27 伝説美少女魔法戦士
「ランダに続いて、ラルクまで王子・・・・・・⁉」
なんだよ、実は他国の王子様二人に挟まれて森を散策していたなんて、俺の母親が聞いたら感涙しちゃうぞ。というか、俺が出血を恐れて剣を抜かなかったことで危うくラルクの命が亡くなりかけていたのか・・・・・・いや、だからってさすがに“身代わりの呪い”が備わっている予想なんてできるはずがない。
「レアラードさんはかつて見たことがあるんですか? “身代わりの呪い”の発動を」
また時と場所を選ばないとんちんかんなことをラルクは美少女に尋ねる。いくら旅慣れているらしいって言っても10代のお嬢ちゃんにおまえ、そんな、
「二百年前な。おまえの先祖と戦ったことがある」
ん??? 二百年前? 一体なんの冗談を言い始めたんだ? そういうノリ? 意外におちゃめなのかな、レアラードって。
「当時は魔法の力が今より強かったから、回復魔法でも自分にかけているんだろうと思って違和感は無かったんだがな」
「やはり“よりしろ時代”は魔力の流入量がそんなに多かったんですね。 レアラードさん本人に聞けるなんて感慨深いなあ」
「いや、ラルク、レアラードも・・・・・・何を言ってるんだ? それじゃあまるでレアラードがあの伝説のレアラードみたいな・・・・・・」
もはやこの世界のすべての国の歴史の教科書にも神話にもお土産物屋にさえ、グッズとして姿が見られる天才魔法美少女戦士レアラード。出身地に近い砂漠地方ではレアラードの名を冠する新興宗教もあるなんて噂も聞く、そんなこの世界を作り変えた最後のよりしろと言われた少女を語るなんて、どういう詐欺師なんだよ。
レアラードってのは男装の長身美少女で、・・・・・・まあ、そうだな・・・・・・魔力を自分の体に引っ張り込む“よりしろ”なので、当然とてつもない大魔道士で・・・・・・ああ、さっき風の刃が当たった鍾乳石の柱って一抱えもあるのに真っ二つに切断されているなあ・・・・・・剣士としても破格の強さで・・・・・・おいおい、あの死体の山、あいつ、一人で猿を全滅させたのか・・・・・・
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・・・・・・ありえるな。目の前のこのレアラードなら本物ってこと、ありえるな。
「まさか、本当に⁉ レアラードってあの伝説美少女魔法戦士レアラードなの⁉」
「恥ずかしいからその肩書きは二度と言うな。ただ長生きしているだけだ。そう驚くな」
「こんな見た目で二百歳超えのばあちゃんなの⁉」
年下だと思っていたのが、まさかの超年上だとは。
「ばあちゃんはヒドいでス。キルファさんはまダ若くて女心がわからナイのかもしれまセんが、せメて“大お姉様”とか“スーパー若見え”とか傷つかナイ言葉を考えナイと。決して“二世紀使っても育たない胸元”などは思いツイテも言ってはイケませンよ」
ヴァリスがしたり声でこっそりと俺の耳元にアドバイスを送るが、レアラードの表情からすると素直に信じてはいけないと思わせた。これ以上彼女の気分を害することの無いよう、俺はより信頼の置ける女心理解者へ視線を向けた。
「ラルクはいつからレアラードのことをわかっていたんだ?」
「検査場の雷を見たときですよ。古くからある国でレアラードと親交のあった王室では、密かに彼女が生存し続けていることが代々伝えられています。でも“よりしろ”の権威づけじゃないかと信じない者も多いと聞きますけどね。私は出奔してしまったんですが、第十六王子として話だけは聞いていました」
「第十六王子⁉」
「ええ、うちは子沢山なんです」
それに側室の子ですから、私一人がどこかへ行ったところであまり気にされないんですよね、とラルクは続けて微笑んで見せる。
「ガイレンティアと言えバ魔法王国とシて歴史も長い大国ですヨ。権謀術策が常に入り乱れルという国で、イくら王位継承権の順位が二桁でも、気にされナイなんてそんナわけ・・・・・・」
「使い魔も送れない上に波動も感知できないと思ったら、おまえ、“動物もどき”になっていたんだな」
蕩々と語り始めたヴァリスを遮って、レアラードが興味深そうにしげしげと俺の肩に留まったインコを見つめた。そこへきてやっとヴァリスは気恥ずかしそうに頭を振ってピュルピュル鳴いた。
「ラルクに感謝するんだな。彼がヴォルキャストの血の名残を私の剣から見つけ出して、それでここへ辿り着けた」
「ヘエ、ガイレンティアの魔法は通常の魔法と違って呪術寄りですカラ、そうイう特殊な術があったノですね。コれは嬉しい誤算です。ありがトウございマす、ラルク王子」
「王子はやめてくださいよ。今はただの冒険者ですから。ただ・・・・・・キルファさん」
俺はドキリとしてラルクの不思議そうな顔に相対した。
「どうしてあなたの血では辿り着けなかったのでしょうか? その満身創痍の様子では、この洞窟の入り口にあった血はやはりあなたのものでしょう。私たちはそう予想して、初めはその血からあなたを探そうとしたのですが、ヴァリスさんと同じく使い魔を送ることができませんでした」
伝説のレアラードとガイレンティア国の王子ラルクと“動物もどき”で小鳥になったヴァリスが揃って俺に視線を向けている。普通だったら不可解な現象を起こしている俺を囲って詰問する雰囲気があって仕方がないのだが、しかし、三人が三人とも俺のことを胡乱なものを見る目つきではない。まあヴァリスに至ってはただの可愛いインコでしかないが、それでも俺の見てくれじゃなく中身に一定の信頼を置いてくれているんだと思うと胸がじんとした。この人たちなら、言ってもいいんだろうな。
「俺も、“動物もどき”なんだ」




