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ほくそ笑む大悪党 アルバロ・デ・モリーナ  作者: ひまえび
第4章――「アルバロ、石の王冠をかぶる」

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第7話――「湖の都、雷と皇后のまなざし」


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 オストゥマ砦を後にした行軍は、再び東へ向かって山地を抜けていた。


 先頭には、黒光りする大砲が並ぶ。砲身を支える車輪の軋みを、黒人兵たちの低い掛け声が受け止める。背後には、タラスコから奪った銅の槍と斧を束にした荷車、さらにその後ろに、アステカ兵の列が長く続いていた。彼らは砦から連れ出した人質の将官と妻たちを囲むように歩き、その一団の前後を、スペイン人の弩兵と騎兵が固めている。


 砲の陰には、少し前よりも明らかに増えた馬の群れがいた。オストゥマ南の放牧地に残された馬を除いても、なおこれだけの数が列を黒く波打たせる。汗と皮革と草の匂いが、山風に乗って漂った。


 夜営地では、黒人兵が砲の車輪を点検し、アステカ兵が薪を割り、タラスコの若い馬丁たちが火のそばで馬の蹄を拭っていた。言葉の違う男たちの間を、塩気の強い豆煮込みと焼いた肉が行き来する。アルバロはその光景を見下ろしながら、「石の首輪」はもう動き始めていると静かに確信していた。


 数日ののち、山並みの切れ目から、久しぶりに湖の光が見えた。薄い青の空の下で、テスココ湖の面が金属めいて光る。空気は湿り気を帯び、松の香りの代わりに、泥と藻の匂いが鼻を打った。


 湖に降り立つと、待ちかまえていたカヌーと筏が兵と砲を迎え入れた。大砲は慎重に筏へ載せられ、馬たちは耳を伏せて浅瀬を渡り、胸のあたりまで水に浸かりながら、湖上の都へ向かう堤の根元へと引かれていく。その周囲を、アステカの水夫たちが器用にカヌーを操り、波立つ水面に航路を刻んでいった。


 テノチティトランの堤が見えてくると、湖上には別の一団も現れた。


 大きな筏の上に、見慣れぬ四本足の影が集められている。茶色や白の、短い毛の牛たちである。そのすぐ横には、太い首をした新しい種類の馬、黒い豚の群れ、籠に入れられた鶏や山羊。さらに、樽や箱に詰められた柑橘やブドウの苗木、小麦やひよこ豆の種袋が、山のように積み上げられていた。


「……あれは?」


 アルバロが目を細めると、近くの黒人兵が肩をすくめた。


「港から来たばかりの荷だそうで。スペインからサントドミンゴを経て、この湖まで運ばれてきたとか」


 その言葉に、アルバロの口元がかすかに動いた。胸の奥で、古い声が聞こえた気がしたのである。


 堤に乗り上げると、湖上の都は前と同じようにざわめいていた。だが、人々のざわめきの質は変わっていた。


 前回、白い男と雷の棒が初めて現れたとき、人々は恐怖と好奇の間を揺れ動いていた。今日は、恐怖に混じって、不思議な安堵と期待がある。西南の山から戻ってくる「雷」が、今度は自分たちの側についているという噂が、すでに先回りしていたのだ。


 馬蹄が石の堤を叩くたびに、低い音が水面に響く。砲車のきしみと鉄の鎖の音が重なり、テノチティトランの耳には「雷と馬」が戻ってきたとしか聞こえなかった。


 宮殿の前の広場に入ったとき、アルバロは思わず手綱を引いた。


 黄金と羽飾りの列とは別に、見慣れた布と帽子をかぶった一団が立っていた。スペインの仕立てによる服、日焼けした白い顔。


「アルバロ!」


 母の声だった。少年時代の名を呼ぶ響きが、湖の都の喧騒の中で奇妙に鮮やかに聞こえた。


 彼女の隣には、髭を豊かに蓄えた父が立っている。その背後には、サントドミンゴで見慣れた黒人監督たちと、解放された元奴隷の男女が並び、さらにその後ろには、先ほど湖上で見かけた牛や豚、苗木や種袋が、すべてまとめて積み上げられていた。


「サントドミンゴはどうしたのです、父上」


 短く問うと、父は口元をほころばせた。


「お前が海を越えて“王都”へ行くと言うからな。スペインからカリブへ送られてきた家畜と種子のうち、持てるだけを船に積んで、こちらへ回した。牛、馬、豚、羊、麦、果樹……畑と牧場の一式だ」


 母も笑った。


「湖の都にも、きちんとしたパンとワインと乳を教えてやらなくてはね。それに、お前の寝床くらい、母親が見ておかないと」


 アルバロは、わずかに肩をすくめた。


「それは心強い」


 そう答えてから、視線を広場の奥へ移した。ここは王の都であり、嬉々として両親に抱きつく場所ではない。


 彼は馬を降り、家族と部下たちに短く頷きだけを残すと、モクテスマ二世の待つ宮殿へと向かった。


 広間には、再び黄金と香の匂いが満ちていた。高い天井の下、モクテスマ二世が玉座に座り、その左右には神官と諸都市の貴族たちが並ぶ。


 その列の一角に、テオトラルコの姿があった。


 39歳の皇后は、前に会ったときと同じように、黒い髪を高く結い上げ、翡翠と金の飾りで身を固めていた。ただ、その瞳は前よりも少しだけ鋭く、広間の入り口に現れた白い男の姿を、真正面から見据えている。


