1話
1. 金曜午後6時、大学近くのファミレス
「今週のテーマは、“清潔感とは何か”だ」
佐久間が言った。
経済学部らしく、ノートPCを開いている。
画面には、“恋愛成功率と清潔感の相関グラフ”が表示されていた。
「それ、どこから持ってきたの?」
西野が聞く。
文学部らしく、手元には文庫本とミネストローネ。
「Twitterの恋愛垢と、某婚活サイトの統計。あと、俺の主観」
「主観入ってる時点で、信頼性ゼロじゃん」
「でも、清潔感って、定義できると思うんだよ。髪型、服装、匂い、姿勢、声のトーン。全部、数値化できる」
「それ、恋愛じゃなくて就活じゃん」
「恋愛と就活は、構造が似てる。自己PR、第一印象、継続的な関係構築」
「じゃあ、俺たち、恋愛のSPI落ちてるってこと?」
「たぶん、そう」
翔太は黙ってポテトを食べている。
でも、スマホのメモには「清潔感=他人が感じる安心感」と書いてあった。
陸は、静かに水を飲んでいた。
彼は、今日も“彼女がいる”ことを黙っていた。
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2. 恋愛未満の自己分析
「俺さ、LINEの返信、早すぎるって言われたことある」
西野が言った。
「それ、好感度下げるやつ。返信速度と好感度は、逆相関になることがある」
佐久間が即答。
「でも、好きな子から来たら、すぐ返したくなるじゃん」
「それがダメなんだよ。恋愛は、感情のタイミング戦争」
「じゃあ、返信は何分後がベストなの?」
「平均は、37分後。即レスは“暇人”認定される」
「それ、誰の統計?」
「俺の失恋履歴」
翔太は、スマホを見ていた。
LINE未読のまま、3日経っている。
でも、誰にも言っていない。
陸は、彼女からのLINEを“非表示”にしていた。
この会の空気が、壊れそうだったから。
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3. 俺たちは、まだ知らない
「結局さ、俺たちって、なんで彼女できないんだろうね」
西野が言った。
「分析はしてる。でも、答えは出ない」
佐久間が言った。
「たぶん、答えって、出すもんじゃなくて、出てくるもんなんだよ」
翔太が言った。
「……俺は、答え、知ってるかもしれない」
陸が言った。
でも、その言葉の続きは、誰にも聞こえなかった。
ファミレスの店内放送が、ちょうど流れたから。
「次回のテーマは、“いい人止まりの構造”でいこう」
佐久間が言った。
「それ、俺の人生そのものじゃん」
西野が笑った。
「俺たち、まだ知らないこと、いっぱいあるな」
陸は、黙って頷いた。
彼女からのLINEは、まだ非表示のままだった。




