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8.激闘

 横から襲いかかるロングソード。それを最低限の動きで避けるグザヴィレ。


 彼らの闘いは時が経つにつれてヒートアップしていった。辺りには、既に四名の隊員が地にひれ伏している。どの死体も仰天といった表情を浮かべ、そして宛ら自身の死因に疑問を抱えているような顔で臨終している。

 グザヴィレが自身の腕に注射針を刺す。するとあれよあれよという間に数多ある傷が回復していく。その様子はまるで、死体から抜いた魂をそのまま躯体に注入しているようである。


「……興奮恢復剤のストックが危ういな。どうだ、そろそろご退場なされては? 今なら首輪付きの子犬からお国の傀儡(操り人形)さんに改名出来るが」


「黙れ、ダッチワイフみてぇに眼孔がガン開きのテメェには、ケツから口までロングソードをブチ込まなきゃ気が済まねぇ」


 激闘を繰り広げるその時でも相手をおちょくるグザヴィレに対して、ハブが罵詈雑言をぶつける。

 お互いちまちま攻撃をぶつけ合っても埒が明かないことを悟ったのか、アーツを出し惜しみなく使っていく。


「『神体憑依』」


 ハブが神体憑依を使って一気にグザヴィレに詰め寄った。だが、こんな並大抵の攻撃で死ぬようでは、ここまで彼は生き残ってはこない。グザヴィレは鎌鼬を二回使い、弾幕を張るようにして牽制しようとする。


 その時、背後にはいつの間にかロレックの姿があった。それに一歩遅く気がついたグザヴィレの朱色と化した瞳とロレックの純然たる黒色の瞳とが交差する。グザヴィレは紙一重で持っていた剣を使ってなんとか受け流した。


 グザヴィレの額からつぅーと一滴の汗が流れる。


「おやおや、二人とも神体持ちですか。ふむ、暗部に配属された人間が神体アーツを持つことはなんとも言えないアイロニーを醸し出すことよ」


「「ほざけ」」


 息ピッタリに同じ言葉を吐き出すロレックとハブ。そんな二人だが、立て続けにロングソードを振っていく。


 ついに、ロレックの神体憑依とロングソードの剣戟による追撃によって、遂に躯体のバランスを崩してしまう。そのチャンスをしっかりと捉えたロレックは右足で回し蹴りを行い、グザヴィレを吹っ飛ばした。


「今だッ!」


 ロレックが咆哮に似た声色で指示を出した。その瞬間ハブが腕を、蹴り飛ばされたグザヴィレに向けた。

 アーツを発動させる。


「死に晒せ! 『劫火の如く』」


 掌から火炎が上に登り上がるのではなく横に、グザヴィレに向けて飛び散る。象が吹いたシャボン玉のように、小さな火花の数々が彼を包み込まんとした。

 体制を崩してしまった彼は、どうにかして避けようと模索するが間に合わない。仕方がなく左腕で顔面を防御した。

 するとガードした左腕は溶岩のような熱さを誇った火力に圧倒され、瞬く間に炭化した。流石のグザヴィレも、鎮痛剤紛いの興奮剤の力を上回る痛みに口を歪ませる。

 しかし、幸いなことにすぐ左腕は炭化したため神経が麻痺し、痛みはすぐに消え去った。


 左腕の二の腕辺りまでを犠牲にしたグザヴィレだが、そのお蔭でなんとか攻撃範囲から外れることに成功させる。

 一旦距離を置いたグザヴィレは、ロレックの斬撃が来る前にアーツ(劫火の如く)を出し終えたハブに向けて、今や黒ずんだ白衣の内衣嚢にある短剣を機敏に抜き出して投擲した。


 注射器で強化された肉体が投げ出す短剣は、ブゥンと音を出しながら水平に飛び出る。火炎を出し切ったハブは冷静に避けようと横にステップした。

 短剣が自身の横を通り過ぎるその時、横腹に激痛が走る。


「つッぅ……!?」


「言っただろう。人は目に見えないものを嫌う性質がある、と。私の攻撃がその所以となる」


 ハブは土壇場で頭を回転させ、ダメージの原因を探る。一体どうしてこうなったのかと。

 以外にも自分が出した問いの答えが脳裏を横切った。


(鎌鼬か……あの野郎、短剣をダシにして嵌めやがった)