 アルバロがひざまずき、胸に手を当てると、広間にはざわめきが走った。彼の背後には、タラスコの将官と妻たちが縄で繋がれて控え、そのさらに後ろに、誓約書代わりの銅の槍や斧が山と積まれている。


「西南の砦は救われた」


 モクテスマの声が広間に響いた。通訳がナワトル語からスペイン語へ、そして再びナワトル語へと意味を往復させる。


「タラスコの槍は折られ、オストゥマには再びアステカの旗が翻っている。湖の王として、お前に感謝を述べる」


 アルバロは頭を下げた。


「陛下の砦と兵の力あってのことです」


 形式的なやりとりが交わされたのち、モクテスマは、タラスコとの講和条件について尋ねた。


 アルバロは淡々と答えた。


「ツィンツンツァンまで踏み込む必要はありませんでした。砲を見せ、谷を一度だけ鳴らしただけで、彼らの膝は十分に震えた。


 今後、オストゥマ周辺への攻撃は永久に禁じると約束させています。その代わりに、銅と木材と職人を、定期的にこの砦に送らせることにしました」


 広間の空気が、わずかに変わった。


「銅と職人を、砦へ?」


 モクテスマの視線が細くなる。


「はい。砦と、その周辺の山は、すでに砲と馬の育つ土地になりつつあります。タラスコの銅は砲弾を、木材は砲車と船を支え、職人はそのすべてを手入れする。彼らが働けば働くほど、陛下の西南の爪は強くなります」


 アルバロはあえて、「モリーナ家の砦」という言葉を使わなかった。だが、広間の誰もが、それが実質的にはそうなっていることを察していた。オストゥマには彼の弟ペドロが残り、黒人兵とアステカ兵が砲列を守っていると、先ほどの報告で聞いたばかりである。


 テオトラルコは、黄金の杯の縁を指でなぞりながら、そのやりとりをじっと見ていた。


 この白い男は、王のために砦を救った。だが同時に、自分の家の名で砦を縫い取り、タラスコという大国の喉元に、自分の手の届く縄をかけた。そのことを、王妃は誰よりも早く理解していた。


 モクテスマは、表向きの笑みを崩さないまま、質問を重ねた。


「タラスコの王は、お前をどう見ている」


「ケツァルコアトルの雷を連れてきた男だと」


 アルバロは肩をすくめた。


「私が陛下の許しなく山を越えないかぎり、彼らはもう槍をこちらに向けないでしょう。代わりに、銅と木と男を差し出すしか道は残っていません」


 広間の脇で、側近たちが顔を見合わせた。


 西の大国タラスコ。その爪を折らずに、首輪だけを締めた外来の男。


 感謝と同時に、漠然とした不安と羨望が、彼らの胸に湧き上がる。なぜこのような手を思いつかなかったのか。なぜこの男が、それを実現できるのか。


 モクテスマのまぶたの奥にも、初めて濃い影が差した。


 雷と馬。


 湖の都を震わせるその二つが、いまやタラスコとアステカの両方の首輪を握っている。そして、その鎖の端を持っているのは、自分ではなく、一人の外来の男であった。


 謁見が終わり、黄金と布の献上が形式どおりに進むあいだ、テオトラルコはほとんど言葉を発さなかった。ただ、アルバロが退くとき、一瞬だけ目が合った。


 短い瞬き。


 その一瞬の中に、彼女の中のいくつもの感情が混じっていた。


 王の政治を支える者としての計算。娘イサベルの未来を思う母としての不安。そして、前にカカオの杯を差し出したときに芽生え、いまや隠しきれなくなりつつある、女としての好奇と渇き。


 アルバロは、その視線を真正面から受け止め、ほんのわずかに口角を上げてから、背を向けた。


 その日の夕暮れ、彼は湖のほとりに用意された仮の屋敷を見回った。


 中庭には、父が連れてきた牛や馬が繋がれている。黒人監督とアステカの若者たちが、慣れない手つきで乳を搾り、干し草を運んでいる。母は新しい台所を検分し、サントドミンゴから運ばれてきた香辛料や小麦粉の袋を並べながら、「ここならパンも煮込みもどうにかなる」と満足げに頷いた。


 アルバロは、湖から吹き込む風を胸いっぱいに吸い込み、石と水と家畜と砲とが混ざった匂いを味わった。


 その夜、静まり返った回廊に、柔らかな足音が響いた。


 香油とカカオの甘い匂いが、扉の隙間から先に入り込んでくる。


 モクテスマ二世の皇后テオトラルコは、侍女を遠ざけ、一人で白い客人の寝所を訪れた。


 その夜だけでは終わらなかった。


 湖の都に「雷と馬」の音が戻った日を境に、皇后の足音もまた、ほとんど毎晩のように、同じ回廊を通るようになった。

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