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五話


2人は比較的開けた道を進んだ。かつては使われていたのだろう、今も比較的平らで歩きやすい。守羅は、左の頬の横辺りで、指をくるくると回していた。

何度か道を曲がって、山の入口が見えなくなった頃、守羅は立ち止まった。指を軽く振って、莉凛香の手を掴む。

指に巻きついた蜘蛛の糸が、月光を反射してきらきら光っている。糸の片方を莉凛香の人差し指に、もう片方を己の手首に結んだ。妖蜘蛛の糸はただの刃物では決して切れず、結んだ糸は両者を繋いでどこまでも伸びる。暗い山中ではぐれない為の対策だ。

「こっち」

守羅は莉凛香の手をぐいと引っ張って、真っ暗な闇の中へ導いた。開けた道は月明かりに照らされていたが、1歩獣道に踏み込むと、人間には足元も見えない。灯りもなく、己の感覚だけが頼りだ。

朧げな木々の影を避け、守羅は前に進む。

「そっちは暗いし危ないわ」

「俺は見えてる。問題ない。それより、村の連中の生活圏から離れてやる方が重要だ。東の山は人が通らないから、ここを抜けて、村との関わりが薄い人里を目指そう」

がさがさがさ、と木の葉が鳴く。手を強く握り締められた。

(バケモノ)だって出るわよ……。ここ、人の領域じゃないもの」

「退魔師の癖に、妖を怖がるのか? 出てきたら、退治してやればいい」

なんでもないという風に言って、手をしっかりと握り直した。守羅の結界なら、生半可な妖からは身を守れるだろう。勿論、襲って来るのが1頭や2頭ならの話だが。

極力冷静に、かつ緊張の糸を緩めず、凸凹した道を進む。

月が天頂を過ぎた頃、守羅の耳に異音が届いた。

がさがさがさ……ざ……ざ……ざ……

明らかな足音を伴った物音がする。近づいてくる。聞こえたのだろう、莉凛香は飛び上がった。守羅は尻尾で莉凛香を抱きしめた。細い腕を掴んで、莉凛香の持つ封魔刀を向ける。反射的に、結界を張る力を集める。