 ハブが目配らせをしてロレックを呼び出す。


 目の前がぼやける。どうやら思っていたよりも傷が深いことを悟るハブ。


 ジワジワと横腹から溢れ出てくる血液。その横には致命傷のようなものは見当たらないが、数多の傷を負ったロレック。二人は近づくと、ハブが回復アーツを発動させた。


「『謳歌の恢復(ユーロジーリブート)』 傷が想像以上に深けぇし魔力の残量もやべぇから少しここで回復する」


「ああ、分かった」


 ハブの中心に、緑の煙のようなものが下から湧き出る。するとロレックの山ほどあった傷がすぐさま回復した。しかし、傷口が深いハブの回復には少々時間がかかる様子。

 物陰に崩れ倒れるように隠れるハブを尻目に、ロレックは再びグザヴィレの方へ歩き出す。丁度グザヴィレはその時、右手で器用に注射針を刺していた。


 二人の間で再び戦いの火蓋が切って落とされる。横一線、十字、斜めなど、さまざまな軌道を活かした斬撃を繰り広げるが、狂気を孕ませた眼を持つグザヴィエが泰然自若といった感じで対処していく。

 まさに不死身の狂戦士(バーサーカー)。体内に流れる全ての血液が、蠢動する筋肉が、神秘を冒涜する精神が、視界に映る全てを破壊せよと命じる。


 グザヴィエの後ろから、試練を乗り越えた隊員が正気を取り戻して剣を突き刺そうとした。まさかこのタイミングで乱入者が現れるとは思いもしなかったグザヴィエは、剣と白衣が触れ合う瀬戸際で避けることを大成する。

 カウンターとばかりにグザヴィエは隊員の突き出した腕を引いて、重心を崩した隊員の首元に剣を真下からぶっ刺した。


 だが、そこにロレックのロングソードがグザヴィレの首を落とす勢いで振り下ろされる。そのことを瞬時に把握すると、刺した隊員と共に、地面にぶつかるように意図的に倒れ、ほんの僅かに振り下ろされるロングソードとの合間に距離を置くことを可能にした。


 その後、すぐさま顔を仰け反らせ、手と足を上手く駆使して器用にその場から一度離れようと模索した。同時に、牽制として鎌鼬を飛ばす。

 しかし、ロレックはそれを最小限の首の動きで回避した。


 彼のその挙動を始まりから終わりまで全て見張っていたグザヴィレの目の色が変わった。


「私の『鎌鼬』を! 首を傾かせただけで避け切るなんて! ハハハ……私自身がパラノイアに魅入られそうだ……!」


 お得意のアーツが早くも見切られ、息を呑むグザヴィレ。

 ところが一変して不遜に嗤う。その嗤いは、単なる怖いもの知らずなのかそれとも狂気に馴染んだ弊害のものなのかはわからない。


 ボロボロの白衣、炭化した左腕、無数の注射痕、そして、額から流れる血。

 残り魔力残量も注射器の在庫も乏しくなった今、グザヴィレの出来ることはそれほど多くない。


 だが、それでもグザヴィレは嗤い続ける。興奮と幸福の狭間にあるざわめきを沈降させ、ハイな部分だけを切り取り、局面を最終フェーズへと移行させる。

 そう、彼はまだ諦めていない。生の執着は魔術師(科学者)にとって必要不可欠なものである。彼は足掻きとしてなのか、ハブの方をジリジリ寄りながらロレックに話しかけた。


「紫凶石には莫大な可能性が秘められている。戦闘、医療、ビジネス、そして外交。私はこの鉱石の第一人者だ。ここで殺害してしまうのはキミの上の者にとって不味い話ではないか?」


「ふん、最近のチンピラの方がもっとマシな命乞いするぞ。もう終わったんだよ、口を動かす時間は」


 ロングソードに付着した血を、薙ぎ払うことで綺麗にしたロレックが近づいてくる。その時、グザヴィレはロレックの方ではなくもっと遠い方を眺めていた。彼の口角が無意識のうちに上がっていく。

