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37 エピローグ

 刻々と暮れてゆく夕日の中、荷馬車はガタゴトとうるさい音を立てて南へと進んでいる。


「今頃は満腹ほろ酔いでダンスなんてシテいるんでしょうカ。ああ、私も人生で一度くらい王城のパーティとヤラやらに参加してミタかったモノです」


「鳥が踊ったら、確かに面白いだろうな」


「余興係でってコトじゃナイですよ! 当然人間の姿に戻って、ってコトです‼」


 御者台の少年が隣の席に器用に留まった鳥と会話している様子は、幸いなことに人通りがほとんどない街道で目立つことはなかった。もし注目されたら、さらにその少年が驚くほどの美貌であることに気付き、人々の記憶の端に残ってしまったかもしれない。

 少年は――男装をした伝説の少女レアラードは常にそれを憂えている。


「私はダンスなんてしたコトがありまセンけどね、でもキルファさんダッタら優しく教えてクレルでしょ、きっと。あんなマッスグな娘さん、なかなかイマせんよ」


「本人が自分の純真さに気付いていないからな」


 言いながら、思い出してレアラードは微笑む。

 彼女はあまり微笑みを見せるタイプではないと鳥は知っている。彼女と共に旅を始めてまだ一月足らずだが、その間でも言い寄る男女やちょっかいを出す者はひっきりなしであったことを鳥は無意識に体を左右に揺すりながら思い出していた。


「急ぐ旅でナイのなら一緒に出発して、友達にナレばよかっタのに」


 と鳥は口にしかけて止めた。二百数十歳の彼女はすでに友達の作り方なんて忘れているのかもしれない。


「ラルクに念を押されたしな。あまり近づかないように」


「そこマデ露骨には言っていマセンでしょ。でもまあ、ソウデすね。非常にヤンわりとですガ、キルファさんを守ろうとシテいましたね。どう勘違いしたノカ、あなたをキルファさんの“危険な恋ノ相手”と認識している節がありマシたし」


「ラルクは言わないのだろうな」


「言わナイみたいデスよ。()()()()()()()()()()()()、トは」


 ヴァリスの頭の中に、たぶん現実とそうかけ離れていないキルファとラルクのパーティでの様子が空想された。きっとラルクは王城の雰囲気に慣れないキルファを優しくエスコートしながら、かつて幼い自分に送られてきたお見合い用の肖像画を思い出し、面影を見ているだろう。

 ラルクが言うには届いた肖像画は規格外で、“窓から逃亡しようとしている少女の絵”だったために大いに笑ったという。見合い話はいつの間にか消滅したようだが、彼は気に入ってしばらく絵を手元に置いていた、と語った。


「キルファさんには私の肖像画は届いていなかったようですし、気にされると申し訳ないので、そのままにしてください」


 キルファがドレスの支度をしている間に、ガイレンティア国の出奔王子は慣れた様子で正装を着こなしてヴァリスとの雑談に応じた。


(寝ていたと思ってイマしたガ、聞いてイタんですね)


 雑談の間、部屋のソファで目を閉じて休んでいたレアラードを思い出し、ヴァリスはまた左右に重心を入れ替えるダンスを無意識に始めた。


 日はすでに暮れて、空の素晴らしいグラデーションのショーが終わりに向かっていた。

 レアラードが静かに手を前にかざすと、空中に魔方陣が現れてその中央から光の球が現れる。消える魔方陣に対して光の球はそのまま青白く発光しながらすっと馬の進行を助けるように前に出た。

 あまりに事もなげに魔法を使う様子にすれ違った商人がぎょっとしたが、王都へ急いでいる彼がわざわざ方向転換してまで問いただすことはない。


「本当に砂漠まで行クンですね? ドこへ行くにシロ遠回りにナリますケド」


「うむ、早くガイレンティア国へ行きたいところ申し訳ないが」


「私のコトは良いんデす。ただ、“合成獣キメラ研究者”があナタの兄だトイウのは本当なんデスか?」


「いや。だから確かめたいんだ」


 懐にしまわれている日記を感じ取るように、レアラードの手が薄い胸板に当てられた。


「しかしデスね、カイザークと言えバよりしろの中でも群を抜いた好青年のイメージですヨ。中途半端に生物と物を掛け合わすヨウな合成獣(キメラ)研究をしテ、サラに投げ出していくヨウな人に思えまセん」


「私と同じで二百年の色眼鏡がかかっているんだ。寝坊もすれば保存食を食べた食べないで喧嘩もする普通の男だよ」


 思い出したのか、ふと美少女の頬が緩みーーそして引き締まる。鳥は彼女にとって兄の思い出が良い物ばかりではないというその気配を素早く察知した。


「今日中に次の町まデは進めマセんよネ」


「そうだな、その手前までだ。だが出立が遅かったから、馬はもう少しだけ走れそうだな」


「野宿でスか? 野宿だと野生動物が私を狙ってキソうで怖いヨオ!」


「鳥だからってカワイ子ぶってもダメだ。野宿と言ったら野宿」


 ここ数日で鳥としての処世術を覚えた本体は三十路近い血色の悪い魔道士ヴァリスは、王城の侍女たちにもてはやされた甘い日々を偲んだ。


「パーティーに出なくてもいいから、もう一泊だけ王城にいれば野宿は避けられたのに」


「王が私の存在に気づきはじめていたからな。エミーがかなり盾になってくれていたようだが」


「エミー王子・・・・・・ランダとして一月も一緒にいたから、やはり我々を理解してくれていたんですね」


「どうだろう、昨夜はあいつ自身が夜這いに来たぞ」


「あのクソエロ変態王子‼」


 ヴァリスの冠羽が盛大に開いて怒りのダンスを始めた。

 荷馬車は魔法の灯りを携えながら、すでに誰もいなくなった街道を進んでいく。

 彼らの旅は、まだ終わりの気配を見せない。


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