「……何者だ」

声は自然と鋭くなる。人の足跡のように聞こえるが、人型の下肢を持った妖だっている。今まで妖に出会わなかったのが幸運なのだ。

息を詰めて音の主が現れるのを待つ。

木の合間の闇が濃くなり、右へ左へとよろめきながら近づいて来る。

微かな光に照らされて、女が姿を現した。長い髪で顔は見えない。薄い色の着物を着ていて、幹に手を付いて身体を支えている。

「貴方たちは、(あやかし)ですか」

女が問うた。莉凛香の身体の筋肉が弛んだ。

「私は人間よ! こっちは守羅、半妖なの! 」

「半妖……」

守羅は訂正した。

「俺は人間側」

「そう……。よかった」

女はよろめきながら近づいてきた。

「私は山の東にある村から来たの。流行病に効く薬草が生えていると聞いて……。でも、探している内に日が落ちて迷ってしまったの」

山の東。それはつまり、守羅達が行こうとしている場所だ。

「そうなの? なら、一緒に行きましょうよ! ね、守羅! 」

明るい笑みを浮かべる莉凛香に頷く。人に会えてあがっているらしく、いつもより饒舌だ。

「あの星の方角が北だ。だから、東はあっちの方。貴方は怪我してるみたいだし、血臭は(バケモノ)を招く。俺たちと一緒に早く山を出よう」

「まぁ……。良いのですか」

「連れもああ言ってるし、他人に親切にするっていうのが俺の信条」

守羅は女の手を取って糸を巻き付けた。

「この糸は俺達と繋がってる。もしはぐれても、この糸を辿れば合流できる。山から出られたら、山の出口に結んでおく。貴方が先に出られた時もそうしておいて」

「はい」

女は頷いた。守羅は女の腕を肩に回した。しっかり踏ん張って、東に向かって山を登り始める。そう高い山でも無いはずだから、そろそろ下り始めるはずだ。

女からは血の匂いがした。おそらく、近辺の妖には気づかれている。本当なら、早く移動した方がいい。生存本能が囁く。女を捨てて行け。

だが、女を見捨てることができない。勿論、莉凛香の目や向こうに着いた時のことを考えてでもある。しかし、逃げる力の無い者を見捨てることが、どうしても出来ない。

背後に気配がふたつ。木々の間を縫って、確実に近づいてくる。莉凛香は気づいているだろうか。いや、おそらく気づいていないだろう。

普通の人間より多くを映す目で、守羅は前方を見た。道は随分と荒い。足跡や小石、つるつるした下草で歩きにくい。

「莉凛香」

「何? 」

「俺が食い止めるから、お前はこの人と一緒に逃げろ」

「はっ? 」

女を放り投げるようにして莉凛香に任せた。

守羅と女が離れると同時に、2頭の妖が飛び掛ってきた。豚の鼻に丸い模様が垂れ目のような印象を与える丸い顔の妖と、斑模様の毛皮から生えた四肢が薄い皮で繋がっている妖だ。

「はあっ! 」

力を使う時特有の熱が額に集まる。結界壁を操り、妖を押し返す。妖が2頭だけなら、このまま押し返せる。莉凛香達と離せれば、それで勝ちだ。

守羅は振り返った。

「おい……! なんでまだいるんだ!? 」

莉凛香は荷物を置いて女性をもたれさせ、刀を抜いていた。整った刀身は闇の中でも薄く光を放ち、退魔の術痕を浮かび上がらせる。

「だって、置いて行ったら守羅が死んじゃうかもしれないじゃない! 」

「莉凛香達が逃げてくれたら俺は勝手に捲いて逃げるから! 新手が来る前に早く行け! 」

莉凛香は首を振る。その躊躇いが今は煩わしい。

「私も戦う! 」

「ここにいたら他の妖に見つかって八つ裂きにされちまうってのに! ……ああ、もう! 」

守羅は結界を強めた。抵抗してくる力に、妖の顔面が潰れたようになっている。鼻の周りの肉が押し潰されて皺になっている。

結界の強度を保ちながらじりじりと後退する。

「このまま少しずつ距離を離して逃げる。荷物は捨てていい。万が一結界が切れて追いつかれたら、すぐに斬れ」

「ええ……わかったわ」

莉凛香は頷いて、女に肩を貸した。鞘に収めた封魔刀を杖代わりにしている。

「じゃあ……行くぞ」

莉凛香は頷いて歩き出す。守羅も力を強めて結界を維持しながら後ずさる。

膠着状態のまま、暗い山中を行く。どのくらい進んだだろうか。結界もずっと保ち続けられる訳ではない。どこかで何とかしなくては。

木々の向こうで、随分と小さくなった血走った目を睨む。連中の目は守羅ではなく、逃げる2人を見ている。人に避けられた山に棲まう妖は、瘴気や同族を食い、強く暗い力を持つ。おまけに、人間(エサ)に飢えていて凶暴だ。この山に踏み込んだのは、間違いだったかもしれない。

少し先を行く莉凛香達をちらちらと見ながら距離をはかる。かなり距離を離さないと、匂いで追ってくるだろう。結界に大きな鼻から飛び散らされた鼻水がかかって、顔を顰める。

