表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック3巻1/15発売!】  作者: take4
第五章 雄飛編(新たなる階梯へ)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/475

第九十四話(カイル歴506年:13歳)般若の降臨

それは、合同競技大会が終わり、翌日の事だった。

辺境伯や、王都からの来賓も帰路につきひと段落した夜のこと。



家族水入らずの夕食会……、の筈だった。

遅れて夕食を待つ居間に入った俺は、予想していた、でも実現して欲しくなかった光景を目にした。



「タクヒール、お疲れさま。夕食の前に大事なお話がしたいと思ってたのよ」



笑顔で迎える母、横に座っている妹、そして……、正座し項垂れている2人の男たち。

父と兄がそこに居た。



「さあ、今回1番の功労者だった貴方は、ここに座ってね」



捨てられた子犬の様な目で、此方を見る父と兄の前では、ソファに座るのは遠慮したい気分だったが、母には逆らえないので仕方がない。



「さて、タクヒールも揃ったことだし、お話を始めましょうか。

息子、弟が大会の運営やもてなしに、走り回っているなか、貴方たちは一体何をしていたのですか?」



「いや、儂もダレクも来賓の方々の、もてなしや案内を……」



「そうですか? 主賓である、ハストブルグ辺境伯を迎賓館に残して、【夜の視察団】のご案内は、さぞお忙しかったことでしょうね?」



「!」



淡々と母のクリティカルヒットが入り、父は固まる。



「いや、誤解だ。来賓の皆さまをもてなす、これも大事なことなんだ。

儂等は道中の安全を確保し、ご案内したまでで……」



父さん、ダメだよ。

母さまは全て把握した上で追い込んでるんだ。

嘘は墓穴を掘るだけだよ。


俺は心の中で、この後の展開に合掌した。



「金髪の娘さんは、エレナさんでしたっけ? そして赤毛のカレンさん、この若く、可愛いお二人には、特にご執心だったようですよね?」



「な、な、何故っ……?」



「あと、宿場街での武勇伝もこの場でお話ししましょうか?」



「は、話せば分かる、頼む、儂の話も……」



「お黙りなさいっ! なんならこの場で、全ての娘さんの名前を挙げても良いのですよっ!」



「お父さま、お兄さま、お母さまが何故お怒りか、分かってらっしゃいますか?」



うわっ! 妹まで参戦して来た。



「……」



「タクヒールお兄さまが、毎日必死に走り回っているのに、お二人がずっと遊び呆けていらしたからです。



単に娼館通いを仰っているのではありません。

お母さまも最初は……、『今回は仕方ないわね』、そう仰って目を瞑っていたのですよ!」


この2人に責められ、縮こまる2人の姿は、もう見てられない。



「本来、この競技会を行うのはエストの街だった筈です。

貴方もテイグーン開催に賛成されたのでしょう?


なら、何故、貴方たちの決定で振り回され、寝る間を惜しんで働く息子の事を考えないのですか?

何故、貴方もダレクも、お客様気分で毎晩毎晩、遊び惚けているのですか?


貴方の息子、弟は毎日、誰よりも遅く床に就き、誰よりも早く起床し、働いていたのですよ!

貴方たちは、何故、それが見えないのですか?


私はその事が情けなくて、仕方ありません!」



やっぱり……、父と兄は完全にうなだれている。



「母上、今回は無事に大任を果たせた事ですし、父上も、兄上も、反省しているご様子。

少し大目にみていただくことはできませんか?」



「ダメよっ、本題はこれからだから。

そして、私が依頼されたこともあるの。だから貴方もここに居て、最後まで話を聞いて欲しいの」



その瞬間、般若からいつもの顔に戻った母がいた。



「先ずダレク、フローラさまが王都の学園に入学される際、貴方との婚約を発表します。

なので、以後、厳に身を慎むのよ」



「何っ! ちょっと待て!

そんな大事な話、儂は聞いとらん! いつの間に」



ここで初めて父は声を荒げて立ち上がった。



「お座りっ!」



再び般若が降臨する。



「立って良いとは言ってません!

