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30 おうじ三人

 ヴァリスがこっそり教えてくれたところによると、伝説の美少女魔法剣士と呼ばれているレアラードはどうして自分が長生きしているのかわからないまま二百年以上の時を姿も変わらずに生きているという。


 もしかしたら今の世界にとっては旧世界といえる“よりしろ時代”の()()を消すことが自分がまっとうに死ねる方法なのでは、とレアラードは考えているそうだ。言うなれば自殺とも言える行為を彼女はしているのだが、それを止められるほど俺は長く生きていないし世間も知らない。

 不老長寿は人類の憧れのように言われているが、実際にそれに近い状況のレアラードにとっては目的の見えない長い人生は苦痛を伴っているのだろう。


 異世界からの魔力をその身に流し込める“よりしろ”達が数多(あまた)存在し、そのために世界が麻のように乱れた“よりしろ時代”。時代の最後にあった大戦を経てすでに二百年あまりが経過している。


 伝説と化してしまったためにレアラードについては「自分を知る者はいない」という状況ではないが、名を知っていても存在自体を身近に感じられる者はすでにこの世にはいなくなっている。そんな彼女にとってこの合成獣(キメラ)亀はもう多分唯一と言って良い“同じ時代を過ごしてきた存在”に違いない。自分からは一切言い出さないが、俺が「もう少し待とう」と言ったときにレアラードの気が緩んだような気配があったのは決して勘違いではないだろう。


 合成獣(キメラ)製造機を破壊したときには、そんな様子は微塵も見せなかったのにな。あれは半人半猿のような倫理観度外視の兵器造りにも使われていたし、仕方のないことだが。

 半人半猿造りのノウハウがどこまで伝わっているのかわからないが、リカゲルだけが使えたというわけではないだろう。今後、また無法な人体実験が行われる可能性があるなら、製造機自体を排除した方がいいのはレアラードでなくても当たり前にやらなければならないことだと思えた。


 半人半猿を鏖殺(おうさつ)したのも同じ理由だろう。ヴァリスが言うには、そもそも半人半猿をリカゲルと作り出したロイという魔道士の命をレアラードは昔救っているらしく、その責任感もそこには含まれているという。


(あの蝶は、きれいだったけどな)


 鍾乳洞を揺蕩(たゆた)うあの幻想的な蝶の姿を、俺はたぶん生涯忘れることはないだろう。リカゲルも父親に何と言われようとあれだけを作っていたなら、別の人生が開けていたのかもしれない。


「ごめんな。リカゲルは救ってやれなかった」


 思い出して、俺は馬の首を撫でた。ランダは大きな黒い瞳を悲しげに瞬かせてから、逆に礼を言うように俺の顔に額を寄せた。


 空はすでに白み始め、森の中にも薄ぼんやりとした陰影が現れる。ラルクが魔法の灯りを消しても差し支えがないほど、周囲は色を持ち始めた。

 ラルクとともに食堂の親父発案の狩りに出かけたのが昨日の早朝だったから、思えば一昼夜の間にとてつもない冒険と経験をしたことになる。


 全身の傷はレアラードが回復魔法をかけてくれたおかげで、全快とはほど遠いものの、傷口が塞がり顔の腫れがひいたのでかなり楽になった。ちなみにラルクも回復魔法をかけてくれたのだが、効果は全然違っていた。ラルクの魔法が蛍火(ほたるび)だとしたら、レアラードの魔法は松明(たいまつ)とでも言うか・・・・・・まさか現代で“よりしろ”というものの魔力の強さを実感できるとは思っていなかった。


 異世界からの魔力の流入に大幅な制限を施したことで“よりしろ時代”は終焉し、新たな“よりしろ”は産まれなくなった。“よりしろ”の魔法を体験できること自体があり得ない貴重な経験だし、魔力流入が少ない現代でそれでもこれほど桁違いに強い魔法が使えるとは・・・・・・。


