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26 身代わりの呪い

「ラルク‼」


 致命傷を受け、地面に倒れ込む金髪の美青年の胸には剣が生えていた。

 ラルクが咄嗟に飛び出して俺を庇ったために、予想外の太刀筋になったヴォルキャストは剣を手放す形になったのだろう。これを好機と見た俺は地獄へでも落ちればいい。

 だが、ヴォルキャストを俺が殺せるチャンスはここだけだ。俺はなまくら剣をもう一度構える。


「レアラード‼ 風の刃で俺ごとヴォルキャストを斬れ‼」


 視線の先のレアラードはちょうどあらかたの猿を始末したところだった。レアラードの頭上で羽ばたいていたヴァリスが俺の意図を汲んで「キルファさんノ言うトオりに!」と加勢する。

 それを目の端にしつつ、俺は剣を取り戻しにこちらに跳躍したヴァルキャストの懐に一気に入る。勢い余ってヴォルキャストの顔がまともに俺の頭にぶち当たった。


「⁉ 貴様――‼」


 驚きの表情のヴォルキャストの顔に俺はなまくら剣を叩き込む。剣先は狙い違わず剥き出しの封魔石の義眼に突き立った。

 グンッという手応えが剣先に伝わるのを感じながら、俺は勢いのまま肩でヴォルキャストの体を突き飛ばす。間髪入れず、風の刃が俺とヴォルキャストの元へ届いた。


ブオンッ

ギギュインッ


 再度響く鈍く、軋むような音。そして、


「ぐおおおおっ‼」


 腹を切り裂かれたヴォルキャストの断末魔の叫びが鍾乳洞に響き渡った。

 ヴォルキャストの義眼は泥団子そのものと化して沈黙している。同じく沈黙を守っているが、封魔石の力を取り込んだ俺のなまくら剣はレアラードの風の刃を弾いて持ち主たる俺の身を守ったことで妙にすがすがしく光って見えた。


 やっと強敵を倒したことに、俺は安堵し満足感も覚えたかった。だが、


「ラルク‼」


 俺は瀕死の青年の手を取った。


「なんでおまえ! 俺なんかを‼」


「だって・・・・・・私の初めての相棒、ですから」


 力なく微笑むと、ラルクの頬に金が溶け出したような輝かしい髪が一筋かかる。


「キルファさん・・・・・・剣を、抜いてください」


「それはできない」


 ラルクの右胸に斜めに刺さった長剣を今抜いたら失血死することは確実だった。俺は駆け上がってくるレアラードの姿をもどかしく思いながら指さす。


「ほら、レアラードが来るぞ! あいつだったら回復魔法もできるはずだ‼ なあ、そうだよな、レアラード! ラルクを助けられるよな⁉」


「キルファさん、言いにクイのですが、コれはレアラードでも手に負えまセン・・・・・・」


 ヴォルキャストをして化け物と呼ばせた美少女魔法剣士が到着する前に、俺の肩に舞い降りたインコのヴァリスが悲しげに鳴いた。


「馬鹿言え。こんなことあってたまるか! まだ知り合って二日だぞ‼ これから飯を食って酒を飲んで、お互いに身の上話をして・・・・・・」


 言っていて、自分の無力さに涙が出てくる。こんな良い奴が死んでたまるか!


「キルファさん、お願い、ですから、剣を、抜い、て」


「なぜ抜いてやらんのだ」


 言うが早いか、俺たちの元へ着いたばかりのレアラードは躊躇も無くズブリとラルクの胸に刺さった剣を抜いた。


「えええエエエええ‼」


 俺とヴァリスの声がハモって鍾乳洞にわんわんとこだました、

 剣を抜くと同時にレアラードはキルファの胸に手をかざす。その動作だけで魔方陣が空中に現れて白く光ると、傷口からあふれ出していた血は明らかにその量を減らし――


「え・・・・・・? えっト・・・・・・こレは、チョっと・・・・・・」


 ヴァリスの戸惑いをよそに、見る見るうちに、そう、本当に見ている間にラルクの傷口からの出血は止まり、まるで逆再生をするように傷口の皮膚が閉じられていった。


「すげえ・・・・・・まるで本物の伝説乙女レアラードみたいだ・・・・・・」


 かつて見たことのある回復魔法ってやつは止血すら満足にできていなかったのに、なんなんだ、この圧倒的な力は・・・・・・ラルクは明らかに死の一歩手前だったのに、今は唇の色も紫から赤色になっている。


「こ、こレはアなたの力だけジャありまセンね、レアラード! あマリにも回復が早すぎル‼」


「私の回復魔法は死ぬのをほんの少し食い止めただけだ。あとはすべてこいつの体に備わっている力だよ」


 騒ぎながらひっきりなしに頭上を飛び回るヴァリスに根負けしたようにレアラードは口を開いた。


「備わってイる力?」


「“身代わりの呪い”だ」


 “身代わりの呪い”? 昔、聞いたことある気がするけど・・・・・・


「ソれって、ガイレンティア国の王子にカけラれる魔法でショ? 生まれタらすぐに授けらレる、奴隷一人を使って死に関ワル大きナ厄災は全部その奴隷になスりつけルって・・・・・・え? じゃあラルクさんって・・・・・・」


「レアラードさん、助かりました。剣が刺さったままでは体が回復しようにもできなかったので、危うく死んでしまうところでした」


 けろりと立ち上がって笑顔を見せるラルクを呆気に取られて見守る俺の肩に、ヴァリスも力が抜けたようにフラフラと着地する。


「王子様・・・・・・なんデスか?」


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