のぞみ かなえ たまえ
望の話。妊娠5カ月だった。お腹を壊してトイレで力むとオデキみたいなものが出てきた。ひっこまないので、病院でみてもらうとポリーブだろうと言われ摘手術を受ける。病理結果は『子宮腺癌』。最初に受けた妊婦検診では陰性だったのに。その夜は赤ちゃんが無事に生まれてくるのか?という思いで眠れなかった。妊娠5カ月での癌症例数があまりにも少なすぎた。助かる確率も全く分からず、自分の命をとるか、子供の命をとるかという究極の選択を迫られた。しかし、今の医療では28週を過ぎれば、90%以上の確率で極低出生体重児の生命が助かると言われた。家族の励ましもあり、「絶対生まれてくる、絶対自分も死なない」と信じて、28週まであと2カ月、その日を待つことにした。
かなえの話。親友の望の話は、携帯で聞いたんだけど…まだ身近に癌の話を聞いたことがなかったから、ビックリというよりもショックが大き過ぎた。癌=治らないみたいな知識不足だったし。自分の事のように号泣したよ。その事をたまえに話したのは、あの頃、本当にたまたま会ったから。望を知らない人なら話してもいいかな…話を聞いてもらえば、自分が少しは楽になるかな~って感じで。まさか望の話を聞いて、たまえも「ひょっとするかも」って病院で検査して、そしたら望と同じ癌が見つかったなんて…耳を疑ったよ。同時に2人の友達がだよ。すぐに受け入れる事なんてできなかった。その後、2人の事は誰にも言えなくなっちゃったよ。
たまえの話。かなえから一度も会ったことがない望の話を聞き、壮絶な境遇にショックを受けた。が、どこか他人事だった。なぜなら、当時自分にも不正出血はあったが、すでに3回も検査をして癌ではないと診断されていたからだ。しかし、家に戻って一人になると…何かがひっかかった。その後、セカンドオピニオンを受けてみると、偶然にも望と同じ癌が見つかってしまったのだ。告知されたその日、吐き気が止まらなかった。まるで、体全体が癌という事実を拒否しているようだった。かなえはそんな様子を知り、望のメアドを教えてくれた。望は同じ境遇の相談できる相手としてとても心強かった。自分も癌なのに一生懸命励ましてくれた。でも今考えると、本当に不思議な出逢いだったね。
望はたまえより2日早く、出産と子宮摘出の手術を受けた。1166gの男の子が誕生し、望も無事助かった。だからたまえは「私もきっと大丈夫、3歳の息子がいるのにこのまま死んでしまうわけにはいかない」と思った。そして、2005年3月25日“世界中の国々が参加した愛・地球博、開幕の日。言わば“地球”の人々が出会う最中、たまえは“子宮”とさよならをした。その後、転移もなく、3人は仲良く桜の散る頃に退院した。
現在、望は振り返る。病気、出産、手術はドラマのような出来事だったけれど、何か忘れかけていたことを思い出させてくれる「きっかけ」だったのかもしれないと。みんなにいつも感謝する気持ちを忘れないように。
かなえは友達2人が癌だったという体験により、病気になる確率は高いと感じ、保険に入った。自分もいつなってもおかしくないよなが、前提になった。そして家族が何よりも病人にとって、1番心強いものであることを目の当たりにしたせいなのかは分からないが、今年8月に結婚する。
たまえは思う。偶然、かなえから望の話を聞いたのがきっかけとなり、体の奥深くにある癌を見つけることができた。かなえの望を思う優しい気持が今、自分を生かしている。また、望の愛と勇気ある決断は、赤ちゃんの命と私の命をもついでに助けたように思えてならない。それらは人生において巡り合った最大の幸運と呼べる出来事だった。目には見えないけれど、そんな「幸運な出逢い」がこの原稿用紙でまた起きたらいいなと筆をとったのだった。