第九十三話(カイル歴506年:13歳)合同最上位大会⑤ 大会2日目
それぞれ、いろいろな思惑のあった夜は明け、大会も2日目を迎えた。
初日の結果を受け、昨日の大会終了後から多くの人が、勝者投票券を購入するため受付所に並んだ。
今朝も、朝早くから行列ができ、受付終了時間までその行列は続いた。
初日の投票を的中させ、その賞金で更に投票する者もいた。
初日の結果を見た上で、新たな予測の下購入する者も多い。
「やっぱり辺境伯だ。兵士数や領民の数が桁違いだ。今日は勝つに違いない」
「いやいや、キリアス子爵も実際の力は伯爵並みって話だ。今日もいい所まで行くんじゃないか?」
「まぁ、どう転んでも、うちの領地が1位か2位になるのは変わりねぇ。なら確率は四分の一だけど!」
それぞれの思惑で投票券は飛ぶように売れていった。
集計結果は、時間ぎりぎりになっても間に合わず、試合前の発表を、急遽諦めることにした。
そして、第二部、領地対抗戦が始まった。
「やっと集計できました。
駆け込みが多く、時間がかかり申し訳ありません」
少しだけやつれた顔のクレアが報告してきた。
◯第二部 領地対抗戦 <上位二組投票>
【集計結果】
団体戦勝者投票券販売総額 金貨5,000枚
【団体戦オッズ】
一番人気 辺境伯 - ソリス子爵 2倍
二番人気 キリアス子爵 - ソリス子爵 4倍
三番人気 辺境伯 - キリアス子爵 6倍
四番人気 ソリス子爵 - コーネル男爵 8倍
五番人気 ゴーマン子爵 - ソリス子爵 10倍
「みんな結構、昨日の結果に引きずられているなぁ」
そう、団体戦は昨日の選手は出れない。このことが大きなポイントだ。
各領主がどちらに重きを置くか、これを予測することに面白みがある。
「みな、ウチを押さえることはしてるみたいだね。ちょっとだけ安心したよ」
「カーリーンとクリストフが居ますからね。逆に三番人気がああなったのは意外でした」
「まぁ、個人戦の結果を見れば、そこもありと思う人も多かったんじゃないかな?
前評判もかなり良いし」
団体戦はウチから出場の5名のうち、4人は最上位大会での入賞経験者がある。
そこは絶対的な強みだ。
団体戦は総当たり戦の、5人制の勝ち抜き戦だ。
この勝ち数から負け数を引く、この合計で勝負する。
先鋒、次鋒、中堅、副将、大将まで勝ち抜き、大将が負ければそこで終了。
勝てば1点、引き分けは同時敗退で双方0点ずつ、負ければマイナス1点だ。
仮に先鋒一人で、五人抜きし、相手方の大将まで倒せば得点は5点。相手側はマイナス5点。
互いに勝敗を繰り返し、大将同士の対決までもつれれば、最終的に得られる得点は、勝利側が1点、負けた方はマイナス1点となる。
1番強い者を先鋒にし、勝ち点を稼ぐ方法もあるが、4試合、20人と続けて戦うのは、体力的にも、集中力でも厳しくなる。
5人を指揮する者の采配と毎回対戦のオーダーも見所のひとつとなる。
この時ばかりは、俺も指揮官として団体戦に参加している。
「カーリーン、クリストフ、いけるかな?」
「はい、行けます。やらせてください」
「カーリーン、疲れたら俺が代わるさ」
「なら先攻はカーリーンで行こう。思いっきりぶちかましてっ! ウチの力を見せつけてやれ!」
俺は初戦から飛ばすことにした。
ちょっと昨日の結果が残念だったので、今日は思いっきり勝つ方向に舵をきった。
<第一戦>
ソリス子爵 対 コーネル男爵
5連勝 5連敗
キリアス子爵 対 ゴーマン子爵
1勝5敗 5勝1敗
先鋒のカーリーンが全勝してくれた。
彼女の5人抜きは見事で、大歓声に包まれた。
そして、ゴーマン子爵も同じよう勝負を掛けて来た。
<第二戦>
キリアス子爵 対 ソリス子爵
