10話 始まって、終わった
――夏休み明けの学食。
昼休みの学食は、相変わらず人が多くて賑やか。
私(矢土 彩花)は、友達の真帆と琴音と一緒に談笑しながらランチを楽しんでいた。
――ふと視界の端に、見覚えのあるふたりを見つけた。
蒼真くんと漣くんだ……!
夏休み前に、蒼真くんのサークル活動を手伝った日から、私はこのふたりの関係性が気になって仕方なくなっていた。
蒼真くんは漣くんのことを『幼馴染で親友』って言っていたけれど……近すぎる距離感を目の当たりにして、付き合っているのではないかと疑っている。
蒼真くんが喋って、漣くんは相槌少なめで聞いてる。
学部が違っても一緒にごはん食べて仲いいなー。癒されるなぁ、尊いなぁ……。
そう思った次の瞬間――。
蒼真くんが、漣くんの顔に手を伸ばした!?
は???
いや、ちょっと待って???
指先で、漣くんの頬を拭う蒼真くん。
今の何!?
漣くんも漣くんで、拒否せず、されるがまま。
そこに、私と蒼真くんと同じ教育学部の、チャラ男――奏汰の声が飛んだ。
「ハイハイ、また始まったー!」
いやいやいやいや! ふたりの邪魔しないで…!?
今じゃないでしょ??! 空気読んで!?
……てか今、『また』って言った? 奏汰は何度もこのイベントに立ち会ってるの!?
奏汰のデリカシーのないイジリが続く。
「お前ら、ホント距離感バグりすぎ! カップルかと思ったわ」
あぁ……。蒼真くん、漣くんの顔拭うのやめちゃったじゃん!
もう少し見させてーーー!!!
思わず、肩を落としてうなだれてしまう。
しばらく呆然としていたところ。
「……か。……あやか!」
「はっ!!」
真帆に名前を呼ばれていることに気づく。
「彩花、どーしたの」
「ごめん。今ね……世界が始まって、終わったんだ……」
真帆と琴音に『尊いふたりの世界を奏汰がぶち壊した』なんて言えるわけない。
「え……彩花、疲れてる?」
「もしかして実習前で追い詰められてる……とか?」
ふたりが心配そうにこちらを見てる……。
でも、今はそれどころじゃないの!
――蒼真くんと漣くん。やっぱり私が知ってる「親友」の距離じゃない。
頭の中ではずっと、あの光景が再生され続けていた。
公式の供給が突然すぎた。情緒の準備できてないんですが!!
無理……尊い……。
今日も私は、ふたりの関係性という名の沼に静かに沈んでいくのでした。




