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 頭に鈍い衝撃が走り。


 ――意識が――


 ―――薄れていく―――



 …………そうだった。



 私は……、いや俺は……。


 あの時死んだんだ。



 俺は日本人で、名前は折茂おりも たけし

 見た目モブ感と名前の茂と武でモブと呼ばれてきた俺は、モブを脱却すべく芸人を目指していた。


 養成所に入るも相方は出来ず、ピン芸人としてやっていくしか無かった。

 センスが無いのは分かっていた。でも諦めたくなかった。


 あの雨の日、バイトに遅刻しそうになって、アパートの階段を駆け下りた。

 その時足を滑らせ階段から落ちて、トラックに轢かれたんだった。


 全身を強く打ってというのはこういう事かと思いながら。俺は死んだんだ。


 特に神に会った記憶は無いが、俺は異世界転生したんだな。


 でも別に普通の人間だったから石鹸作って金儲けとか出来ないよな……。


 と言うか転生物の主人公の知識量おかしいだろう。専門知識どうなってんだ。何して過ごしてきたんだあいつら。


 転生した意味があるのか分からんが、とりあえず……生きるか。


 と思う、グレイスと同じタイミングで頭を強打した、イッパーン村のショウ・ミーン(転生者)であった。


 ―――――



「いったーーい!!!」


 ぶつけた頭を抑えると、ヌルッとした感触。血が出ているのがすぐに分かった。


「ちょっとゲイル!ストップ!降ろして!」


「ゴメンゴメン!」


 そう言ってゲイルは、肩車からゆっくり下ろしてくれた。


「うわ。結構血出てるじゃないの。ゲイルのバカ!ちゃんと前見て走りなさ…歩きなさいよね!ホント痛っ。」


「ゴメンねグレイス。今治すよ。」


 そう言うとゲイルはカバンから瓶を取り出した。

 瓶の中身は光り、とろみがかっている

「それ……ポーション?」


「いや。唾。」


 は?唾?唾ってあの唾?口から出るあの……唾?


「ちょっと待てよ。うわー結構パックリいってんな。ホントごめんなさい。」


「何考えてんの?なんで唾瓶に入れて持ち歩いてるの?口から直接出せばいいじゃない!いや良くない!汚い!気持ち悪い!マジでやめて!」


「大丈夫。スキルを使うから。」


「は?何言ってんの?バカじゃないの?ホント無理!無理だからやめて!」


 嫌がる私を押さえつけ、瓶に入った唾をかけやがった。

 するとゲイルは光りだした。


「おばあちゃんの知恵袋ヒール


 何しやがった。確実におばあちゃんの知恵袋って言ったよなコイツ。

 ああー、あれか。唾つけときゃ治るってやつか。そんなんで治るわけねえだろ!そもそも知恵でも何でもない!


「くっさ!ざけんなテメーぶっ〇す!」


 未だかつてない程、限界まで拳を握りしめゲイルに振りかざす。


 ……?


「……え?痛くない。」


 頭を触るともう傷は塞がっている。

 手に血も付いていない。唾はベチョベチョだが。


「これが俺のスキル。G.W《ギャグ漫画ワールド》だ!」


 ゲイルが凄いドヤ顔をしてくる。


「本当にどういうスキルなの……?くさい……。」


 この男は余りにも訳が分からなすぎる。コイツというかスキルか?

 ギャグ漫画って一体何なんだ?コイツにも分からないのに何故使いこなせる?

 笑いの神とやら。教えてくれ。そして臭いをどうにかしてくれ。


(わかったよー。)


 何この声?頭ぶつけた影響か?


(違うよー。)


 声を出していないのに返事が?もしかして笑いの神?


(そうだよー。)


 神の声が聞こえているって事?


(そうだよー。)


 ああ、神よ。ゲイルのG.Wとか言うスキルと私のツッコミスキルについて教えていただけますか?

 あと一度で長めに話してください。


(ギャグ漫画ワールド《以下G.W》ってのはね。異世界から流れてきた漫画っていう絵の書いてある本の中で、ギャグ漫画っていうジャンルの漫画なんだけど。僕が見たギャグ漫画では主人公がなんか説明に困るよく分からない技を使ったりして敵を倒していくんだけどね。それを参考にして作ったスキルなんだ。なんかね。凄いの。読者目線で見ると面白いけど、直接体感すると訳わかんないよね。自分でもそう思う。理不尽なスキルだよね。とりあえず考えたら負けだよ。感じるんだ。狂気を解き放つみたいなそんな感じさね。ノリとか勢いが大事!)


 分かったような分かんないような。そして結構笑いの神喋るの下手だな。


(喋るの下手ですみませんね!)


 ヤベ。思考読まれてた。


(んで君の《ツッコミ》は……。)


 ツッコミは……?


(喋るの下手だから練習してからまた説明しますね。臭いは頭洗ってください。)


 え?教えてくれないんですか?急に喋り方丁寧になって、……怒ってます?