辺りを見回すと、三十間ほど先で木が無くなっている。かといって月光で地面が照らされているというわけでもない。漆黒の闇が広がっている。

崖だ。

「莉凛香、近くに崖がある! そっちに誘き寄せろ! 」

「わかったわ! 」

2人の影の塊が、ゆっくりと方向を変えて行く。

「間違っても落ちるなよ! 」

「大丈夫! 」

思った通りだ。妖達の視線は2人を追って、徐々に移動している。あとは守羅が押してやるだけだ。

呼吸を整える。ゆっくり息を吐きながら、力を高めていく。

「ハアッ! 」

暗闇の中で結界が赤く輝き、2頭の妖を突き飛ばす。

妖の、動物を継ぎ接ぎしたような歪な姿が月光に仄白く照らされ、瞬く間に崖下の闇に消えていった。

「守羅、やったの? 」

「ああ。早く行こう」

背負ったままだった葛篭を揺すって重心を整えた時だった。

「きゃあっ! 」

「莉凛香! 」

四肢に薄い膜を持つ妖が、小さな身体を咥えた。

「放してよ! 」

莉凛香は掴んだままの封魔刀で妖の唇を押しのけた。熱い石を水につけた時のような音がした。妖が弾かれたように口を開く。牙を逃れていた身体が支えを失って落ちてくる。守羅は慌てて駆け寄った。間一髪、地面に激突する前に受け止めた。

「おっ、と。……重っ! 」

「失礼ね。この刀でつっつくわよ!」

いーっ、と歯を見せ気丈に振舞っているが、怖かったのだろう。震えが手に伝わってくる。

『ギャアアアアアアッ』

妖は怒りに満ちた声を上げる。暗く澱んだ空気をビリビリと震わせながら、山全体に届いたと思われる。

「まずい、他の妖に気づかれた! 」

新手が来る前に逃げるべきか? だが、目の前の妖からは逃れられない。大勢の妖に喰われるか、目の前の妖に喰われるかだ。

どうする。

腕の中の莉凛香を見下ろした。一対の翠玉が真っ直ぐに見つめ返してくる。

「莉凛香、本当に言う事を聞いてくれ」

「えっ? 」

なるべくそっと地面に下ろす。限界が近い。どこまでやれるだろうか。

「俺がコイツを食い止めるから、新手が来る前にさっさと逃げろ。……どうせこのままだと全員死ぬ。俺が残るのが一番いい方法だ」

「ちょっと! 」

「待ってください! 」

腰に巻いた羽織の裾を掴まれた。

怪我をしている女だ。首に提げた石が、仄かに光っている。

「何!? 」

「村まで逃げましょう!もう近くまで来ているはずです! もう少し近づけば、追って来られませんから! 」

「村まで着いてくるぞ! 捲くか倒すかしないと」

女は首を振る。

「とにかく、大丈夫ですから。早く! 」

守羅は息を吐いた。一度途切れた集中は、なかなか戻せない。必要な結界を、移動させながらこれ以上貼り続けられるかどうか。

「やるしかない、か……」

冷えて乾いた空気を思い切り吸い込む。ゆっくり吐いて、集中力を研ぎ澄ましていく。耳や尾を撫でる風の僅かな流れすら感じ取れる。

集中が針のように研ぎ澄まされて細くなる。襲いかかってくる妖の動きが、途方もなく遅く見える。微かな月光に照らされて揺れる毛の1本1本まで見えそうだ。豚鼻が大きな口を開けた。刹那、自分を中心に小さな結界を展開した。

汚れて黄ばんだ牙が赤い球を噛み、ガチンと硬い音を立てる。みしみしと力が加わってくる。

「莉凛香、着いてこい! 」

女を小脇に抱え、守羅は走り出した。莉凛香はかろうじてついてくる。息が大分上がっている。12の子どもとしてはよくついてきているが、正直言って遅すぎる。

あまり距離を離すわけにはいかない。左顎の横あたりの妖蜘蛛をつついた。莉凛香を手首に縛り付けるようにして走る。足がぐっと重くなるが、気を使いながら走るよりもマシだ。

尻尾を大きく振ってバランスを取りながら走る。しなる尾をあちこちにぶつけながら、思いっきり踏みこんだ。

力強く跳ねた。

浮遊感。

内蔵が下向きに引っ張られるのにやや遅れて、身体が落ちる。

『うわぁぁぁぁあ!』

足元を見てないなんて、俺の馬鹿! 口から悲鳴を放ちながらも、頭の片隅で冷静な自分が言った。崖から生えた潅木を掴む。が、巻き込まれて落ちてきた莉凛香が降ってきて、一緒くたになって叩き落とされた。