5連敗 5連勝
辺境伯 対 コーネル男爵
3勝5敗 5勝3敗
カーリーンの快進撃は止まらない。
ひとりで10連勝を叩き出し、今回も負けなしだ。
この時点で、キリアス子爵や辺境伯に絡めて賭けていた者は悲鳴をあげた。
優勝はもう絶望的だったから。
<第三戦>
キリアス子爵 対 コーネル男爵
4勝5敗 5勝4敗
辺境伯 対 ゴーマン子爵
5連敗 5連勝
キリアス子爵とコーネル男爵は接戦だった。
それに比べゴーマン子爵は快進撃の5連勝だった。
この時点で、実質ゴーマン子爵とソリス子爵の一騎討ちとなる事が、ほぼ確実となった。
<第4戦>
辺境伯 対 ソリス子爵
5連敗 5連勝
ゴーマン子爵 対 コーネル男爵
5連勝 5連敗
疲れの見えたカーリーンに代わり、クリストフが全勝した。同様にゴーマン子爵組も全勝で終えた。
優勝こそまだ分からないが、投票結果、1位と2位はいずれにしろ、ゴーマン子爵ーソリス子爵で確定。
会場から大きな歓声とため息が起こった。
<第5戦>
辺境伯 対 キリアス子爵
4勝5敗 5勝4敗
今回、最下位決定戦と優勝決定戦の極端な組み合わせになった。その為、同時進行はやめ、1試合ずつ行い、優勝決定戦がフィナーレを飾るようにした。
ゴーマン子爵 対 ソリス子爵
2勝5敗 5勝2敗
此方は、大将をカーリーン、副将をクリストフ、中堅をゲイル、次鋒をゴルドにした。
先鋒は、敢えて相手を混乱させるだけで良い。
総力戦の体制で勝負に出た。
しかし、意外にもゲイルまでで全てが終わった。
ゴーマン子爵側の快進撃を支えた、ひとりの射手は、連戦でかなり疲れていた。
彼は大将として、次鋒のゴルドを破ったものの、中堅のゲイルに惜敗した。
全ての対戦で、圧勝と言って良い結果を残した事で、俺たちは弓箭兵で鳴るソリス子爵軍、その面目を十分に保つことができた。
1位 ソリス子爵
2位 ゴーマン子爵
3位 コーネル男爵
4位 キリアス子爵
5位 ハストブルグ辺境伯
大歓声の中、表彰式と賞金授与が行われ、5名がそれぞれ金貨50枚を、そして5連勝を挙げた3人(ゴーマン子爵領の1名を含む)には、特別賞として、それぞれに金貨50枚が贈られた。
そして、ここに歓喜に湧く3人がいた。
「やりましたわっ! 的中ですわっ!」
「私も、こんなに投票が楽しいなんて!」
「お姉さま方、私もこんな、こんなっ、あぁ、言葉になりませんわっ」
フローラさまとユーカさま、クリシアは大はしゃぎだった。
嬉しそうにそれぞれの父親に報告している。
「お父さま、わたくし個人戦も団体戦も全て的中させましたの」
「そうかっ、それは楽しめたね。で、フローラは何枚勝ったんだね?」
「はい! 418枚です」
「そうか、そうか、それは良かった」
「お父さま、聞いてくださいまし。私もフローラさま、クリシアさまと同様に、個人戦も団体戦も的中させましたっ! 褒めてくださいなっ」
「うむ、ユーカよ、でかした。ユーカは何枚勝ったのだ?」
「私は、324枚ですの」
「うむ、中々であるなっ」
俺は横で此方を見てる視線を感じた。
うん、分かってます。
「クリシア、おめでとうっ! 見事な読みだねっ!」
「はいっ! 私は212枚勝ちましたっ」
待ってましたと、飛び込んで抱きついてきた。
ひとしきり頭を撫でたあと、わざと周りに聞こえる様に言ってやった。
「金貨212枚なんて、凄すぎるよクリシア!」
「んんなっ!」
「なんとっ!」
2人のオジサンは驚愕してそれぞれの娘を見た。
「わたくしも、金貨ですよ」
「お父さま、わたくしもっ」
どうやら、オジサン達は銀貨の枚数とでも、思っていたのだろう。口をパクパクさせている。
っていうか、娘に激甘のお父さま方、お小遣い渡し過ぎです!
