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隣の景色  作者: のゆ
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29話 報告 (蒼真)

 教育実習最終日。

 実習先の門を出た瞬間、力が抜けた。


 終わった……!

 うまくいかなかったこともたくさんある。でも、なんとかやりきった。

 あとは評価を待つだけだ。


 真っ先に会いたいと思ったのは、眞白(ましろ)さんだった。

 無事に実習を乗り越えられたのは、確実に眞白さんのおかげだから。


 ***


 数日後、駅前のカフェで眞白さんと会うことになった。

 コーヒーの香りが漂う店内は、程よくざわめいていた。

 窓際の席は、午後の光がやわらかくて穏やかな気持ちになれた。

 

 向かいに座る眞白さんは、いつも通り落ち着いた様子だった。

 眞白さんは、コーヒーを一口飲んで微笑んだ。

蒼真(そうま)くん。実習、本当におつかれさま」


 その一言で、胸の奥がほどける。


「……どうにか乗り越えました!」

「この前会った時とは違って、明るい顔してる」

 小さく笑われる。つられて笑ってしまう。やっと、ちゃんと笑えてる気がした。


 実習のことを報告した。

 眞白さんからもらった資料のおかげで助かったこと。

 最後の授業で、少しだけ手応えを感じられたこと。

 何名かの生徒に「楽しかった」って言ってもらえたこと。

 思いつく全部を話した。


 眞白さんは、遮らずに最後まで聞いてくれた。

 相づちの声が優しくて、張り詰めていたものがゆるんでいくのが分かった。

 

 眞白さんが微笑んで言った。

「蒼真くんが頑張ってるの、みんなに届いたんだよ」

「全部、眞白さんのおかげです」

 続けて、逃げずにまっすぐ目を見て言う。

「あの……実習中に言ったこと、覚えてますか?」


 眞白さんは少しだけ間を置いて、頷いた。

「うん、覚えてるよ」


 眞白さんを見つめたまま言う。

「今も、同じ気持ちです」

 

 鼓動が、うるさい。

 息を吸って――。

「……好きです」

 

 眞白さんはしばらく黙って、こちらを見る。確かめるみたいな目。

 この数秒がやけに長く感じる。


 そして、眞白さんがふっと微笑む。

「ありがとう。よろしくね」

「えっ……!」

 返事をもらった瞬間、世界が色づいた。

 胸の奥がじわっとあたたかくなる。


 「あ、ありがとうございますっ!」

 声が裏返りそうになるのをなんとか堪える。

 嬉しさが溢れて、言葉が追いつかない。

 

 眞白さんに受け入れてもらえた。

 それだけで、もう胸がいっぱいだった。


 ***


 彼女ができた、って一番に報告した相手は、親友の(れん)だった。

 学食で一緒に食事をして、他愛ない話をして……いつもの流れで別れるタイミングが来た。

 いつものノリで言えばいいのに、ちゃんと伝えたいって気持ちが強くて、なかなか言い出せなかった。

 いざ言おうと、漣の目を見たら急に喉が渇いた。

「そういえばさ……オレ、彼女できた」

 改めて言葉にすると、なんだか恥ずかしい。

 

 一瞬、漣の瞬きが止まった気がした。

 それから、ゆっくりいつもの表情に戻っていく。

「……おめでとう。応援してる」

 優しい笑顔。いつもの落ち着いた声。

 漣からの一言が、やけに嬉しい。

 

 眞白さんのことを聞いてほしくて、一気に話してしまった。

「実習前の指導で来てた、大学院生の人でさ。実習のこととか、進路のこと、何度も相談乗ってもらって……」

 自分でも驚くくらい、言葉が止まらない。

 漣は最後まで静かに聞いてくれた。

 

「今度紹介させて! 漣のことも紹介したい!」

「うん」

 

 学食を出た後はいつも通り、漣が芸術棟へ向かうのを見送った。


 

 その日の帰り道は、心がふわっと軽くなった気がした。

 街の明かりも、人の声も、いつもより明るく思えた。

 

 漣に言えたこと、『おめでとう』って言ってもらえたことが、思った以上に嬉しかった。

 早く眞白さんに、漣を紹介したいな。

 

 ふと、眞白さんとのメッセージを見返して笑顔になってしまう。

 嬉しくて、どうしようもなくて。

 帰ったら……てか、付き合ってるから……いつでも眞白さんにメッセージ送っていいんだよな……?

 スマホを握りしめて、また頬が緩む。

 

 住宅街の静けさが、今日は心地よかった。

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