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23 王子たちの生き方

「え・・・・・・? ロイが死んだ? どうして?」


「私が殺しタノです」


 初めは小さなうめき声だった。それが徐々に大きく、やがて慟哭に変わるまでに時間はさほどかからなかった。


「君は・・・・・・殺したのかあああ⁉ 私の大事な理解者をおおお‼」


「残酷な人体実験を勧メるロイを理解者と呼ぶナンて・・・・・・そんなアナたを、お兄様はドウ思うでショウか?」


「うるさい‼ 兄さんはこの十年私を助けてくれなかった! 父の怒りと催促から救ってくれたのはロイだけだ‼」


 助けてくれなかったって、失踪してるんだから助けられるわけ無いのに。とにかく自分の不利益は常に誰かのせいにしたがる奴なんだな、こいつは。

 魔法を学んだのも保身、浅はかなぶりっ子も保身、何もかも自分の身が可愛いだけで行動している甘えた男なんだ。王位継承権が上位の王族たる者、もしもの時には自分の身よりも国や名誉を重んじなければならないのが常だというのに。


「もし半人半猿の兵士が完成していなかったら、私の居場所なんて王宮になかった。あれを作り続けることだけが父王から許された私の存在意義なんだ!」


 だからしゃにむに半人半猿の合成獣(キメラ)を作り続けたのか。

 見たところ“さなぎ”は数本の柱にあるだけで、猿を入れられるほどの大型のものは片手指で数えられるほどもない。自然界のさなぎが蝶を羽化させるまで短くても十日くらいかかることを考えると、蝶よりずっと複雑な大型動物が材料の合成獣(キメラ)ならさらに完成まで相当な日数が必要だろう。

 半人半猿の軍団を作るまでいったいこいつはどれくらいここに籠もっていたのか。


「ヴォルキャスト‼ もうこいつらと話す余興は終わりだ、気分が悪いから斬ってしまえ! 細かく聞き出さなくとも亀の居場所は予想がつくだろう。こいつらなどもう死体を猿と合成するくらいしか使い道はない!」


 甘ったれ野郎め、自分の機嫌次第で話してみたり終わりにしてみたり。

 しかしこれは絶体絶命の状況だ。正直なところ体中が痛いし鍾乳洞の冷えた空気で関節はこわばっているうえ、俺にはなまくら剣以外に武器はない。ここに来るまでの道のりはなんとなく覚えているが、見える限りで数人の職業軍人と手練れのヴォルキャスト、そしてどうやらすぐ近くの空間で待機しているらしい猿の軍団まで加わったとあっては蹴散らす自信はない。さらにレアラードやラルクが俺たちのいる場所を探り当てられる可能性は低い。

 俺は小さく息を吐くと、肩の小鳥に小声で話しかけた。


「ヴァリス、いざという時には俺に構わず自分だけで逃げてくれ。たぶん来たのとは反対側の風の来る方向に行けば、地上に出るための自然の空気穴があるはずだ」


 ヴァリスはどう返答すべきか迷ったようにピュルピュルと弱々しく鳴いた。


「運が良いことが一つあるとすればさ、ヴァリスが小さなインコだってことだよ。自然の空気穴って狭いことが多いから今のヴァリスならたいていのものは通れると思う。ここの蝶を一匹捕まえて灯りの代わりにすれば、暗闇でも飛べるしな」


 言い終えると、俺は身を固くして、最後の抵抗をするためにヴォルキャストと周囲の兵士たちの動向をうかがった。が、いつまで経ってもヴォルキャストは動こうとはしない。

 この鍾乳洞に着いてからヴォルキャストには何度となく伝令係がやってきては小声で指示を仰いで戻っていくことを繰り返していた。そして今はついさきほどこの空間に辿り着いた兵士の伝令を聞くことに夢中になっている。もしやレアラードたちが・・・・・・と思ったが、ヴォルキャストの片方の口角が上がっていくのは俺にとっては悪い知らせに違いなかった。


 癇癪のような命令をしたものの、滑稽なほど無視されたリカゲルがついにもう一度激昂して口を開きかけたとき、


「リカゲル様、朗報です。エミー様の身柄を確保しました」


 耳を疑うような報告が独眼の軍人の口から飛び出した。


「え・・・・・・? 本当に⁉」


 一瞬前まで発露しかかっていた怒りを瞬時に霧散させて、リカゲルはまた頬に暖かい血色を蘇らせた。どうしようもない第二王子だが、兄への愛情だけは本物なんだな。


「どんな姿だったの?」


「馬です」


「馬? そんなはずは・・・・・・。だって従者は見たこともない動物って」


「正確には、従者は“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”と言っていたのを覚えていますか」


「どういうこと? 馬は兄さんが乗っていたものだろう」


「ああ、ナルほど」


 リカゲルに合点が行く前に、ヴァリスがうっかりと納得の様子でピュルリと歌った。


合成獣(キメラ)亀はアなタのお兄様と乗ってイた馬、どチラもいっしょニ“動物もどき”に変エた、というコトです」


「つまり、王子を“馬”に、王子の馬を“見たこともない動物”に変えたってことだよ」


 殺害宣言を下した二人の解説を聞いてから、やっとリカゲルの顔がはっとしてヴォルキャストを見た。


「報告していませんでしたが、数年前、ゾウの“動物もどき”がこの森で捕獲されました。そのゾウから出てきたのが馬の体だったため、エミー様は馬に変化したのではないかと予想されていたのですが・・・・・・確証が持てませんでしたので、エミー様自身を確認できるまではお伝えしないことにしていました」


 そう言えば乙女チック商人のビダルがゾウの皮で何か作っていたな。あまりおしゃれとは思えない上着を思い出して、俺は口をへの字にした。


「今、兄上はどこに?」


「地上の入り口に。文字盤を使って会話をし、本人であることを確認済みです」


「いったい今までどこにいたんだ?」


「詳細はわかりかねますが、()()()()()()()()()()()()()


 言って、ヴォルキャストは額に落ちた長い前髪の隙間から一つ目で俺とヴァリスに視線を向けた。


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