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隣の景色  作者: のゆ
17/22

16話 誕生日が終わる前に

 ――十一月四日。

 親友、(れん)の誕生日。

 毎年スケジュールに入れていて、絶対忘れないって決めている。

 プレゼントもちゃんと忘れず持ってきた。あとは、渡すだけ――のはずだった。

 


 漣にメッセージを送る。

『今日、漣んち行っていい?』


 すぐに返事がきた。

『いいよ』


 ***

 

 今日は夜から、同じ学部の先輩の就職祝いで飲み会がある。

 一時間くらいで出られると思っていた。二十時前には抜けて、漣の家に向かうつもりだった。


 乾杯が終わって、料理が運ばれてきて、場が一気に盛り上がる。


 そろそろ抜けよう。そう思って席を立とうとした瞬間。


蒼真(そうま)ー! お前、このまえ実習だったんだろ? どうだった?!」


 先輩に声をかけられて、笑って答えてしまう。

 話が広がって、また抜けられない雰囲気になってしまった。


 今抜けるの、ちょっと気まずいよな……。


 ポケットのスマホが気になって、一度取り出しかける。

 でも、みんなが話してる輪の中で、画面を見るのもなんとなく気まずくて、またしまう。


 もう少ししたら抜けよう。

 飲み会があることは伝えてるから……漣なら、わかってくれるだろうし。

 そう油断したのが、間違いだった。

 


 暫くして、スマホ画面に表示された時刻を見た瞬間、血の気が引いた。

 二十三時……。

 さっきまでのみんなの笑い声が、急に遠く感じる。

 

 だいぶ前に漣からメッセージが来てた。

『何時に来る?』

 

 急いで漣にメッセージを送る。

『ごめん!!  今から行く!』

 

 先輩に挨拶をして、急いで店を飛び出す。

 漣の家は同じ駅の向こう側だから、走って向かって、着くのは二十分後くらいかな……。

 メッセージに既読はついたけど返事は無い。ひとまず漣の家まで走った。


 向かう途中、何度かスマホを確認する。……相変わらず返事はない。

 ――怒ってるよな。そりゃそうだ。

 

 ***

 

 漣の家に着いて、インターホンを鳴らす。


 ゆっくりドアが開いた。

 漣は無表情だけど、明らかに怒っている様子。

 

「漣……! 遅くなってごめん」

「とりあえず入れよ」


 ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。

 いつもと同じ静かな部屋。なのに、知らない場所みたいに感じる。

 ……この状況、当たり前だけど空気が重い。

 

 漣の背中を見ながら、喉の奥がひりつく。

 オレは謝る事しかできなかった。

「連絡、直前になって本当にごめん」

「この時間まで、連絡ひとつもできなかったんだ」

「タイミング逃してしまって……」

「俺なら何時間でも待たせていいと思ってた?」

「ちがうっ……そういうわけじゃ……」

 

 漣はため息交じりに言う。

「こういうこと、前から何度もあったよな」

 

 確かにそうだ。

 今日みたいに気づいたら時間経ってたり、送ったつもりになってて直前に連絡、ってことが何度もあったのは事実……。

 

「適当すぎんだよ……蒼真は」

 

 でもさ……ちゃんと今日のうちに来たじゃん。

 連絡できなかったのはオレのせいだけど……漣、厳しすぎない?

 言われっぱなしで、頭に来てつい言ってしまった。

 

「チッ……じゃあ言わせてもらうけどさ、そんな前から思ってたなら早く言えよ」

「あ゙?」

 

 おぉ……ガチギレしてる。

 漣の神経を逆撫でしてるの分かってるのに、なんでこんな言い方してしまったんだろ……。

 謝りたかったはずなのに、言葉が勝手に尖っていく。引き返せないのが分かっていて、それでも止められなかった。

 

「漣、いつも自分が思ったこと言わねえよな? 言ってくれないとわかんねえんだよ! いつもなんか抑え込んでるっつーか……思った時にすぐ言えよ!」

「言えるわけねぇだろ……。てか、抑え込んでるのはてめぇだろ? いつも自分のこと後回しで、こっちの世話焼きやがって……」

 

 予想外の返答に戸惑う。

 

「は?! 後回しになんかしてないけど……?! お前が倒れたら面倒だから、世話してんの」

「はぁ?! 面倒ってなんだよ!!」

 胸ぐらを掴まれて、オレも掴み返した。

 こんなに感情むき出しの漣は初めて見た。

 それだけオレへの不満を溜め込んで、今まで我慢させてたのかもしれない。


 掴み合って言い合ってる時、ふと壁にかかった時計が目に入る。

 

 ――あ、日付変わりそう。今日が、終わる。漣の誕生日が終わってしまう。

 漣の服を掴んでいた手を離した。

「ちょっとまって」

「なんだよ?!」

 

 バッグから漣へのプレゼントを取り出して……渡す。

「……おめでと」

「は? 今? なに?」

 

 漣、明らかに混乱してる。当たり前だよな……。

 自分でも最悪のタイミングだってわかってるよ……!

 でも――。

「日付変わる前に、渡しときたかったっていうか……」

「なんだよそれ……アタマおかしいだろ……」

 そう言いながらも、漣がプレゼントを受け取ってくれた。

 

「……ありがと」

 声ちっさ。でも、静かな部屋ではちゃんと届く。

 

 しばらくの沈黙。

 ――で、急に漣が笑い出した。

「く、くくっ……あははははっ! ほんと蒼真って、空気読めない奴……」

「はぁ?!」

「はぁ……なんか、怒ってんのバカバカしくなったわ。……強く言ってごめん」

「いや、悪いのオレだし……つーか、漣。ガチギレしたらキャラ変わりすぎ」

「な、なんだよ! キレさせたのそっちだろ……」

 

 怒らせたのは本当に申し訳ないと思っているけれど、漣の見たことない一面が見られて少し嬉しかった。

「たまにはそうやって思ったこと言ってよ? 今日は本当にごめんな……」

「……こっちも言いすぎた。ごめん」

 

 お互い目を合わせられず、沈黙が続く……。

 

 自分が待たせた側なのに、仲直りとか言える立場じゃないのは分かってる。

 でも、このまま終わらせたくなくて――。

 

 オレは手を差し出した。

「……はい、仲直りの握手」

 

 すると、漣がおずおずと手を出してくれたからギュッと握る。

 握手したまま、しっかり漣の目を見て言った。

 

「これからは、もっとちゃんと連絡する。許してください!」

「……はは、もういいから。この話終わり! 適当に座ってて」

 漣は困ったような笑顔で、そう言って手を離し、キッチンのほうへ飲み物を取りに行った。


 仲直りできた……のかな。

 オレは無意識に、漣は待ってくれるのが当たり前だって、どこかで思ってた。

 優しさに甘えすぎていたんだ。それに気付けたのが、今日でよかったと思う。

 

 漣の本音を少しでも聞けたことは良かった。でも、もう絶対怒らせちゃダメだって思った。

 今度、ちゃんとお詫びの何か考えなきゃな――。

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