凄まじい音がした。衝撃に全身が驚いている。咳込みながらなんとか起き上がる。少し打ったくらいで、ほとんど怪我をしていない。どうやら、守羅の背丈の倍ほどの高さの落差だったようだ。

妖はどこだ。気が急く。痛みが全身を枷のように縛っているが、意志の力で起き上がる。

上を見ると、皮膜で滑空する妖が逆方向に去っていく所だった。心なしか焦っているように見える。

「どうしたんだ……? 」

助かったようだが、不可解だ。守羅は首を捻った。守羅の上に着地した莉凛香を押し退け座り込む。呼吸と鼓動は徐々に落ち着いてきた。

「あいたたた……。守羅、何が……」

莉凛香も起き上がり、徐々に夜の気配を薄くする空に妖を見い出した。莉凛香も首を傾げた。

「どうしたのかしら? 」

「土地神様の御力です」

答えたのは女だった。打ち付けたらしく、右腕が腫れている。手をついて身を起こしているが、細い腕が震えている。守羅は支えた。ありがとうございます、と呟いて、女は続ける。

「私達の村は、土地神様の御力により守護されています。妖は、村の近くには踏み込めません」

「ああ、そういうこと」

守羅は頷いた。ここからは安全、という訳だ。そう思うと、どっと疲れがのしかかってきた。

いっそここで一休みしていこうかと思ったが、女は早く連れて行かねば。施しは見返りを求めてするものでもないが、仲間を助けたとあれば休ませて貰えるだろう。気合いで眠気を振り払い、莉凛香の頭を軽く叩いた。

「莉凛香立て。あとちょっと下るだけらしいから頑張れ」

半分瞼を閉じかけていた莉凛香はのろのろと立ち上がった。女に肩を貸し、気配を探る。重苦しく濁った空気の中に、風が吹き込んでいる。近い。


下るための道を探すと、川があった。山を下りながら流れているようだった。守羅は水を飲んで、頭を洗った。涼やかな流れが額を撫でるのが心地好い。

女も水を掬って飲んだ。

「川は村まで流れています。私は川から離れてしまったので、すっかり迷ってしまったのです」

「そう」

「この辺りの潅木には見覚えがあります。村のすぐ近くです」

「そう」

守羅は立ち上がって、水を飲もうとしていた莉凛香の腰に尻尾を巻き付けて引っ張った。女を抱えるようにして立ち上がらせる。

「ちょっと! 」

「早く行こう。平地に出たい。正直、疲れた」

女に手を差し伸べる。薄くなる闇が、女の足首が出血し、痛々しく腫れ上がっているのを露にした。折れているらしい。手当を急ぐ傷だ。

女の言った通り、川を下るとすぐに山から出た。かなり広い村だ。灌漑技術が発達しているのだろう、上流には生活用水を得るための施設がいくつかある。村に入れば細い水路が網のように広がり、乾いた黒土の根を張っている。水路で区切られた土地では、稲が頭を垂らしている。暁光に照らされ、一面を黄金色に染めている。

「ここがあなたの村? 呪術師はいる? 」

守羅の問に、女は頷いた。指をさし、腫れた足でふらふらと歩こうとする。

「事情を話して休ませてもらおう。莉凛香、ついてきて」

莉凛香は疲れているのか、口も開かないが、女の脇に回って支えた。女はありがとう、と囁いた。

呪術師の家は村の中心部にあり、村のどこにでも駆けつけやすい構造になっていた。意外にもこぢんまりした印象で、怪我をした女を見るなり幼い娘が呪術師に取り次いでくれた。

呪術師はしわくちゃで小さくなった老婆で、普段から室内にいるためだろう、雪のように白い肌の上に疎らなしみが浮かんでいた。

「俺たちは日華国(たいりく)に行くために旅をしている。そこの山中で彼女と会って、この村へと案内してもらった。一晩でもいいから、どうか休ませて欲しい」

呪術師は女の手当をしている間、一言も話さなかった。傷が癒え、女が退出してからようやくこちらへと向き直った。

「それは、旅のお方。筒子(つつこ)を助けて頂き有難く存じます。あなた方の傷も手当して進ぜよう。それに、疲れたでしょう。粗茶ですが、召し上がっておくれ。一晩どころか、一月いて下さっていても構いませんよ。ほれ、お前、お茶を淹れてきておくれ」

