リア充なんて大嫌いな俺に誰かがフラグを渡してくれるといいなあ・・・!!
俺はリア充なるものが嫌いだ。
リア充が実際どんな活動をしているのかなんて知らない。
というよりそれはほとんどの非リアがそうであると思う。
だからみんな基本は「リア充」だとか「妹」だとか、そんな小説を読んでにやにやしているという寸法だ。
実際は他人から与えられているわけであって、自分がその事象を体験したわけではないのに。
だから、俺はあくまで、小説やら漫画やらで描かれている
「リア充」及び「ぼっちとか非リアを装った仮面リア充」のキャラクター性しか知らない。
それを踏まえていう。俺はやっぱり嫌いだ。特に後者。
要は、「自分も同族だからみんな共感しようぜ」的な流れで、生贄を増やし、
最終的に「こんな俺でもリア充になれたんだ…」的な締めで終わる。
知・る・か。世の中を歪んで見ることしかできない俺だからこそ、そういう非リアの救われない展開に
胸をときめかせるわけじゃないか。それがなんだお前、実はハイスペックだったとか
実は好きな女の子がいました…だとか。忘れろ、そんな忌むべき記憶はさっさと消し飛ばせ。
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そんな俺は、今日も学校に行く。何も変わらない毎日。
架空の世界に身を投げられる時代はいつになったらやってくる?
いつになれば俺の隠されたスキルは発動する?
友達はいない。2学期じゃもう手遅れだよなあ…
数学の授業はベクトルか。解けやしないなあ。そろそろグータラさせてもらうか。
「そんなものも解けないだなんて、あなた本当に高校生…?」
声が聞こえた…気がする。ハイハイ、幻聴幻聴。
「耳もろくに働かないの?もっと近づかなきゃダメ?」
息遣いが…俺の耳を通り抜ける。
俺の座席は特等席である、教室の左下隅。つまり席は後ろには存在しないはず。
それも授業中に…この俺に対して…
・・・
どうやら俺は重大な決断を迫られたのだろう。
ここで後ろを振り向くか。それとも否か。
世界は灰色に染まり、時間は停止した。
もし、俺が一歩を踏み出さなければ、この機会は永遠に失われるかもしれない。
ジャンルはファンタジーかもしれない、バトル物かもしれない。
だが、少なくとも俺の満ちぬ人生にとって、刺激になることは確実だろう…!!
「グズグズしてると、帰るわよ」
俺の人生を捧げるに足る一言が、放たれた。
・・・
その子の身長は、俺の座高しかなかった。
金髪に、フリフリのドレス。首に付けられたリボンがチャームポイントか。
「ようやく勇気を出したのね」
すげえ、日本人からすりゃ「顔面蒼白」と言われんばかりの肌の白さだ。
…濁りのない碧色の眼をしている。見蕩れるって、こういうことなんだな。
「私の名前は、オキシドール・ハイドロゲン。待ちくたびれたわ、旅人さん」
「君が、俺に接触した目的はなんだ」
「随分勝気なのね。ベクトルすら、ろくに片付けられないのに」
「じゃあ、君には解けるのか」
「…当然でしょ。うーんと、この矢印が曲者ねえ…」
よし、わかった。こいつぁしばらく放置に限る。小説には書いてあった手法だ。
しばらくして、彼女は頭から煙を噴出し、俺のノートを水浸しにした。
「こ、こんなの、無くたって生きていけるわ!」
「話を戻すぞ、どうしてやってきたんだ」
「話せば長くなる「じゃあいいです」えーーーーーっ!?」
オキシドールは随分と落ち込んでいた。手に持っているビッチリと書かれたカンペがその証だ。
「後で…また来るわ…学校終わったら、公園に来て…」
彼女は消えた。授業は同時に終わった。
…つまり下手をすると、この話をみんなに聞かれた可能性があるわけで。
・・・
都合の良いことは起こるようだ。どうやら聞かれていない。
金髪碧眼娘がどうにかしてくれたに違いない。授業もその力のおかげか、なんだか早く終わってしまった。
そして放課後。俺は期待と反不安(不安なんて抱く要素がない)を持って公園に進もうとする。
「貴方を、先にはいかせない」
俺のクラスの委員長じゃないか。どうしたんだリア充?
彼氏と末永く畳の上で孫娘に囲まれながらイチャイチャしてろよ、この美人。
俺にとっては、人生の全てがかかった日なんだよ。
「貴方は、あの娘のことを、何も分かっていない」
突然現れて、突然消えるんだもんな。そりゃ分かるわけがない。
でもご生憎。俺はそういう展開を、小説で読みあさってきた。
その度にそのページをパンチでちょっとずつ穴をあけてきたんだよ。反吐が出るからな。
…てか見えてたんだね。只者じゃないよね、君もさ。
「貴方が止まらないというのなら…」
彼女の左手には、銃が握られている。
・・・
「あの人…遅いわね」
異国の雰囲気を纏わせながら、彼女はブランコでぶらぶら。
「彼なら来ませんよ、十分すぎるほどに足止めを食らっていますからね…」
そう言いながら、今まで登場したことのない白髪の少年は手に機械を装着する。
「大人しく、捕まってください。可愛い妖精さん」
「フン、ベクトルすら知らないあの人もあの人だけど、未だに300年前のポンコツに頼るあなたもあなたね」
「まあ、問題ないのですよ」彼は耳元のスピーカーから音声を聞き、微笑む。
「だって、すぐに1対2になるんですから」
・・・
銃を額にあてられて、俺は思った。
一生こんな経験をせずに、ただ凡庸な人間としての人生を送るか、今この経験をしたことにより終えるか。
どちらを俺は望んでいたのだろう。もう確実に後者の路線しかないんだけど。
俺は大の字に伸ばされ、委員長(美人)は僕に馬乗りになっている。
「まだよ、まだ終わらないわ」
気だるそうに、俺は遺言かもしれない言葉を出す。
「え…どうして」
彼女はそれに対して、少しばかりの同様を見せる。
「どうして?どうしてですって…」
そして、彼女は少し考える。
数秒の間隔の後、言いたいこともまとまったようで、俺に死刑宣告を…
「あなたが好きだから」
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ここまで書いて、ため息をつく。
俺は、躊躇いなく原稿用紙をオキシドールに漬け込んだ。
その後、マッチで火をつけてその様子をじっくりと観察した。
すげえ、よく燃えるもんだなあ、まるで爆発しているみたいだ。
夢を始めることはできないが、夢を終わらせることならできる。