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24 封魔石

「俺たちが・・・・・・なんだって?」


「エミー王子を連れてキタ? 一体何を言ってイルんでスか」


 ヴォルキャストの表情は変わらない。岩山の入り口で俺をからかった時のような質の悪い冗談を言っているわけでもなさそうだ。


「もしかして・・・・・・ランダのことか?」


 黒毛の大きな馬の姿が、俺の頭の中に思い出された。確かに人懐っこくて、並外れて賢い馬だったが・・・・・・“動物もどき”だったってのか?


「知っていたのか? ヴァリス」


「とんデモない! 猿の軍団に襲われタ村の家族が飼ッテいたのを買い受ケた馬ですヨ。一緒に旅するヨウになってカら、ズば抜けて賢い馬だトわかりマシたが・・・・・・まサか“動物もどき”、しカも王子様だナンて・・・・・・」


 ヴァリスが訂正を求めるように見るが、ヴォルキャストはやはり表情を変えない。


「勘違いじゃあリマせん? ランダはもう何年も田舎の村でひっソリと過ごしてイマした。モし王子様なら、国に帰るコトを目指すんじゃナイですか?」


「察しが悪いな、魔道士。それでもロイを殺した男か?」


 挑発するような薄ら笑い。


「これで直接触って見たんだよ。ロイ(やつ)が俺に与えたこの封魔石の義眼でな」


「ああ、ナルほど」


 鈍く光る濁った泥玉みたいな義眼を指すヴォルキャストに納得したようにピュルリと鳴いて落ち着いたヴァリスだが、俺はちっともなるほどじゃない。


「どういうこと?」


「封魔石は魔法をスベて無効にスルのです。攻撃魔法や回復魔法など向かっテクルものを弾くだけジャなく、直接触るコトで魔法がかカッタものを丸裸にスルのですよ」


 直接触る――レアラードにぐるぐる巻きにされて、ランダの背に乗せられたときに触れたのか。そういえば、あのとき顔に巻かれた布だけ少し外れて義眼が剥き出しになっていた。


「でも、ランダは人の姿に戻ったりなんてしてなかったぜ」


「モう変化してしマッタものを解除するコトはできナイですよ。デも魔法のかカッテいない姿を「見る」ことがデキたのでしょウ。義眼、ですカラ」


 そう言えば、ヴォルキャストの名前がトールから出たときにランダは虫に刺されたみたいに飛び上がっていた。あれはランダがヴォルキャストを知っていたからか、封魔石の義眼で覗かれたからか。


「封魔石を義眼に改造スルなんて、サすがロイ、と言ったとコロですが・・・・・・アなたは知っていルンですか? ()()()()使()()()()()()()()を」


 代償と聞いて周囲にいた兵士たちに動揺が走るのが見えた。確かに今聞いたような反則級の魔法対策になるのなら希少なものだったとしてももっと人々に知られて求められる存在になっていいはずだが、俺は今回のことで封魔石の名前を初めて聞いた。何か使用をはばかられるような短所があるに違いない。

 ヴォルキャストの無表情は感情が読み取りにくい。とても事前説明があったようには思えないが、しかし何か察しているところはあるようで動揺したところは見えない。


「どうヤラ説明さレていナイのですね。人の悪いロイらしいヤり方だ」


「聞いてはいないが、覚悟はしておる。これだけの効力だからな。ただ、魔道士、一つ聞きたい。それは――その代償、とやらは魔道士なら誰でも知っていることか?」


「モちろンです。この世界に存在すル魔石や魔道具についテはいわユる暗記物で、魔道士試験の初級で出てクる事柄ですカラ、似非(エセ)魔道士ですら・・・・・・」


 言いかけて、ピュルピュルと気まずそうなさえずりが続いた。そこにいるすべての者の視線がこの国の第二王子であり、宮廷魔道士を目指す男に注がれている。


「何? 私はロイの言葉に従っただけだよ」


 自分が責められていることは重々承知の上、リカゲルは自分は純真さゆえに騙されたと言い訳するようにぶりっ子をかました。


「封魔石は使用スルごとに使()()()()()()()()()()。ヴォルキャストさんノ様子からスルと、すデに顔の半分は石になってイルのでしょう。アなたは、ソンな大事なことを説明もナク・・・・・・」


「王族に従うのが臣下の役目だろう? ヴォルキャストほど忠実な者ならそれもわかっているはずだ。なにせ、元々片目を負傷したのだって私を庇ってのことだからね」


 王家の傲慢もここに極まれりだな。あまりに典型的な嫌らしい王子様すぎて反吐(へど)が出るぜ。


「ヴォルキャスト、おまえが出世への多大な野心をもっていることも知っている。そして父王を憎んでいることもな。なにせ寵姫(ちょうき)の姉を殺されたんだ」


 動じないヴォルキャストの片眉がピクリと跳ね上がるのを、リカゲルはぶりっ子演技に夢中で気付いていない。


「私はこの国の将来をおまえと築きたいと思っている。おまえを父王や重鎮、もし兄さんが戻ってきたら兄さんに口利きしてやるとも。もちろん機が熟したら父王はお払い箱さ。それを一緒に成し遂げたいと思っていることは話したよね? お互い利用しているんだから、封魔石のそんな細かいことでいちいち目くじらを立てるようなことはないよね?」


 その軽薄な三文芝居を迫真の演技だと勘違いしているのか、リカゲルのぶりっ子は止まらない。ヴォルキャストは、少し面倒だと感じたのかあからさまにため息をついた。


「ええ、リカゲル様。石の説明をしなかった、そんな些細なことで私は自分の計画を曲げたりしません。私はエミー様を保護できること、そしてその後、亀を探し出し、殺して“動物もどき”から王子を解放するとともに神隠し森の秘密を解き明かすことで、必ず将軍職へ上り詰めるでしょう。ですので――」


 ヴォルキャストの言葉が終わるのを待たずに殺気を感じて駆けだしたリカゲルの背に、白い光が走った。

 途端、バランスを崩してリカゲルの体は前のめりに転ぶ。そして――二度と起き上がることが無かった。

 背中に大きく裂けた傷口から流れ出た血は、俺が汚れることを気にした棚田状の泉の水にあっさりと入り込んでいく。泉に放たれている金魚が赤く染色された水から逃げて方向を変えた。尾びれの絵画がふわりと広がると、それは有名な神話の“裏切り”という題名の絵だった。


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