳の今になって実感する俺。

 当時は全く理解していなかったが、高校生の時に良い感じになった女の子が俺のお袋を見た後急に俺と距離を置き始めた意味が今なら良く分かる。

 こんなのが姑になるなんて想像したら、世も末だ。

 

「沸い……て? 何を言っているのあっくん。」

「あっくん言うな。 それ高校入ったら言わない約束だろ。」

「じゃあ、あっきー。 お城いこう? ね?」

「おぉぉぉぅ…………。」


 母親にハンドルネームで呼ばれた事のあるヤツ、手を挙げてみ。

 そう。 その残念な気持ちが今の俺の気持ちだ。


「あー、もう。 城に行けば良いんだろ? 行くってば。」


 夢の中とは言え、どの道城に行かないとこれからの話が進まないようだしな。

 ちなみにこのゲーム、相当やり込んだのでイベント類は大体覚えてる。

 城に行ったら、王様から流れ的に魔王倒して来いとか言われて、次に仲間を探せとか言われるんだっけか。


 ……ん?

 仲間…………。

 女…………?


 ◇


 城にマッハ(嘘。 人間比三倍速くらい。)で行って王様に会ってきた俺。

 で、お金を貰ったぜ。 へへ。

 そして次は……。

 自宅の前の仲間斡旋所(ハローワーク)が俺の目的地である。

 っていうか、現実で自宅の前にハローワークがあったらどんな気分なんだろうな。

 毎日転職したくなってしまうのだろうか。

 そうじゃなくても、現実の俺が転職出来るものなら今すぐしたいけどな!


 おっと。 俺の悪い癖だ。 すぐ脇道に逸れる。

 どうせ夢なんだ。 夢らしく女だらけのどっきりハーレムパーティでも作ってウハウハしようではないか。

 そう思って意気込んで建物に入った俺。


 ――――だが、建物の中が……めっさどんよりしてた。


 人の気配? そんなの全く感じ無い。

 ただ辛気臭いおばちゃんが一人カウンターに座っていた。


「よう。」


 一応声を掛けてみる俺。


「あぁん?」


 態度悪いなこいつ。 斡旋所に居たヤツってこんなキャラだったか?


「仲間くれよ。 あれ? 作るんだったか。」

「居ないよ。 一人も。 作るのもダメ。」

「はっ?」

「いや、だからさー。 居ないの。 作れないの。 ユーアンダスタン?」


 うわ。 めっさムカつくこのババア。

 でも、この口調と言い……どっかで見た事あるんだよな…………あ!

 近所にあった駄菓子屋兼ゲーセンのババアじゃねぇか!