 その様子を見たロレックは、最初は何かのブラフかと思っていたが、次第に地面が誰かの足で反響する音が背後から聴こえ、即座に後ろを振り返る。


 そこには、肩に埋め込まれた紫凶石を赤く発色させた女の子の獣人が、腹から漏れ出る血を顧みず走って来ていた。


 紫凶石は未だかつてないほどに赤く染め上がっていた。煌々と光り輝くそれは、ロレックの背筋を凍らせるのを容易にする。獣人はロレック──ではなく回復に勤しんでいるハブと、今も尚狂乱の様子である隊員の方向へ向かって突っ走る。


 グザヴィレは獰猛な笑みを浮かべ口を弛緩したように開いた後、ロレックに語りかける。


「──言っただろう? 私はこの、他に類を見ないくらいに狂った石の先駆者なのだ。爆発装置の一個や二個ぐらい、付け加えるのは造作もないことよ。それと彼女の行為は賞賛しなければならんな。ありがとう」


「ッ!!!」


 虫の息であるグザヴィレにとどめを刺しに行くか。それとも、ハブと隊員を助けに駆け出すか。


 ──一瞬の逡巡の末、ロレックは走り出した。




 ()()()助けるために。




 ロレックは後ろから狙ってくる鎌鼬を器用に避けながら、もう無傷では救出不可能であろうハブの所へ敏捷に向かう。


 彼は懸命に動こうとするハブの背中を蹴る刹那、獣人の肩が紫凶石によって爆発する。


 周囲にいた隊員の至る所に爆風と紫凶石の破片が突き刺さる。やがてすぐに爆発を直に食らい、血を吐いて絶命した。ロレックはハブを直撃から護るように立ち、神体憑依を駆使して何とか持ち堪える。

 パッと目を開けるとそこには気絶したハブが部屋の端に横たわっていた。生きていることにホッとしたロレックだが、すかさずグザヴィレに短剣を投擲する。


 あまりにも速い投擲による短剣をモロに肩関節に受けてしまうグザヴィレ。短剣の勢いによりそのまま背後の壁に激突し、崩れ落ちる。


「カタストロフィ……いつも最後に悲劇が訪れるのは悪役の方だな。まぁこの際どっちも悪だという意見は認めないことにしよう」


 グザヴィレは最後の一本である注射針を右手で器用に刺した。が、効き目はあまり見られない。それどころか打った場所が青白く変色している。


 黒焦げの地面、散乱したガラスの破片、そして、飛び散る血と臓物。

 漂う濃い血の匂いが空間に漂う中、ロレックは確かな足取りで足を運んでいく。現状この場で唯一立っているのはグザヴィレのみだ。他の者は一部を除いて死亡した。


 ──終末


 ロレックがロングソードをグザヴィレに向けて振ったその時。


 闘いの始点、その火蓋が幕を下ろした。


 ガキィン!


 ロレックが突然後ずさるようにして何かを避ける。その何かの正体は、()()()であった。


 その瞬間、静寂の空間を突き破るかのように哄笑が辺りを充満させる。


「アハハハハハハッ! 正義のヒーロー闇刃(ダークエッジ)参上〜」


 そこには血塗られた少女、セリアが腕をだらんとさせていた。


 その様子を見たグザヴィレがフッと含みを持たない笑いをする。


「やはり貴方がこの闘いの主人公だったか。さぁ、早くこの劇の幕を下ろしたまえッ!」


「あいよ!」


 グザヴィレはそう言い放つとその場で気絶した。元々本当に限界だったのだろう。セリアは俊敏に動き、ロレックに対立するような位置に立った。

 まるでディナーが台無しになったというような顔をするロレック。


「……俺の部下はどうした?」


「ああ? あぁ、全員殺したよ。中々楽しかったなぁ」


「そうか」


 満身創痍。どちらも顔には出ていないが、並の者でなくても既に根を上げている程には惨たる傷を両者は持っている。


「やろうか」


「ああ、マジバトルだ」


 今、永き闘いに終止符を打とうと二人は決心した。

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