両手を使わなければ、君を抱えれない。両手が空いてなければ、君を守れない。
「ところで君、大丈夫かい?」
青年は手を差し伸べてきた。
良かった。聞こえていなかったようだ。
手を取り立ち上がる。
「はい!おかげで助かりました!本当にありがとうございます!」
「その耳……どうやら君はエルフのようだね。なんでこんな所に?」
「あ、はい。えっとですね。私たちの村の結界が弱まってきて、魔人に見つかりそうなのです。なのでギルドに依頼を出そうと思って、町に向かっていた途中なのです。」
「へえ。そうだったんだ。それは大変だったね。」
え?何この人。さっきのゴボウで戦ってた意味不明な人とは思えないくらいいい人そうじゃない。
よく見たら私好みのイケメンじゃありませんか。太すぎず細すぎず。いい感じの筋肉感…………。
ハッ!そんな事考えてる場合じゃない!
「それでですね。事が事だけに勇者様にお願いしたいと思っていたのですが、流石にそれは無理そうなので、どんな人か分からないですけど、最近噂になっている【鬼人】と呼ばれるゲイル様という人にお願い出来たらなと思っていたのですが……。」
緊張しすぎてペラペラ喋りすぎてしまった。
すると青年はニッコリと微笑みながら
「それ。俺。」
「…………?えええっーーーー!?」
ヤバい!凄い!ここで出会っちゃう?何これ運命?まさか助けてくれたのが【鬼人】のゲイル様だったなんて!!!そんなピンチに颯爽と現れて、あんな雑魚達をゴボウでズババーっと瞬殺して………。
……ゴボウで?
「あ…あの…ゲイル様は何故ゴボウで戦っていたのですか?」
そう質問すると、ゲイルは悲しそうな顔で答えた。
「ドジョウをさ、捕まえたからさ……。鍋にしようと思ったんだ。」
……ん?
「ゴボウ必要だなと思って、買ってショートカットして帰ろうと思ってたらさ、こうなってた。」
コイツ大丈夫かなと思わず漏れそうになったが堪えた。
「…………………。」
沈黙が流れる。
なので少し聞き方を変えてみる。落ち着いたら奴隷商人がいつの間にか逃げてたけど、とりあえずどうでもいいや。
「えっと、ゲイル様は剣聖なのですか?」
「いや、親父はそうだけど俺は違う。昔剣聖の技術を叩き込まれたからなんかふんわりとした感じでは使えるけどね。あと賢者の母さんに魔法覚えさせられたりしてさ。俺は嫌だったけど、頑張ったらお菓子くれるから頑張ってたわけさ。そしたらなんかいい感じに強くなってたのさ。それでさそのお菓子が美味しすぎていっぱい食べてたらさ、凄い太っちゃってさ。アンタそんなんじゃモテないよ!って母さんに言われてさ。んで鏡見たら流石にヤバいなこのお腹と思ってさ。お菓子やめて必死にダイエットした訳よ。鍛えられてたのにあんなに太るってどんだけあのお菓子カロリーヤバいんだろうってね。」
もしかして関わらない方がいい感じの人かな?