 そういやあのババア感じ悪かったわー。

 アイスに当たり出ると舌打ちすんだぜ? 子供相手の商売じゃあり得ないだろあれ。

 まあ、その性格のせいと若者のゲーセン離れでとっくにその店は潰れたが。

 1プレイ50円だったから、仕方なく通ってたのは良い思い出だ。

 てか、夢にまで見る程俺はこのババアを憎んでたのか。


「死ねババア! ちゃんと50円入れたっつの! 嘘じゃねっつの! あと仲間寄越せ!」


 俺の当時の怒りと、今の憤りを拳に乗せて、ババアのこめかみに繰り出される右ストレート。

 派手にぶっ飛んで、食器やグラスが並んでる棚にぶつかるババア。

 更に衝撃でそのババアの身体に降り注ぐ無数の食器とグラス。

 ……やべ。

 ほんとに死んだかな。


「痛いね! 死ぬかと思ったわ! あと50円とか何の事かアイドンノーだよ!」


 頭からぴゅーぴゅー血を出しながら立ち上がって文句を言うババア。

 ちっ……なんだよ。 ゲームのNPCだからやっぱり死なないのか。


「お前らは死なない様に出来てるからな。 むしろお前らが魔王倒して来いっての。」


 手をひらひらとさせてババアに言う俺。


「それあんたの仕事だろう!?」


 人を指差ししたらいけませんって、親から教わらなかったらしいなこのババア。


「ほう。 俺の仕事は何かを知って居て、それで仲間を斡旋出来ません、だと? ならお前は何の為に居るんだよ。」

「好きな仲間を連れて行きな。」

「だからその仲間が居ないってさっきお前言ったよな!?」

「気に入らないなら二階で作ると良い。」

「作れないってのもさっき言ってたじゃねぇかテメー! 本当は作れるんじゃねぇか!」

「作れません。 ソーリー。」

「やっぱり作れないのかよ! どうでも良いけどそういやお前微妙に英語混ぜて話して来るヤツだったよな!」


 やばい。 このババアと話をしてると折角の楽しい夢が覚めてしまいそうだ。


 ◇


 俺はババアを渾身の力で蹴りまくった後に斡旋所を出て、取り敢えず商店に行って武器を買う事にした。

 まあ、最初はあれだ。 鈍器から始めるのが良いな。


「はいらっしゃい!」


 恰幅の良い髭面のエロそうな親父。


「元気良いなお前。」

「はいらっしゃい! 何にしゃーしょー。」


 またこいつもイラつく喋り方をしやがる。

 で、何処かで会ったかと思ったらこいつも近所の肉屋の親父だった。

 女子高生だけにやたらサービスするって噂があったなそういや。

 っていうか、この時点で俺の夢の土台が俺の故郷なのがようやく分かった。

 道具屋はきっとタバコ屋兼食品を売っている商店の近所のおっさんだったりするのだろう。


「親父。 棍棒くれ。」

「あいよ。 30Gな。」

「おう。」


 そう返事をして、腰に付いた子袋からGを30枚出す俺。

 ってか、30枚が数えなくても思った通りに出て来るとか、都合良い夢だな。

 ちなみにステータス画面も見れるぞ。

 意識すると視界の左上に浮かび上がって来るのだ。

 そうやってステータス画面を見て居たら、店の奥から品物を取ってカウンターに戻って来た親父。

 ごとり、と、カウンターに音を立てて置かれる棍棒。


「…………おい。」

「はいらっしゃい!」

「なんで他の物も買いますかみたいな雰囲気で普通に声出してんだよ。」

「はいらっしゃい!」

「誤魔化してんだろお前! 血塗れじゃねぇかこの棍棒!」

「肉を叩くには最高ですぜ旦那。」


 急に饒舌になった親父。 右手の親指を一本立てながら。


「なんで叩くんだよ! お前肉屋なんだから肉は普通に切ってろよ!」

「肉は叩くと美味しくなりますぜ旦那。 女子高生はこれで叩くと黙りますぜ。」

「何さらっとゲスい事付け足して言ってんのお前!?」


 これが俺の夢で、俺の想像だとしたら俺がゲスい事になるのだが、少なくとも俺にそんな趣味は無い。

 っていうか、何かもうこんなグダグダな夢の続きなんて見たく無いんだけど。


 だけど……やっぱちょっと街の外には出てみたいな、なんて。


 ◇


「うはっ! 塔が見える! 作った意味絶対無いよなあの塔!」


 外は感動的な景色だった。 幻想的と言うべきか。

 海と山と大地が視界に混在して、俺の目前には塔がのっそり立っている。

 塔とは、普通もっとすらっとしたイメージがある筈なのだが、俺にとってそう表現されたのは、多分あの塔の中身を知って居るからだろう。

 急いでクリアしようとすると結構カツカツなんだよな。

 普通にレベル上げてから挑めば良いんだけど、小学生はそんな事考えない。

 普通に突っ込んで普通に全滅して悔しがった覚えがある。

 それにぶっちゃけ結構面倒なんだよな……。

 序盤は集団攻撃魔法とかも使えないしさ。


 まあ、塔は置いておいても、何にせよ、景色はかなり凄い。

 俺の想像力を総動員して作り上げられた夢の世界は、もしまた見れるなら金を払ってでも見たい気分だ。

 っていうか、ここまでしっかり夢に見れるんだから、次もきっと出来る筈。

 いつか絶対またやろう。 うん。

 明日にでもまた夢に見よう。 うん。

 しかし、惜しむべきはBGMが無い事だな。

 最初に街を出た時に聞いた音楽には感動したものなのに……。

 まあ、俺が楽器の一つでも弾ければ、夢の中でもBGMが再生出来たのかもしれないが、その代わりに小鳥の囀りなどが聞こえて来ている。

 まあ、これはこれで臨場感があると言えばあるな。 うん。

 などと考えながら足を数歩進める俺。


 ――――刹那、視界が一瞬真っ暗になる。


 そして現れたのは粘液系モンスター三匹。

 なるほど。 夢でも敵との遭遇はこうなる訳か。

 よし。 まずは一番右のを――――選べねぇ!? 身体が勝手に!

 俺の身体は勢い良く真ん中のモンスターに飛び掛かると、俺の右手に持った棍棒が縦に振るわれる。

 その棍棒がモンスターに当たると、粘液系『ぽよん』という音がするかと思いきや、まるでゾンビの頭をかち割った様な音がして……真っ赤な鮮血が飛び散った。


「なんでだよ!」


 何で俺の夢なのに思い通りにならない訳!?

 なんかもうモザイク掛けた方が良いくらいグロい中身が見えちゃってるんだけど!?

 そりゃ理不尽な夢もあるけど、ここでその音は無いだろ……。

 ……あ! そうか。 小学生の頃の俺、このモンスターの中身がどうなってるのか考えて、内臓がきっとあるって思ってたんだっけか!

 そうだな。 うん……そうだった。

 と、そこにモンスターの攻撃。

 そりゃ攻撃したんだから反撃来るよな。

 ってちょっと待て。

 小学生の時って、モンスターから攻撃受ける時って……どんなイメージだったっけ?

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