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14 猿が神輿を担ぐとき

 馬のいななきが響く。見ると、ランダに当たりこそしないものの何本もの矢が周囲に刺さっていた。そしてその脇では、


「うお! この猿! おりゃあ‼」


 トールが樹上から飛び降りてきた二匹の猿と対峙していた。彼が担ぎかけていたヴォルキャストの体は何度かの引っ張り合いの末にすでに他の三匹の猿たちによって奪われている。猿たちに神輿よろしく担がれて遠ざかっていくヴォルキャストは、体こそまだターバンで拘束されているもののすでに顔の部分はむき出しにはだけて、眼帯無しのむき出しの義眼を不気味にさらしながら片方だけ口角をつり上げた殴りたくなるような笑みを浮かべていた。


「あいつ、眠ってなかったのかよ!」


 眠り魔法が効いてないってことは、魔法対策は本当にヴォルキャスト本人だけにはされていたってことか。検査場から落ちてきたときは本当に気を失っていたんだろうが、どこかのタイミングで起きていたんだな。だとすれば雑に馬に乗せられたり落馬しても動かなかったなんてよく我慢してたもんだ。


 遠ざかるヴォルキャストの口には細い銀色の筒が見える。なるほど、犬笛ならぬ猿笛ってわけか。ほとんどの動物は人間より聞き取れる音の幅が広い。俺たちには聞こえないが猿には聞こえる音を使ってヴォルキャストは自分の位置を猿たちに知らせたのだろう。

 今になって思えば突然の落雷にも慌てなかった馬のランダに、休憩に入ってから妙に落ち着きの無い行動があった。それはランダにも猿笛が聞こえていたからなのだろう。


「至近距離の敵は苦手です!」


「俺もだよ!」


 すぐ目の前に猿二匹が迫っていたのを、ヴァリスは使い魔の鷲爪の犠牲にし、俺は弓矢をゼロ距離で放ち、辛うじてやっつける。

 いやあ、たまたま別の個体を狙っててよかった! ヴァリスは何となく呼吸の合う奴ではあるが、お互いに遠距離攻撃を得意にしているのが良くない。言葉にはしないものの、二人ともそれぞれの剣士の相棒を目で追っかけた。

 少し離れた場所ではラルクもレアラードも背中を合わせてバッタバッタと半人半猿の兵士を倒している。月明かりに二人が剣を振るう様は、周囲を彩る血煙すらも剣舞の演出ように美しかった。


「何だよ、あっちは俺たちのことなんて気にしてないんだな」


「本当です。まるで最高の相方を見つけたって感じですね」


 迫り来る他の猿に攻撃しつつ、俺とヴァリスは唇をとがらせた。猿は次々と現れて、俺たちは仲間に近づけるどころかじりじりと距離を離される。

 ヴォルキャストはすでに森の中に姿を消している。トールはランダをかばいつつ、猿を倒せこそしないもののさらに増えた猿たちの攻撃を上手く防いでいた。俺は弓矢でそれを援護しつつ、ヴォルキャストの消えた方向へ視線を巡らす。

 この森は俺の育った森に比べたら小さいが、それでもそこそこの広さだ。下手に痕跡を紛らせるほどに奥深くに逃げられたら、もうヴォルキャストや猿を追うことはできないだろう。この調子だと今朝残してきた猿の死体もきれいに片付けられているに違いない。今ヴォルキャストと猿を見失ったら、探すのはことだぞ。


「ヴァリス! 今なら俺、ヴォルキャストを追える! 見えなくなるまででいいから援護してくれる? そのあとはトールたちを」


「私は過剰な信頼に応えてきた男ですよ」


 フードが外れて露わになっていたヴァリスの細面は、妙に精悍に見えた。彼の左右色の違う瞳を俺は改めてきれいだなと思った。その時、


「わ、わわわわわわ!」


 俺の目の前で、ヴァリスの姿が消えた。


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