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隣の景色  作者: のゆ
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14話 学園祭②

 模擬店があるエリアは、一番人通りが多い場所だけあって人だかりができていた。

 歩きながらキョロキョロと見渡し、蒼真(そうま)がいる模擬店を探す。

 

 しばらくして、呼び込みのプラカードを持っている蒼真が見えた。

 近くには、矢土(やづち)さんと奏汰(かなた)も居る。

 

 ちょうど客足が途切れたところで、蒼真に声をかけようとしたその時――。

 見たことのある女子が現れて、蒼真に駆け寄って声をかけた。

 

「あれぇ? 蒼真先輩? 蒼真先輩だよねえ!? 」

「えっ……里菜(りな)ちゃん?! 」

「はい♡ 里菜でーす! 友達がここ通っててー。遊びにきたの! え、やば。先輩、久しぶりー! 全然変わってなーい!」

 蒼真は、少し困ったように笑った。

「あはは……久しぶりだねぇー」

 そこへ奏汰(かなた)が絡んでいく。

「なにこの子、めっちゃかわいいじゃん!! 」

 

 近寄れる雰囲気じゃない……。

 ちなみに、この里菜という子は蒼真と俺と同じ高校に通っていた。二学年下の女子。小柄で天真爛漫、やけに声もテンションも高くて、距離が近い。それは当時から変わっていないようだ。

 蒼真は大学一年の時に、この子と少しだけ付き合っていた。

 

 また後で来ることにして引き返そうとした時、矢土(やづち)さんと目が合った。

 矢土さんが笑顔でこちらに近付いてくる。

 以前、蒼真のサークル活動を手伝った時に一度顔を合わせただけなのに……覚えてくれていたみたいだ。

 

篠宮(しのみや)くん! 蒼真くんに、会いに来てくれたんだよね?!」

「あ……えっと……うん 」

「任せて!」

 え……? 矢土さん、任せてって一体何を……?

 

「蒼真くーん! 篠宮くんきたよー! プラカード持つの替わるね!」

 蒼真に声をかけに行ってくれたようだ。あの空間に飛び込めるなんて、すごい度胸だ……。

 

 蒼真からプラカードを預かった矢土さんが、口パクと身振り手振りで、こちらに何かを伝えようとしている。

 最後に、親指を立ててグッとこちらに見せてくる。

(ここは……私がいるから……蒼真くんと……行ってきて! GO!)

 ……って聞こえてくるのは気のせいだろうか。

 そして、一度しか会っていない俺に、なぜそんなに協力的なんだろう……。


 蒼真がこちらに来た。

「漣!」

 蒼真の腕には里菜が絡みついている。彼女は、俺を一瞥して言った。

「あ、先輩もこの大学だったんだぁ。蒼真先輩のお友達だよね!」

 蒼真が答える。

「そうなんだよ! 学部は違うけどね」

「ふーん。……あ、蒼真先輩! 今度ごはんいきましょー!」

「あはは……時間できたらねー」

 明らかに困ってる様子……。無理もない。

 蒼真にとって、彼女はそんなにいい思い出ではなかったはずだから。

 

 里菜は、蒼真からパッと離れて言った。

 「じゃ! 先輩、また連絡するねー! ばいばーい」

 

 嵐のように去っていくのだった……。

 

 疲れた様子の蒼真が口を開く。

「……漣、ごめんね。せっかく来てくれたのに騒がしくて」

「いや、大丈夫」

「お茶でいい? 向こうで休憩しよ!」

 そう言って、ペットボトルのお茶をくれた。


 ***

 

 近くの校舎裏、ベンチがある場所にふたりで移動した。

 

 ベンチに座った蒼真が、ため息交じりに言う。

「いや、さっきはびっくりした……。タイミング良く漣が来てくれて良かった……」

「あ……あの子、蒼真が一年の時付き合ってた子だっけ?」

 

 蒼真の恋愛遍歴をほとんど覚えているとか、正直自分でも気持ち悪いと思う。蒼真は気付いていないみたいだけど。

 

「そ! 付き合って一ヶ月で浮気されてさ、「なんかちがうー」ってフラれたんだよなぁ」

「たしか高校のときから、蒼真に好き好き言ってたよな。押しに負けて付き合ったんだっけ…… 」

「はは……そうそう。てか、あんな感じに終わったのにさ、何事もなかったみたいに話せるんだなーって……。はは。オレが気にしすぎなのかもだけど」

 

 蒼真は優しすぎる……。自分を雑に扱った相手でも突き放さない。

 そして、切り替えが早い。

「あ! 今日さ、漣も打ち上げ行かない? 」

「……俺はいい。片付けとか、何時になるか分からないし。ごめん、誘ってくれたのに」

「ううん! じゃあ、また近いうちにふたりで打ち上げしよーぜ!」

「うん」

 

 片付けについては嘘ではないけれど。いつも打ち上げや飲み会に誘われても、滅多に参加しない俺に対しても文句を言うことなく優しい……。

 

 しばらくして、蒼真がベンチから立ち上がる。

「じゃあ、そろそろ戻るかな」


 蒼真の去り際、大事なことを思い出して声を掛けた。

「……あ、蒼真! 教育実習、おつかれさま」

 蒼真の顔がパッと明るくなった。

「ありがと……! 漣にいっぱい話したいことある!! 次会ったとき、覚悟しとけよー!」

 

 夕日に照らされた蒼真の笑顔が眩しすぎて、少しだけ目を逸らした。

 嬉しそうな表情からすぐに分かる。

 蒼真は、確実に夢に向かってるんだ――。

 

 置いていかれる、なんて言葉は違うのに――。

 それでも、ほんの一瞬だけ、そう思ってしまった。

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