その大事なお話を行う機会を、【夜の視察】と称して毎夜、不在にしていたのは誰ですかっ!」



父はまた子犬に戻り正座した。



「そんな事だから、辺境伯は仕方なく、ご存念を私にお話しされたのですよ」



「ちょっと待ってください。俺はまだ結婚とか……」



「ダレク、貴方はまだ分かってない様ですね。【ソリス家の若き雄】と呼ばれている、貴方の通り名に、【夜の】と言う言葉が新たに付いても良いのですか?」



「全くです。

お兄さまが一晩で娼館を何件も梯子された件、それを聞いて、私は恥ずかしくて仕方ありませんでした」



「ク、クリシア、何故それを?」



「投票券を買うために並んでいた時、後ろに並んでいた方々が話してましたわ。

幸い、フローラさまは気付いてなかったようですが。

そんな事、もう2度と聞かせないでくださいっ!」



「ダレク、貴方はこのままだと武勲ではなく、夜の豪のものとして、貴族の間でも噂に登る事になります。

既にこの町の人々の噂になっているように……

そんな事になってもいいのですか? 

王都での貴方の行い、私が知らないとでも思っていますか?」



「えっ! どうしてそれを……、まさかお前(タクヒール)っ……」



「オレデハアリマセン、ハシゴノハナシモ、オウトノコトモ、イマハジメテキキマシタ」



事実、俺ではない。でも、俺には推察できる。


以前、娼館にいた、ヨルティアの情報網を手に入れた母は、もう無敵だ。

王都のことも、何らかの手立てを持っていたに違いない。



「辺境伯もご心配されていました。

大事な娘を預ける貴方が、良いところも悪いところも父親譲りである事を……」



兄は小さくなってしまった。

父も更に小さくなっている。



「辺境伯は貴方を婿として迎え、直系男子がいない、ハストブルグ家の、将来の後継者候補としてもお考えです。教育をよしなに頼む、辺境伯からはそう言付かっております」



「……」



兄は黙ってうな垂れる。



「ダレク、貴方は暫くそこで我が身を省みてなさい。

因みに……、王都にも私の【耳】はありますからね」



「さて、タクヒール、貴方のお話です」



優しい笑顔の母が此方に向き直った。



「この度の武勲、テイグーンの開発などの内治の功績、今回の合同最上位大会の運営や差配など、辺境伯だけでなくゴーマン子爵からも、お褒めの言葉をたくさんいただきました」



「ありがたいお話です」



「ゴーマン子爵からは、愛娘のユーカさんを頼む、そう言付かっているのよ。

貴方も薄々は気付いているでしょう?」



俺は無言で頷いた。



「合同競技大会、1日目の夜のことでした。私は貴方たちの事をおふたりから聞かれ、私は、自身の存念をお話ししました」



〜合同競技大会、1日目の夜のこと〜


「では、お言葉に甘え、子爵家の意向ではなく、2人の母親として、お話し申し上げます」



頷く2人にクリスは続けた。



「ご存じかも知れませんが、ダレクは、先の戦でかけがえのない友と、彼を慕う配下を失いました。


私にはあの子がまだ、深い悲しみに包まれていること、悲しみを振り切るために、一時の享楽に身を置いていると考えています。


時が経てば、息子も立ち直り、落ち着くと思います。私はダレクを信じています。

ですが、残念ながら今、ダレクの傍には、支え、癒やしてくれる存在がおりません。


少しだけ、ダレクに時間をください。

私も息子を導いていきたいと考えています」



ここでクリスは言葉を切った。



「タクヒールについては、もう少し複雑です。


息子は母である私から見ても、不思議な子供でした。

同じ年頃の子供と比べ、幼い頃から母に甘えることもなく、彼は独りで戦っていたように思えます。


誰にも本心を打ち明けることもできず、孤独に戦うあの子の心は、安らぐことなく消耗し続けていった筈です。


私は、息子を守るべき母として、彼と心が通じている味方を、素直に気持ちを吐き出すことができる、そして、安らぎをもたらしてくれる、そんな存在になってくれる女性達を、タクヒールの傍らに付けました。


今、あの子は心身ともにもう大人です。

そして傍には、心も身体も寄り添うことができる女性がいます」



「では、彼には妻となるべき女性が既におると?」



ゴーマン子爵は驚きと失望のあまり、思わずテーブルに手をつき、前のめりになった。



「いえ、私も彼女たちも、正妻となることは望んでおりません。

例え望んでも、この国では貴族として抗えない定めもあります。

息子タクヒールは既に男爵家の当主です。貴族としての務め、これは皆が理解しております。


ゴーマン子爵さま、そんな息子でも、ユーカさまのお相手は務まりましょうか?

