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17 “動物もどき”を作るモノ

「魔道士、まずおまえに聞こう。何を触ってその姿になった?」


 ピュルリ、とヴァリスは即答を避けた。しかし、ヴォルキャストの眼光に耐えられなくなったのか、すぐに口を開く。


「石、ダと思いマスが・・・・・・よく覚エテいまセン。何かに足ヲ引っかケて、次の瞬間にはモウこの姿だっタので、動転しテ」


「そうだろう。この二百年の“動物もどき”への聞き取りから得られたという記録にはすべて目を通しているが、同じだからな。とすると、だ」


 ヴォルキャストの一つ目はピタリと俺に照準を合わせる。


「目の前で“動物もどき”になった人間を見て、さらに認識した上でかくまっていたおまえは、わかっているんだな? この魔道士が何を触ったのか」


「まあね」


「言え。何が“動物もどき”を作り出すのだ?」


 嘘を言ったり、話を長引かせることは許されない。剣を鞘に収めていても、ヴォルキャストの全身から発せられる針山のような気配はそれを如実に語っていた。


「亀だよ。リクガメ」


 言った途端、ヴォルキャストの片方の口の端が大げさなほどに吊り上がる。続く周りを厭わないほどの高笑を聞いたとき、彼を神隠し森の謎の解明に熱心な男だとトールが言っていたのを思い出した。


「道理で森の様々な場所から“動物もどき”になったという話が出てくるわけだ! 原因が移動していたとはな‼」


 神隠し森の謎への懸賞金は山分けしてくれよな、という軽口を言いたくなるのをぐっと飲み込む。ヴォルキャストの目が未だに俺からまったく離れないからだ。


「なるほど、亀か・・・・・・で、どういう(なり)だった?」


「大きかったよ。たぶんイワリクガメだから、大人しくしていたらほとんど岩に見えると思うけど――」


「そうじゃない。おかしな所は無かったか? 明らかに普通じゃないところだ」


「え?」


 記憶を遡る。亀は森に溶け込む保護色の甲羅を持っていて――


「・・・・・・甲羅が変だった。まるで・・・・・・開いた分厚い本を背負っているような」


 そこまで言うと、ヴォルキャストはおもむろに地面に落ちていた俺のなまくら剣を足で蹴り飛ばした。狙い違わず、剣はくるくる回りながら俺の足下で止まる。


「おまえはもう少し生かそう。続きは中で聞く。だが入る前に、その鳥を切っていけ」


 大人しくしていたヴァリスがピュルピュルと鳴いて羽をばたつかせる。俺は剣を拾い上げながら、


「悪いが、これはなまくらすぎてほとんど切れない」


「知っているから渡してやったんだ。それで無理矢理にでもそいつの腹をかっさばけ。魔道士が出てきたら今までの話、信じてやる」


「悪趣味なこと言うなよ。そんなことしなくても証明できているだろ」


「そウでスヨ! こんナに即意当妙(そくいとうみょう)に応えるインコが世の中にイルとお思いでスか⁉」


 言いながらもヴァリスは何かあっては嫌らしく、さっと俺の襟元から胸へと潜り込む。


「ヴォルキャスト、第一あんた、さっきヴァリスに質問したとき“魔道士”って呼びかけてただろ? ってことはすでにあんたはこの小鳥がヴァリスだって信じてるんじゃないか。何を今更・・・・・・」


 言ってから、俺は独眼の軍人がニヤニヤと嫌らしく笑っているのに気付いた。話していて表情らしい表情を見せることはあまりないのに、こうやって人を嘲笑するときだけ片頬をつり上げて笑う様子に、俺は泥団子みたいな義眼よりも気持ちの悪いものを感じる。


 ああなるほど、こいつは俺を試しただけなんだ。俺が保身で仲間をすぐ裏切るのかどうかの見世物を思いつきで作り出しやがったのか。俺が当然従わないことを見越した上で、俺が慌てふためく様を見るためだけに。万が一のときはヴァリスの命を代償として。

 検査場の時点で気に入らない男だったが、本格的に嫌な野郎だ。俺はほんの少し前までこの男の刃で命を終わらせる可能性を是としていた自分を悔やんだ。こいつに俺の人生を決定されてたまるか。


「あんた、亀って聞いたときに納得の顔してたな。何かの生物が“動物もどき”を作っていたと知っていたんじゃないか? じゃなきゃあんな質問は出ない」


 さらにこいつは亀の形状がおかしいことを、実際に見た俺よりも先に予見していた。何かを知っていなければそんな質問はできないんだ。


「これ以上のことを俺から聞きたいなら、あんたも知っていることを教えろ」


「交渉下手だな。おまえから得られる情報などもうないだろう」


「いや」


 俺はヴォルキャストの一つ目を真っ正面から見返す。


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 予想通り、ヴォルキャストは眉根を寄せた。俺の言っていることをどう受け取ったらいいか少しの混乱がその瞳にたゆたう。それを与えることができただけで、今の俺には上出来だ。


「はったりだとしても、いい度胸だな。まあ冥土の土産にすべてを知って死ぬのも悪くないだろう」


 頭の悪い男じゃない。俺の言葉に重きを置いたのではなく、このままここにいてはレアラードたちが追いついて来ることを計算したのだろう。長話を外でし続けるよりはあまり戦闘能力の高くない俺たちを早めに懐に入れることをヴォルキャストは飲み込んだようだ。


 彼は部下に目配せをすると、岩山の裂け目へと踵を返す。兵士が一人俺の後ろについて特に拘束はしないものの先発隊に後続するように荒く促した。取り戻したなまくら剣をしれっと剣帯に戻すが、ヴォルキャストは何も言わない。俺がこれを振り回したところで何かの余興にでもなると思って、わざと見逃しているのがその背中から感じられた。それが過信だったと思わせられるときが来たらいいのだが。


 いたぶりを止められた猿たちが遠くから未練を残した顔で俺を見送る。二人の兵士が現れ、猿を誘導するように手に持った何かを見せながら、俺たちが来た森の方向へ腕を伸ばして何かを命じている。

 それを尻目に、俺は岩の中の世界へと入り込んだ。


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