優しい笑顔を浮かべた呪術師は、弟子だという少女に命じ、莉凛香の手当にかかった。優秀な呪術師になるだろう、莉凛香の傷を速やかに手当し、茶の準備にかかる。少女が台所に消えてから、守羅は口を開いた。

「莉凛香、この村では何も飲むな。水筒に水があるだろう。それで凌げ」

「えっ? 」

守羅は老女の手を払う。打ち身程度、手当されるまでもなく数日で治癒する。

「先に筒子の様子を見てくる 」

そう声を言って莉凛香を伴い、家の隣に設置された仮設の建物に入った。相当に大きい建物は簡易的なものだと一目で知れるが、その異様な様は老婆の家を小さく見せた。

建物はいくつかの衝立で区切られていて、所狭しと病人が並んでいた。大きな村だと言っても、尋常な数ではない。

女はすぐに見つかった。忙しく立ち働く者たちの中で、ただ一人佇んでいたからだ。

「筒子」

「あなた方、先程は本当にありがとうございました」

女は振り返り、深深と頭を下げた。その拍子に、女が見舞っていた人物の姿が見えた。

「この人は? 」

莉凛香が背後から覗き込んだ。壮年の男は痩せこけて、苦しげに息をしている。

「私の父です。さっきまでは起きていたのですけれど。もう随分長く苦しんでいるのです」

「お父さんを治す薬が欲しくて、山に入ったの? 」

「ええ。でも、叱られてしまいました」

そう言って筒子は苦笑した。

「きゃあっ! 」

莉凛香が急に声を上げた。蛇が病人の胸の上に乗り、ちろちろと舌を出していた。

「危ないわ! 」

莉凛香は蛇に手を伸ばす。

「待って! 」

莉凛香の手を筒子が掴んだ。

「村の蛇は皆、蛇神様の遣いなのです。良い蛇ですから」

筒子が手を下ろさせると、蛇はとぐろを巻いて頭を隠した。眠ったのかもしれない。

「蛇神様ってなあに? 」

「この村におられる尊い神様よ。蛇神様のおかげで、この村はこんなにも発展し、(バケモノ)にも襲われずに済んでいるの。何度も何度も、私も私の父も祖父も、皆蛇神様にお助け頂いたお陰で、今があるのです」

筒子は自慢気に笑った。莉凛香は目をキラキラさせて聞き入っていた。蛇神は多分妖怪の類だぞ。それでいいのか。

守羅は心の中で突っ込みつつも、莉凛香の容姿が疎外されないのにほっと胸を撫で下ろす。

「さて、筒子も平気そうだし、休む場所を紹介してもらおう。莉凛香、こっち」

莉凛香は方向を変えようとしてよろめいた。それを受け止めて立たせる。近くを歩いていた娘(これも呪術師の弟子だという)をつかまえて空き家を教えて貰った。実際訪ねてみれば随分と状態が良く、問題なく過ごせそうだった。

「ねえ守羅、どうしちゃったの? 」

莉凛香が問うてきた。泥が目立つ金髪が重たげに揺れる。

「ちょっとね。まあ、莉凛香には話しておくべきかな……」

荷物を下ろしながら答える。返事がしない。顔を上げると、倒れ込むように眠る莉凛香の姿があった。上がり框に腰掛けたところで力尽きたようだ。

「まあ、当然か……」

目まぐるしい1日だった。自覚するとどっと疲れが襲ってきて、框に座り込む。

だが、ここも問題を抱えているらしい。

数日滞在するだけなのだし、無視してもいいのだけれど。守羅の信条がそれを許さない。

「仕方ない、やるか……! 」

守羅は頬を叩いて気合を入れ、体力回復の為に丸くなった。

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