 ………。


「おい!笑いの神よぉーー!」


「急にどうした?大丈夫か!?まさか頭をぶつけた影響か?」


「……そうだといいかな。」


 まあよくわからんがスキル作った本人ですらよくわからんなら、誰もわからんよ……。


 まあよくわからんけど凄いスキルだということはわかった。

 でもコレについていくのはとても精神が削られそうだ。

 ノリって言ってたし、適当に合わせればいいか。…………合わせるって何をだ?私も大分おかしくなってきたなあ……。


「はぁ……。」


「?」

「大丈夫そうなら行くぜ?」


 また肩車は継続か。いや待てよ。さっき傷治ったから足の痛みもどうにか出来ないかな?唾は嫌だけど。


「ねえゲイル!足の痛みは治せない?出来れば唾以外で。そうしたら肩車しなくて済むじゃない?」


 ゲイルは首を振る。


「その知恵袋は、まだおばあから仕入れていないから無理だ。」


「そういう仕組みなんだ……。因みに他に何があるの?」


「そうだな。火傷にアロエ塗るとか。パンの耳を揚げて砂糖まぶすと立派なおやつになるとか。風邪ひいたら首にネギまくとか。ゴボウは酢水に漬けておくと色が変わらないとか。」


「へぇー、そうなんだ。生活の知恵じゃん。」


 ノリと勢いで行けるならきっと治るんだろうなぁ。パンの耳とゴボウは普通に役立ちそうだけど。

 もしかしてノリと勢いでどうにかなるなら、今適当に考えてうちのおばあちゃんが言ってたことにすれば、もしかして出来るのではないだろうか?

 なんだろう?何か塗るとかかな?唾とか体液系は嫌だな。近くにあるのは……、草と木と土くらいか。

 うーん、ダメだ。体の内部となると変なもの入れられたくもないし、考えつかない。


「普通の治癒魔法とかは覚えてたりはしない?もしくは普通のちゃんとしたポーションとか。」


「治癒魔法は覚えてないわ。ポーションもこれ(唾)しか持ってない。」


「……唾をポーションって呼ぶの止めよう?」


「流石にポーションに失礼か。わかった。」


 さあどうしようか。村に行けば治癒術師はいるだろうから、そこまでどうにか出来ればいいんだけど……。


「そういえばさ、バーダック村ってどのくらい距離あるの?」


「ん?多分徒歩二分くらい。」


「戦う必要ねえじゃん!」


「それはどうかな?じゃあ行くぞ!」


 そうしてまた肩車される。どうかなじゃねえよ。きっとお姫様抱っこしてって言っても無駄だろう。


「お願いだから走らないでよ。」


「ん。」


 返事して走りはしなかったが、競歩並みのスピードで歩き出した。

 ムカつく奴だなぁ……。


 どうにか頭をぶつける事なく進んでいると、やっと村が見えてきた。

 徒歩二分って言ってたのに、なんやかんや30分はかかったので、時々太ももで頚動脈を絞めた。


「はぁ……。やっと村ね。それにしてもアンタの時間感覚どうなってんのよ。」


「待て!!!」


 ゲイルは急に大声を出し立ち止まる。


「あそこにモンスターがいる。」と囁く。


「何で急に小声なの。さっき大声出したから気付かれてんじゃないの。」


 よく見てみると何かいる。あれはスライムだ。


「本当だ。んでこっち来てるけどどうするの?」


「そりゃ勿論倒すさ!」


 スライムは核を破壊すれば倒せる。しかし打撃だとヌルンッとして核が動いてなかなか倒せない。

 剣で斬る、魔法で倒すのが定石だ。


「武器もゴボウも無いけどどうやって?」


「ふっ。俺は賢者の息子だぜ。スライムくらいファイヤーボールでチョチョイのチョイって感じさ。」


「はよ倒して。」


「はい。ファイヤーボール!」


 流石賢者の息子といった所か、特に詠唱も無く魔法を繰り出そうとする。


 え、ちょっと待って。ゲイルの手、私の足握ってるよね…………。


「ああああっちいぃぃい!!!」


 足に直接ファイヤーボールを食らう。

 痛みのあまり力が入り、ゲイルの首を絞め、捻りながら前へバランスを崩し、フランケンシュタイナーの様な状態になる。

 そしてゲイルの頭は大地と一つになり、首から下が木のように逆さに埋まった。


「あっつぅー!いったぁー!肩車なら手が空くって言ってたじゃないのバカ!!!」


 直前で気付いて威力を弱めたのか、想像よりは軽い火傷で済んだ。

 ゲイルはそのまま埋まっているのでとりあえずみぞおちを殴っておく。


 するとゲイルの体はくの字に折れ曲がり、足が付き、手を付けて踏ん張っている。


 やがてポンッと頭が抜けると「ぶへぁっ。ゴメンなグレイス。」とベチョベチョになりながら謝ってくるが、喋りたくないので親指で首を切り、下に向ける。


 本当に大丈夫なのかなとガックリしてしまう。

 ん?そういえばスライムはどこへ行ったのか。辺りを見回すが見つからない。


「スライムも逃げ場無くせば物理攻撃でいけるんだなぁ……。」


 頭の埋まっていた穴を見てみると、スライムが飛び散っていた。ゲイルのベチョベチョはスライムを巻き込んでいたようだ。


 そんな事はもう無視する。


「ねぇ。早く火傷直してよ。」


「すまんすまん。」


 何処からかアロエを取り出し、断面を火傷部分に塗りながら「おばあちゃんの知恵袋ヒール」と唱える。


 みるみる火傷が治っていくが、色々すごい疲れた。


「よし治った!じゃあ行こうか!もうすぐそこだ!」


 手を差し伸べてくるゲイルの頭はスライムでグチョグチョだった。というか何で無傷だし特に何も無かったように振る舞っているのか……。


 考えない方がいいか。もう……。


 とはいえ股の間がグチョグチョの頭なのは嫌だなと思う。


「肩車やめてお姫様抱っこにしてよ。そんなグチョグチョで肩車されたくない。」


「確かに。」


 そう言うとお姫様抱っこをしてくれた。……がスライムめっちゃ垂れてくる。


 ……早く村に行きたい。


「そのまま早く走れ。」


 結局私はスライムを浴びながら村へと辿り着いた。

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