15話 前ならすぐ分かったのにな
――もう十月が終わろうとしている。
窓の外が少し冷え始める時間帯。
オレ(泉水 蒼真)は、漣の家のソファに座ってマンガを読んでいた。
左隣では、漣がスケッチブックに向かって黙々と鉛筆を走らせている。
机には、来るときにコンビニでふたりで買った飲み物とお菓子が無造作に置かれている。
それぞれしたい事して、話したい時は話すし、無理に言葉を交わさなくても、同じ空間にいるだけで落ち着く。
漣と一緒にいる時間は、いつもそんな感じだ。
なんか、漣の家に泊まるの久しぶりだな……。
少し前までは週に2、3回は泊まっていた気がする。
お互い忙しくなったんだ、って実感する。
――ふと、隣にいる漣の、鉛筆を走らせる音が止まっていることに気づいて左を向く。
漣、スケッチブック抱えてすやすや寝てる……。
オレは、そのスケッチブックと鉛筆を机に置いて、漣にブランケットを掛けた。
ほんと、漣って寝てる姿もムカつくくらい様になるな。
きれいな顔してんのに前髪で隠れちゃってるし……。漣の前髪を分けて、髪を撫でてみる。
全然起きないな――それだけ疲れてるんだ……。
漣は、いつからこんなに無理するようになったんだろ。
何かあったなら、オレにだけは言ってほしい。
学園祭で見た漣の作品、絵のこと分かんないオレでも「素敵な絵だな」って思った。
オレが見に行った短時間でも、立ち止まって見てる人が何人もいた。
お互い一番仲がいいはずなのに、漣だけが先に進んでいるみたいで……少しだけ置いていかれた気がした。
――そういえば、もう少しで漣の誕生日だ。
最近はふたりでゆっくり話す時間がなくて、一緒に出かけたりもしていない。漣が欲しいものが分からなくなってる。
漣の寝顔を見ながら、無意識に言葉が出てしまっていた。
「前ならさ……漣が欲しいもの、すぐ分かったのにな……」
漣は優しいからきっと、何をプレゼントしても喜んでくれるんだろうな。
いつもの控えめで柔らかい笑顔で「ありがとう」って言ってくれる――。
でも、そんな優しい漣を怒らせてしまうことを、この時のオレはまだ想像もしていなかった……。




