28 三年前
国を出た。
十七で転機が訪れるまで国どころか森を出たことがなかったから、見るものすべてが新鮮だった。
親が過保護だったのかというとそうでもない。森の中ではとにかく自由に、逆に言えば何の保護もなく放っておかれた。だから木から落ちたり猪に襲われたり毒草に触れたりと言った危険は日常茶飯事だった。
俺には先代の皇帝の血が半分入っている。つまり、一体何番目なのかわからないが皇位継承権を主張できる立場らしい。しかし、私生児の俺は特に大切に扱われたこともなければ継承権について説明を受けたこともない。
ただ一度、遠方の国との繋がりを少しだけ強めるためのいわゆる政略結婚の打診をされたことがあるだけだ。しかしそれも、俺があまりに外国へ送り出すには不向きな駒だと判断されたのかすぐに無かったことになったが。
母は俺を産んだことを後悔している。いや、十分に愛情は感じているが一際野心ある女性だったから俺が思ったとおりの形で生まれてこなかったことを拒否しているきらいがあった。だから感情に起伏があって、俺も成長するごとに段々と家に戻らずに森で過ごすようになっていった。
キシリー帝国には森林兵団という特殊部隊がある。国土の半分近くを占める大森林の中での活動を主にしているが、その機動力は並外れたものがあり、他国にも恐れられている。国民にとっては誇らしい、憧れの存在だ。
国外に出ることを決めたのは、その入団試験に落ちたからだ。
母との微妙な感情や腫れ物に触るような周囲との関係を一気に払拭できる手段は、俺が森林兵団に入ることだと思って生きてきた。
それまで森で出会ってきた森林兵団員や部隊に所属している義兄とのやりとりの中で自信を付けた俺は十七の年に受けた試験で好成績を残しながら不合格を言い渡される。
正直不服だったが、これで吹っ切れもした。この国では俺は飼い殺し状態でいるしかないのだとようやく理解できて、外に出る決心がついた。
国の枷を外れた俺が“神隠し森”にやってきたのは、それでもやはり森が落ち着くからか。それとも森の外では自分の得手が生かせないと気付いたからかはわからない。
ただ、この森に着いてすぐ、十八になったばかりの俺は合成獣亀と遭遇した。大きな鹿を見つけて、弓の射程に入れるためにそっと足を踏み出したそこにいたのだ。
一瞬、まばゆい光が視界を覆い、違和感が体を包み込む。
しかし、それが“動物もどき”になった感覚だとはわからなかった。なにせ、少し背が高くなって視線が上がったことくらいしかはじめは気が付かなかったから、慌てることすらなかったのだ。
俺は自分の足下を見て、踏んづけかけている亀の存在に気付きつつ、同時にいつの間にか裸の自分に驚いた。なんだ? こんな森でスゴ技のスリにでもあったのか? それにしたって身ぐるみ剥ぐなんて・・・・・・いやいや! なくなったものは服だけじゃないぞ‼
裸の自分の胸には、あるはずの二つの山がなくなっていた。
それに、さらに下にはないはずのモノがある!
亀の背中の甲羅を見ると、図鑑のような甲羅には人間の細密画が描かれているのが見えた。
俺は女から男へ変化していた。