ユーカさまは、それをお許しになるでしょうか?」



「ふむ、儂は娘が不憫な思いをすることがないよう、それだけが心配でな」



ゴーマン子爵も遠い目をして語る。



「お恥ずかしいことながら、我が領内で、娘は決して幸せとは言えんのだ。


だが、そんな環境に居ても、いつも明るく、こんな儂にも気安く話しかけてくれる。

お主の息子も同じだ。

この2人がいる時だけ、儂は自分に素直になれる。


だからこそ、お主の息子なら、娘を安心して任せられる、そう思ったのじゃ」



「では、ユーカさまが、事情を知った上でご承知くださるのであれば、そういう事でどうでしょうか?」



「ふむ……」



「ソリス家では、ユーカさまが不憫な思いをされる事は決してさせない、それはお約束いたします。


私が目を光らせておりますし、タクヒールの周りの女性たちも、道理を弁えた、性根のしっかりした者ばかりです。

それは私自身が会って話をして、確認しております」



「ほっほっほ、ものには順序もあろうて。

先ずは兄の話が公になった後、それでどうじゃ? 本人たちの思いもあるしの」



「御意のままに」

「仰せの通りに」



「タクヒール、今すぐ婚約、そういう事にはならないわ。

でも覚えておいて、いずれそうなる前提として、私たちは考えていることを」



「母上、ゴーマン子爵は、その……、4人の事を、ご存知なのですか?」



「ご存知ですよ、流石に4人も妻がいると申し上げた時は、非常に驚かれていたわ」



やっぱり、ですよね……



「でもね、その後は、『流石! いつも儂の想像の上を行く奴デアルっ!』と、笑っていらっしゃったわ」



カイル王国では、貴族が、特に優秀な当主が複数の妻を迎えることに、比較的寛容な文化を持つ。


これは、少ない配下と領民とともに、この地を切り拓き、王国の礎を作った、初代カイル王からの伝統だ。

だが後年、貴族の血を薄めないよう、当主の正妻は必ず貴族同士の婚姻を定めた悪弊も残している。


騎士爵や準男爵は、あくまでも一代限りの準貴族であって、婚姻に関して、貴族同士の対象として認められていない。

それらが、法によって定められている。



「ま、待てっ!」



ここで再び父が参戦した。



「クリス、4人の妻だとっ! 儂は知らんぞっ!」



「以前にも申し上げた筈です。子供たちには、私がふさわしいと思った女性を付けると」



「だが、よ、4人とは、うら……、由々しき話ではないかっ!」



「タクヒール、お前いつも、ずるいなぁ」



この2人、やっぱりブレないよなぁ。

心には思ったが、ここは神妙に無言でいた。



「節操のない貴方がたは黙ってなさいっ!

タクヒールを大切に見守りたい女性たちがいて、タクヒールも彼女たちを頼りに、そして大切にしている。

ただそれだけです!」



「お兄さま、私はフローラさまに続き、ユーカさまがお姉さまになること、大賛成です」



え? 妹は4人の件、全くスルーなのか?

そこは少し驚いた。



「では、お話は以上です。

今日は家族だけが揃っていただく、久しぶりの団欒です。凄く楽しみだわっ!」



母はいつもの顔に戻っている。

安堵のため息をつき、立ち上がった2人に向かい、声を掛けた。



「そこの2人! 食事後に、お話はゆっくりと……」



この日、ソリス子爵家では、久しぶりに家族全員が揃った、夕食をゆっくり楽しんだ。

来賓への対応の気疲れか、当主と長男だけは、青い顔で食が進まなかったようだが……



後日になって、母と妹が起こした【断罪イベント】は、結果として、兄の命運を救うことになる。


兄や俺を取り巻く陰謀は、今後、王都で蜘蛛の巣のように張り巡らされ、俺たちを陥れようとする者たちは、虎視眈々とその口実を窺っている。



兄も俺も、結果的に母に救われている。

俺たちは、後になってそのことを改めて感じた。

ご覧いただきありがとうございます。


ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。毎回励みになります。

また誤字のご指摘もありがとうございます。

こちらでの御礼で失礼いたします。


これからもどうぞ宜しくお願いいたします。


<追記>

九十話〜まで毎日投稿が継続できました。

このまま年内は継続投稿を目指して頑張りたいと思います。


また感想やご指摘もありがとうございます。

お返事やお礼が追いついていませんが、全て目を通し、改善点など参考にさせていただいております。


日頃の応援や評価いただいたお陰と感謝しています。

今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「お座りっ!」 この台詞が犬に命令しているように感じたけど、子犬に戻り正座とあったので納得。
夜の若き雄は恥ずかし過ぎる それに比べてゴーマン子爵の人となりが泣ける
[気になる点] 芋とかの農作物の進捗率と、食文化があまりフォーカスされてないのが気になる。大豆の栽培の描写は 無かったような。家畜についてもほとんど話がない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