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16 鳥の名は

 口の中の血の味に辟易とした頃、俺の前にはやっと猿でなく人が現れた。


「検査場にいた奴らの一人だったな? 顔つきは大分違うが」


「猿に手加減ってもんを教えてやってくれよ」


「それができなかったから正規部隊にはできないのだよ。そちらの魔道士が推察したとおりな」


 目の前の男、ヴォルキャストは俺の腫れ上がった顔を揶揄したかと思うと次には妙に誠実な声音で俺に対応した。たぶん同情なんだろう。小さい男がある限りの矢となまくら剣を駆使して群がる猿から逃げ回ったのだ。

 優位を知る知能はあるようで、猿たちは五匹ほどで円陣を組み、余裕を見せながら俺を小突き、振り回し、いたぶった。それはたぶんあまり長い時間ではなかったんだろうが、俺の容貌を変えるほどにパンパンに腫らせ、一つにまとめていた髪をざんばらにし、服をボロボロにした上で血を滴らせるほどの無残な姿に変えていた。死ぬほど疲れているしひどい見た目にはなっているが、幸いなことがあるとしたら大きな傷や致命的なダメージを受けてはいないことくらいか。


「ここまで追ってきたのはおまえだけか?」


「見ての通りだよ」


「動きからして、どこかの森の民か?」


「あんたに嘘言う気は無いよ。ばれそうだもんな。キシリーだ」


 すっとヴォルキャストの片方だけの目が細められた。当然だが、今はレアラードに巻き付けられていたターバンは跡形も無く取られている。しかし眼帯も消失していて、初めて見る間近の義眼はただ濁った泥玉のように彼の右目のくぼみに鎮座していた。


「森林兵団か?」


「違う。入りかけたがお呼びでないってさ」


「ふむ、おまえほど身軽で部隊入りできないとはキシリー帝国の森林兵団というのはよほどの水準のようだな」


 あ、しまった。森林兵団って言っておけば情報を手に入れようと俺を延命させることに繋がったかもしれないのに、俺のバカ!


「で、でも家族に森林兵団がいるから、色々知ってるけどな。色々と」


「生き延びたいからって目を泳がせて言う奴があるか」


 ギロリと睨まれて俺は肩をすくめた。


「おまえがここまでたどり着いたと言うことはあの化け物どももそのうちここに来るのだろう」


「化け物って……」


「あの雷を見たらそう思うのが当然だろう。剣ではすぐに勝負がつかないと見るとあの小娘、あんな大層な魔法をいとも簡単に発動させよった。しかもこっちがこの封魔石を持っていることを承知で、ただの猫だまし代わりにな。もうこの世に“よりしろ”はいないのだ。化け物と言わざるをえんだろう」


 確かに名前は伝説のよりしろ、大魔法使いのレアラードと同じだもんな。“よりしろ”が生まれなくなってから二百年も経っていなかったら、俺も彼女を本当のレアラードだと疑わなかっただろう。


「あれが来たら面倒だ。その前におまえだけでも片付けておこう。猿のいたぶりを止めたのも、それでは殺すまでに時間がかかりすぎるからだ」


 ヴォルキャストの剣が抜かれる。レアラードに簡単に拉致されて来た姿を見ていたので、てっきり口先だけの実力不足野郎かと思ったら、剣構えだけで圧倒されるものがあった。

ぶれない剣先を挟んで、ヴォルキャストの片方だけの目がすがめられる。


「俺の手にかかるのだ。ありがたく思え」

なんだよ、これで俺の人生も終わりか。呆気ないもんだが、まあ最期に驚かしてやれるかな。

俺が死を覚悟して身を固くしたその時、


「なゼわたシを隠スんでスか! アなたは‼」


 耳元で大音声(だいおんじょう)が響いた。

 ピュルリ、と続く軽快な鳴き声と共に、俺の襟元から顔を出した小鳥は大きくのびをしてから羽を逆立てた。


「“動物もどき”になっタわたシの存在は命乞いノ格好の交渉材料にナルでしょうガ‼」


 体を左右に振りながら、小鳥は俺の肩で憤り続けた。胸のところでどうも小さくペチャクチャ鳴いていると思っていたが、しゃべれることを確認していたんだな。しかしここまで話せるとは驚きだ。

 たまたま人間の声を真似できる種類の鳥だったから、“動物もどき”の中にいる人間の思考そのままに話すことができているのだろうが・・・・・・これは、かつて発見された“動物もどき”の中でも、最も意思疎通が可能な逸材なのかもしれない。


 しかし一時間前までは背の高い魔道士だったのが、今では手のひらサイズの小鳥になっているのはやはり頭でわかっていても奇妙だ。左右色の違う瞳は小鳥には反映されていないが、偶然なのか羽の色が頭は紫色、体は灰色という瞳の色と同じ配色になっている。そして俺はやっぱりとてもきれいだと感じた。


「なんだ、それは?」


「ソレとは失礼ナ! 魔道士でスよ、検査場デ会ってイルでショ!」


 小鳥になったヴァリスはヴォルキャストを三角になった目で睨み付けた。かわいい姿での激高具合に気が削がれたのが、独眼の軍人は意外にあっさりと剣を鞘に収める。


「チビ・・・・・・おまえ、どうも動きがおかしいと思っていたが、胸の中のそいつをかばっていたのか?」


「エッ! やっパリそうナの⁉ 今日日(きょうび)こんナに男気にアフれた青年は珍しイデすネ!」


「いや、だって、胸で小動物が潰れたら気持ち悪いし」


「そんな理由⁉ 褒メて損しタ‼」


 それでもヴァリスは感謝を示すようにピュルピュル鳴いて俺の腫れ上がった頬に身を寄せる。羽毛が優しく俺の傷口を撫でるのは、元がひょろがり魔道士だとわかっていても動物好きの俺にとって正直悪い気がしなかった。


「“動物もどき”になった人間を目の前で見てそれを差し出せるんなら、なぜ隠した? そいつの言うとおり、神隠し森の秘密なら命乞いの切り札になる」


「当たり前だろ、“動物もどき”は戻し方がわからない。それがわかるまでは、名乗り出たところでヴァリスは実験されて殺されちまうのがオチだ。俺が死んで、胸元から小鳥が一羽飛び出すだけならあんたたちだって面白い手品だと思って見逃してくれるだろう」


 ヴォルキャストが鼻先で笑う。


「そうだが、そいつはおまえの家族じゃないだろう?」


「家族じゃないが、見殺しにするには惜しい男じゃないか」


「おオオお! こんナにアなたカラの評価が高かっタなんテ‼ まだ一日の付き合イだと言うノニ、わタシは嬉しいデすヨ‼」


 どうも冗長すぎる小鳥だな。

 俺はレアラードがヴァリスに素っ気ない理由が何となくわかった気がした。


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