表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/28

07.家族

「喧嘩ね」

「喧嘩なあ」


 帰路。どかどかと砂煙を上げて走る魔物の上で、二人は揃って首を傾げた。


「あなた、私に何か言いたいことある?」


 受け入れる姿勢では全く喧嘩にならないとは思うが、ものは試しと聞いてみる。

 答えはすぐに返ってきた。


「求婚に応えて欲しい」

「そうじゃなくて……や、まあ、そういうのも言いたいことかしら……保留で」

「ああ、でも拒否から保留まで行ったんだな」

「……じゃあ、一応。一応ね、私からも言わせて貰うけど」


 以前しまい込んだ言葉を、やや後ろめたい気持ちで紡ぐ。まるで嫉妬をしているようだからと口にするのは止めたのだが。


「求婚してる人が、他の女を腕にぶら下げてるのって、その、どうかと思う、わ……」


 ピーナは心底不思議そうな顔をした。ぱちくりと何度も瞬きをして、考えて考えて、やがて、あっ、とらしからぬ大声を上げた。


「悪い、うわ、気づかなかった、あれ人間の求婚の仕草だったか!」

「求婚ではないけど……必要以上に擦り寄るのは異性へのアピールね」

「うわー、悪い! 不誠実だった!」


 どうやら本当に気づいていなかったらしい。魔物の背から落ちそうな勢いで頭を下げるから、軽く手を振って止めさせた。

 それでも彼は精悍な顔を情けなく歪めて釈明をする。


「おまえ以外はそういう対象じゃないんだよ。なんていうか……魔物たち(こいつら)と同じようなものだから、擦り寄ってきててもなんとも思わないんだ」


 ……犬が人に腰を擦り寄せるようなものだろうか。それはそれで、さすがに女性たちが可哀相になる。

 その辺りを深堀りするのは止めて、この機会にと気になっていたことに突っ込んだ。


「正直なところ、本当に私のことを……ええと、好き、だと、思ってるの? 夫婦になりたいって?」

「好きだよ。フリィのことは好きだ」


 少しホッとした。これで実はあまり好きではないとか返されたら、いくらフリィでも涙が出たところだ。

 だけど、と歯切れ悪くピーナは続けた。


「夫婦ってのは、実はよくわからない」

「でしょうね」

「……なあ、ぶっちゃけていいか」


 どうぞ、と頷くと、彼は魔物の上で姿勢を正した。

 馬に跨っていれば大層絵になっただろうという佇まいで、世の淑女には到底聞かせられないことを話し出す。


「性欲っていうのがよくわからない」

「そ、そう」


 覚悟していたよりぶっちゃけられた。


「人間って、割とほら、発情するだろ。人にはよるけど。ああいう、あー、道端で致してるのを見たことがあるんだが、こう、あらゆる方向で全くわからなくて」

「……」

「人間に変化してても、俺は勃起しないというか」

「ねえ、コメントに困るんだけど」

「竜にもこう、あるにはあるんだが、俺はそういう対象がいたことがないから、そういうことになったことはないし……いや、悪い。ここまでが前提でな」


 フリィの耳まで真っ赤であろう顔を見て、ピーナは困った顔で頬を掻いた。


「夫婦って、次世代を残すために子供を産むものだろ。でも俺は……竜のおまえは綺麗だったけど、おまえにも今のところ欲情を覚えたことはないから、夫婦になりたいって言い方が正しいのかどうかわからないんだ」


 何度目だろうか。悪い、と再度謝られて息を吐く。

 こちらはむしろ安心した方だった。自分は魔女と呼ばれているとはいえ、同じ人間が魔物と同等扱いされているのに、ただ魔力が大きいだけで欲情されては複雑な気持ちになる。

 ピーナと暮らし始めて早々に考えたことがあった。彼は同じ形をしたものと会うのが初めてで、かつ、フリィは恐らく彼に匹敵するほどの魔力を身に秘めている。つまり、同じ時を生きられる可能性が高いということだ。

 ピーナもフリィも、変化の魔法で人という形の枠を超えられる。異種族であれ、家族のような形を取れるのである。


「提案なんだけど……一度、リセットしない?」

「リセット?」


 しょんぼりと肩を落としたピーナが、思いがけない提案を受けたと顔を上げた。

 フリィはわざとらしい明るい笑顔をつくって、これは違うなと表情を消した。揺れる魔物の上から並走するピーナに向けて、真面目な顔で手を伸ばす。

 よくわからないまま一足飛びに求婚なんてするから、度々距離感に戸惑うことになるのだ。


「私、あなたがいる日常嫌いじゃないわ。便利だっていうことを差っ引いても一緒にいて楽だもの。だから、家族になりましょ」

「カゾク……」

「一緒にいたいのなら、それがいいんじゃないかしら」


 家族なら他人だってなれる。全く血の繋がりのないリラリーレインとフリィは、実際に家族であったのだ。他の人間がどう言おうと、過去のフリィが胸を張って家族と呼べる人はリラリーレインだけだった。

 ピーナは瞳を揺らして唇を尖らせた。


「でも家族だと巣立ったりするだろ……それこそ嫁に行ったり」

「嫁に行くアテなんてないわよ。それにドワーフを見なさい。夫婦だって別居してるじゃない。夫婦にこだわることないでしょ」

「うーん」


 腕を組んで熟考し出したから疲れてきた腕を下ろそうとしたのだが、提案の撤回と思ったのかすかさず手を取られて、その必死さに思わず笑ってしまった。

 ぶんぶんと子供のように上下に振って、彼は酷く嬉しそうに笑う。いつもの快活な笑顔とも違う、滲む光のような笑顔だった。


「うわ」

「わわ、あぶな!」


 並走する魔物の上で手を繋いでいるなど、当然のこと危険行為である。熊の形をした魔物たちは走りづらそうに身を揺らしふらふら振れた。おまけに木を挟んで左右に分かれられて、慌てて繋いだ手を放す。

 いい年をして、何を青春しているのだか。一拍を置いて弾けた笑い声に、魔物たちが迷惑そうな顔をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