フローラさまで、外れ含め、45枚前後、
ユーカさまで、外れ含め、35枚前後、
クリシアは手堅くいったろうから、25枚以下かな?
掛け金だけで、これだけ使うんだから、一体幾ら渡してるんだろうか? それとも彼女たち、勝てると見込んだら、一気に有り金全部突っ込んで来たとか?
後者であれば……、違う意味で恐ろしさを感じる。
そしてもう一つ、娘の成果に驚く2人のオジサン達も、大狸だったことだ。
この人達も、個人戦、団体戦とも当ててるんだよね。
しかも賭け金上限一杯買っていてるのを、俺は知っている。
<ハストブルグ辺境伯>
投資合計額 金貨200枚
個人戦当たり 50枚 → 払戻金貨 300枚
団体戦当たり 50枚 → 払戻金貨 500枚
<ゴーマン子爵>
投資合計額 金貨200枚
個人戦当たり 50枚 → 払戻金貨 300枚
団体戦当たり 100枚 → 払戻金貨1,000枚
にたにた笑う俺に、彼らはこっそりウィンクした。
きっと『言うなよ』、という意味だろうなぁ。
っていうか、この2組の親子だけで、団体戦払い戻し総額の半分以上を持っていくんだから……、本当にえげつない。
こうして2日間の合同最上位大会は終了した。
今回の結果を受け、各領地では更にクロスボウの研鑽を積む事、3年後に再び、合同競技会を行う事を申し合わせて幕を閉じた。
※
最終夜の夕食会では、それぞれの来賓も有意義に過ごせた様で、その満足気な様子に父は上機嫌だった。
「ダレクさま、私も来年は王都の学園に通う予定です。色々不安もあるので、その時はまた仲良くしてくださいね」
「フローラさま、もちろんです! 私どもはハストブルグ家を守る盾。王都へのお越しをお待ちしております」
「タクヒールさま、私、このテイグーンが凄く気に入りましたわっ。
またここに遊びに来ても宜しいでしょうか?」
「ユーカさま、もちろんです!
お隣ですし、いつでも気軽に遊びに来てくださいね。
また美味しいお店などご案内させていただきます」
うん、もう既定路線になりつつあるよね。
ふと、横を見ると、辺境伯とゴーマン子爵、母が此方を見て笑っている。
大狸達に混じって母がっ!
もうこれは既定路線ではなく、確定路線となっていた事を覚悟した。
そしてその夜も、案内人の親子に率いられた【夜の視察団】は、旅立った。
そろそろ……、【般若】が降臨するかも知れない。
あれだけ気をつけて、そう注意したのに。
確信に近い予感をもって、俺は窓から、足早に第三区画へと向かい、闇に消えていく一行を眺めていた。
「さて! 後は明日の対応だけだ。明後日は、久しぶりにゆっくり寝れるかな?
皆んなにも、ゆっくりさせてあげなきゃ」
そう呟いて、仕事に戻った。
ご覧いただきありがとうございます。
ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。
凄く嬉しいです。毎回励みになります。
また誤字のご指摘もありがとうございます。
こちらでの御礼で失礼いたします。
これからもどうぞ宜しくお願いいたします。
<追記>
九十話〜まで毎日投稿が継続できました。
このまま年内は継続投稿を目指して頑張りたいと思います。
また感想やご指摘もありがとうございます。
お返事やお礼が追いついていませんが、全て目を通し、改善点など参考にさせていただいております。
日頃の応援や評価いただいたお陰と感謝しています。
今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。