9話
1. 金曜午後6時、ファミレスにて
「今週のテーマは、“恋愛が始まる瞬間”だ」
佐久間が言った。
経済学部らしく、今日もホワイトボードアプリを開いている。
画面には、「恋愛=始まりの自覚」と書かれていた。
「俺、始まったことに気づけなかった恋、ある」
西野が言った。
文学部らしく、今日もミネストローネ。
「一緒に帰ってた。LINEしてた。誕生日にプレゼントもらった。
でも、“好き”って言われるまで、気づかなかった」
「それ、始まってたのに、見逃したやつだ」
佐久間が言った。
「始まりって、いつなんだろうね。
“好きかも”って思った瞬間?
それとも、“好きって言われた”瞬間?」
翔太は黙ってポテトを食べていた。
でも、今日は、少しだけ言った。
「……俺、“始まる前に終わった”こと、あります」
3人が、静かに彼を見た。
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2. 始まる前に終わる恋
「高校のとき。
隣の席で、よく話してて。
文化祭で一緒に準備して。
でも、卒業式の日、彼氏がいるって知って。
俺の中では、始まってたのに、現実では始まってなかった」
翔太が言った。
「それ、始まりの“片側だけ”だったんだね」
西野が言った。
「恋愛って、両側が“始まった”って思わないと、始まらない」
佐久間が言った。
翔太は、スマホのメモに書いた。
“恋愛=両側の始まり/片側だけでは、記憶になる”
陸は、静かに頷いた。
彼は、“始まったことに気づかれなかった側”だったことがある。
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3. 始まりの予感
「でもさ、“始まる予感”って、あるよね」
西野が言った。
「LINEの文体が変わったり、
会話のテンポが合ってきたり、
ちょっとだけ沈黙が心地よくなったり」
「それ、全部“始まりの兆候”だな」
佐久間が言った。
「でも、予感って、確信にはならない。
予感のまま終わることもある」
翔太が言った。
陸は、スマホを見ていた。
彼女との最初のLINEを、もう一度読み返していた。
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4. 俺たちは、まだ始まっていないかもしれない
「次回のテーマは、“恋愛の終わり方”でいこう」
佐久間が言った。
「それ、始まってないと語れないじゃん」
西野が言った。
「でも、“終わったことにされる”ってこともあるよね」
翔太が言った。
陸は、静かに笑った。
その笑顔は、“始まりも終わりも知っている”笑顔だった。
——俺たちは、まだ始まっていないかもしれない。
——でも、予感だけでも、前に進める。