だが【鬼人】と呼ばれる強さにはそんな理由があったのか。どちらかというと【奇人】だが……。
しかしどうしても気になってしまう。あの技が。
「あの……。さっきの技ってゴボウに関するスキルなんでしょうか?」
ちょっと吹き出しそうになりながら質問した。
「違う。俺のスキルはG.W。略してるからアレだけど、ギャグ漫画ワールドとか言うよくわかんないスキルさ。ギャグ漫画ってなんなんだろうね?」
「ギャグ漫画……?ギャグは分かりますけど、漫画って?」
「さぁ?よくわからんけど笑いの神の加護を得た時に、『お前には神の如きスキルを授ける。そのスキルで人々を笑顔にするがいい。
…………はぁーこの喋り方恥ずかしいわぁ。キャラ演じるのも面倒だわ。……………あっ!ヤバいまだ繋がっ――』ってお告げがあってさ。」
なんだろう。考えるのも面倒くさい気がしてきたので一旦スルーする。
「わーすごーい。」
「まあ凄いスキルらしいのさ。そういえば君も笑いの神の加護持ちだよね。君のスキルはなんなんだい?」
正直恥だった。だから村でもちょっと変な子扱いされていた。
でも今嘘ついたって何にもならない。
「えっと、私のスキルは…………【ツッコミ】で――」
「そうか!君だったんだ!僕の探していた運命の人……いや相方は!」
「え…………?」
他のエルフは様々な神の加護を持ち、皆使えるスキルを持っていた。
なのに私はよく分からない【ツッコミ】とか言う本当に役に立たない意味の分からないスキルだった。
でも、こうして受け入れてくれる人が現れるなんて思ってもいなかった。
戦えるわけでもない。他者を癒やしたり補助したりもできない、こうやって誰かに助けを求めることしか出来ない役立たずの自分を。
――けれど。
初めてだ。
この力を 必要だ。 と言ってくれる人がいる。
よくわからん力だと思うけど。
「……あれ?」
気づけば涙が溢れていた。
嬉しい……のだろうか?嬉しいのかなぁ?いや、本当にどうなんだこれ。
褒めてもらったのはありがたいが、変人だしなぁ……。そもそもツッコミって何なんだよマジで。どんなスキルだよ。どういう効果あるんだよ。
そういえばさっきなんか共鳴?したけど関係あるの?なんかバフとか?いやバフにしても終わったあとにバフかかっても意味ないよな。
「いや待てよ……だとしたら一体……?」
涙でぐちゃぐちゃで混乱したままとにかく状況を整理しようとブツクサ呟いていた。
「なんかブツクサ言って……変な奴だなぁ。」
「私より変な人に言われたくないわ!」
スキルのせいなのか?咄嗟に突っ込んでしまう。
「ははっ。いいツッコミだ!それでこそ俺が求めていた相棒だ!」
……なんかもう自然と涙も引いて、諦めた顔になってしまう。
「いいツッコミか知りませんけど、そういえば共鳴?した時何かありました?」
「いや特に無い!」
もう……わからん。なんかもういいや。うん。
「あの、もうどうでもいいんですけどうちの村助けてほしいです。」
なんだもう。棒読みになってしまう。きっと顔も読書に集中してる時に話しかけられて、全く興味無さそうに答えてる時の表情だろうな。
「おう!俺が力になれるなら!」
「ありがとうございます。」
ヤバい。事務的に返してしまう。情緒不安定?女心と秋の空って言うし、しょうがないよね。うん。しょうがない。
とりあえず目的の人物が助けてくれる事が決定したようなので、立ち上がろうとする。
「痛っ……。」
「どうした?立てないのか?」
「すみません。さっきのいざこざで知らぬ間に足を挫いていたみたいで……。」
「そうか……。よし!任せろ!」
そう言うとゲイルは私を抱きかかえ……ずに肩車をした。
「え?なんで?」
「こうしたら君が踏ん張れば両手が空くから、戦えるじゃないの。」
言ってる事はごもっともではある……のかなぁ?本当に大丈夫だろうかこの人で。
この短時間で奇人具合を受け入れて来ている自分がいた。最早諦めに近いのだろう。
運ばれている最中に放り投げられるよりはマシだろう。と自分の感覚もおかしくなってきているが、それはもう受け入れ《諦め》た。
「そういえば君の名前は?」
「すみません自己紹介が遅れました。私はグレイス。グレイス・ウインドベルです。」
頭頂部に語りかけるってなかなか無いよね。この人つむじが4個もあるわ。
「よろしくな!グレイス!面倒くさいからタメ口で良いよ!」
「わかった!ありがとうゲイル!よろしくね!」
タメ口を使う事に不思議と躊躇いは無かった。不思議ですら無い。
「じゃあ、行こうか!」
流石にこのまま肩車でエルフの村に向かわれても困るので、近くで休憩、治療出来る場所に向かいたい。
ずっと肩車なんて色んな意味で無理すぎる。
……確か近くに村があったはずだ。
「あのねゲイル。ずっと肩車してもらうわけにもいかないから近くの村に行ってほしいの。」
「わかった。ゴボウも買い直さなきゃいけないから、バーダック村だな。」
そう言うとゲイルは出てきた道も無い木々の方へと体を向けた。
そして
「レッツゴー!」
まじかよコイツ。走り出した。
足も痛いが股間も痛い。
「ちょっと!ゲイル!色々痛いから走らないでぇぇぇぇ!」
その時だった。私は木の枝に頭を強打した。