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彼女がいない理由を、オレたちはまだ知らない  作者: 双鶴


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9/10

9話

1. 金曜午後6時、ファミレスにて


「今週のテーマは、“恋愛が始まる瞬間”だ」


佐久間が言った。

経済学部らしく、今日もホワイトボードアプリを開いている。

画面には、「恋愛=始まりの自覚」と書かれていた。


「俺、始まったことに気づけなかった恋、ある」


西野が言った。

文学部らしく、今日もミネストローネ。


「一緒に帰ってた。LINEしてた。誕生日にプレゼントもらった。

でも、“好き”って言われるまで、気づかなかった」


「それ、始まってたのに、見逃したやつだ」


佐久間が言った。


「始まりって、いつなんだろうね。

“好きかも”って思った瞬間?

それとも、“好きって言われた”瞬間?」


翔太は黙ってポテトを食べていた。

でも、今日は、少しだけ言った。


「……俺、“始まる前に終わった”こと、あります」


3人が、静かに彼を見た。


---


2. 始まる前に終わる恋


「高校のとき。

隣の席で、よく話してて。

文化祭で一緒に準備して。

でも、卒業式の日、彼氏がいるって知って。

俺の中では、始まってたのに、現実では始まってなかった」


翔太が言った。


「それ、始まりの“片側だけ”だったんだね」


西野が言った。


「恋愛って、両側が“始まった”って思わないと、始まらない」


佐久間が言った。


翔太は、スマホのメモに書いた。


“恋愛=両側の始まり/片側だけでは、記憶になる”


陸は、静かに頷いた。

彼は、“始まったことに気づかれなかった側”だったことがある。


---


3. 始まりの予感


「でもさ、“始まる予感”って、あるよね」


西野が言った。


「LINEの文体が変わったり、

会話のテンポが合ってきたり、

ちょっとだけ沈黙が心地よくなったり」


「それ、全部“始まりの兆候”だな」


佐久間が言った。


「でも、予感って、確信にはならない。

予感のまま終わることもある」


翔太が言った。


陸は、スマホを見ていた。

彼女との最初のLINEを、もう一度読み返していた。


---


4. 俺たちは、まだ始まっていないかもしれない


「次回のテーマは、“恋愛の終わり方”でいこう」


佐久間が言った。


「それ、始まってないと語れないじゃん」


西野が言った。


「でも、“終わったことにされる”ってこともあるよね」


翔太が言った。


陸は、静かに笑った。

その笑顔は、“始まりも終わりも知っている”笑顔だった。


——俺たちは、まだ始まっていないかもしれない。

——でも、予感だけでも、前に進める。

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