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呪罵庫  作者: あむろ さく
4/8

第4話 発端




「倉田さん、何か困ったことはないですか?」


 生活補助の途中、白いテーブルの上を拭きながら聞いた。特に他意の無い、美容院で痒いところはありませんか、と聞くのと似た職業柄の心配りだ。

 倉田さんは、そうねえ……と言いながら、周囲のタンスや本棚を見る。


「そうだ、ちょうど北川さんに聞きたいことがあって」

「なんでも聞いてください」

「昔は新聞を取っていんたけど、それで思い出したわ。真ん中くらいのページに卑猥な女性の絵やビデオの紹介が載っていることってない? あれは子どもに読ませるには悪影響だと思うんだけど」

「……え、っと。そんな記事ありましたっけ?」


 新聞って表にメインのニュース、裏にはテレビ番組欄。記憶を辿ると中ほどの記事はスポーツや、何か専門的な特集が組まれていたと思う。下の部分に健康食品や物販の広告があったりして……特に倉田さんの言ういかがわしいイメージは無かった。印象に残っていないだけで、写真週刊誌の紹介に過激な見出し文くらいはあったかもしれないが。


「あら、私だけ? 特定の日だけ複数の新聞に目を通す時期があって、その時の新聞がちょっとね。いつかの気まずさを憶えた感覚……勘違いかしら」

「いま、ちょうど良いので倉田さんの携帯で調べてみましょうか」

「出来るの? どうやって……ニュース記事の画面から?」

「一つ戻って、ここの検索の枠に文字を打ち込んで……新聞、ポルノ、記事、アダルト。そんな言葉を……ああスペースを、空白を作って……そうです」

「あ、画面が変わった!」

「うーん。じゃあこのサイトかな。指で触れてみてください」

「北川さん、読んでくださる? 文字がびっしりで目がチカチカして」

「いいですよ」


 大手スポーツ新聞紙からアダルト記事が消える。

 という見出しからざっと目を通し、かいつまんで読んで聞かせた。


 要約すると昔は駅売りやコンビニの新聞、特にスポーツ紙には成人男性向けのページが多くあったらしい。大衆娯楽紙としてギャンブル関連やアダルトな記事が掲載されていて、購読する層がいたようだ。現在までの推移で、デジタル化やモラル、ハラスメントの観点からそういった紙面を読む人は減り、ほとんどのスポーツ新聞では取り扱わなくなったらしい。


 倉田さんは初めて聞く話だったようで、しきりに感心していた。当時は電車やバスで新聞を読んでいる人がいてアダルトな紙面が眼に入って嫌だったと言う。

 私も学生時代を振り返ってみたが、そういったことは無かった。きっと今は携帯で新聞や小説が読めてしまうからだろうと思った。記事にもあったがデジタル化が進み、わざわざ新聞を持って読む方が少なくなっているみたいだ。


 もし新聞みたいに、携帯の裏にも今見ているものが映ったとしたら、倉田さんと同じ思いをしたに違いない。たまによく分からないアニメ調の女性の絵や動画を見ている男性もいるが、もう少し角度とか音声には気を付けてくれないものか? 別にどんな趣味や嗜好で何を携帯で見ていても自由だけどさ、子どもと周囲の目には触れさせないで欲しい。


 知らなくていいことは確実にあり、隠すことに意味がある。


 妹をどうしても許せない理由も()()()()()

 私たち家族は、理子の身勝手な趣味嗜好に影響させられた。父も母も。ぜったいに理子の…… 


「北川さん怒っている? なんだか怖い感じ」

「顔に出てましたか? すみません」

「ごめんなさいね無理を言ってしまって。疑問を解消してもらったけど、あまり気分のいい話じゃなかったでしょう」

「いえいえ、ちょっと違うことを考えてただけで……」

 

 新聞の話が終わりかけたところで呼び鈴(チャイム)が鳴った。挨拶からすると配達らしいが、話を中断してこちらは拭き掃除を再開する。何か言われたことをお手伝いし支援する。利用者の出来ることを極力奪わない。介護、特に訪問介護ではそれに尽きるのだ。

 ドア付近で話し声がして、こちらの方へすり足で近付く音がする。


「北川さん」

「はい」

「荷物が届いてね。居間のほうへ運んでくださる?」

「分かりました! よっ……とと」


 玄関で大きめの段ボールを持つ。中が思ったより軽くて、力が抜けた。危ない危ない。ただでさえ自分のとこの施設職員の中では断トツの最年少だ。腰を痛めましたなんて話は笑い話にもならないし。

 何も入ってない? いや、家でもネット注文で頼んだ化粧品が仰々しく一つだけ納められている時はある。これもその類か。居間に荷物を降ろす。顔料や花の油のような匂いが強くなった気がした。


 昔ながらの切り出しナイフで段ボールを開けていくのを見届け、拭き掃除を再開しようとした時……


「懐かしい。でも、どうして……?」

「どうかされました?」

「ああ、ごめんなさい。こっちに来てくれないかしら」




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