 どうも俺の顔がレアラードに釘付けになっていたのを心配したのか、ヴァリスが俺の肩に舞い降りた。


「キルファさん、女性だっタのですネ。言葉では全然わかりマセンでした」


「女であることを利用できるくらい器用じゃないからさ、舐められないように男言葉で生活してきたのが定着してたんだけど・・・・・・」


 とてつもない美貌を持ち、万能の存在として伝説化しているレアラードも、もしかしたら俺と同じように不器用だから男装しているのかな、と頭の隅で考えてみる。


「まあ、子供時分は男として育てられたからってのが大きいか。なにせ母が俺に男であってほしかったから」


 俺もなんで自分は男じゃないんだって悩んでいた時期もあったから、“動物もどき”として今男になれていることに、実は満足しているような、でも不自然なような複雑な気持ちでいる。しかし、三年男として過ごしてみて、このままこの姿が定着することで俺の抱えていた悩みが解消されるわけでもないんだと実感してもいる。


「男のキルファさんは皇子(おうじ)ってことですよね? だったら今ここに“おうじ”が三人もいるんですね」


 無邪気に笑うラルクには俺も苦笑いするしかなかった。

 その和んだ空気に乗じた、と言えばあまりに穿った見方なのかもしれないが、ヴァリスがここぞとばかりにピュルリと口を開いた。


「その剣、見せてモラエますか? 魔道具ですヨね? 非常に興味がアリます」


「ん? このなまくら剣か?」


 鞘から剣を引き抜いて、俺はヴァリスの前で見えやすいように剣を立てた。近くで見れば模造剣に近いほど刃先が丸みを帯びているのがわかるだろう。小柄な俺でも使いやすい小剣で重さも滅法軽い。研磨して刃を作ってもらえば少しはマシになるかと持ち込んだ研師(とぎし)には「魔法を帯びているせいか材質がよくわからない」と触ることを拒否されたこともある品だ。

 剣柄は地味で、鍔も小さく最低限の幅しかないうえに、凝った意匠や宝石の類いも付けられていないので、一見するととても価値のある魔剣には見えない。弓使いを自認している俺にとっては剣は二の次で、お守り代わりとしか考えていなかったためとにかく軽いのと一応の魔法への備えとして持って来ていたのだが・・・・・・ヴァリスだけでなく、魔法をたしなむラルクも興味深そうに俺の肩越しに剣を覗き込んでくるくらいだから、俺の予想していたよりずっと価値のある物なのかもしれない。


「刃の部分に当たっタ魔力を吸い込んデ、次の衝撃でソレを吐き出す――んでシタよね?」


「ああ。正直、今回以外で役立ったことないよ。国を出るときは、もしかしたら外の世界ではまだまだ魔法が残っているのかと思って持ってきたんだが・・・・・・今の時代、魔法なんて滅多に遭遇しないもんなんだぜ」


 元魔道士のインコにそう説きながら、俺は同意を求めてラルクを見――あ、こいつは魔法王国ガイレンティアの王子だな――、レアラードを見――魔法が横行していたよりしろ時代から生きてる伝説の魔法少女か――、ランダを見――今、魔法の力で馬になっているんだよな――、トールでやっと頷きを得ることができた。いや、改めてなんなんだよこの面子は。


「記憶反射剣、とデモいうベキか・・・・・・封魔石がコノ剣の力を弾かズに、むシろ力を吸収されたトイウことは相当な力を持った魔剣でショウね」


 あ、そうか。なまくら剣の方が力が強かったからよかったようなものの、もしかしたら剣の魔力が弾かれて俺もろともヴォルキャストが死ぬ、あるいは俺だけ犬死にした可能性もあったのか。戦いなんて思いつきの連続だが、今回はかなりの綱渡りだったんだな。


「母が父からもらったらしいから、そこそこ良いものだとは思っていたけど・・・・・・俺、運がよかったんだな」


「名の通った魔道具の中でこのようなものは思い当たりませんね。剣の名とかいわれとか、キルファさんは何か聞いていないんですか?」


「俺は父に会ったこともないから、母から聞いた使い方以外は何も」


「キルファさんの父親とイウことは、キシリー帝国の前皇帝ってコトですヨね。つマリ下賜品――」


 ヴァリスが思わず体を乗り出し過ぎて、俺の肩から落ちかけて羽ばたいた途端、


グンッ


ギンッ


「ギヤアあ‼」


 俺の手に明らかな反動が来たのと、度肝を抜かれたヴァリスの悲鳴が重なった。

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