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第九十二話(カイル歴506年:13歳)合同最上位大会④ 大会1日目

「これより、最上位大会、5領地合同競技会を開催する」


父の開会宣言に満席になった会場からは大きな歓声が上がる。



「この度は、先の戦役にも勝利し、このテイグーンの町も勝利に大きく貢献した。


これを祝うため、ハストブルグ辺境伯、王都騎士団団長ゴウラス伯爵を始めとする、多数の来賓と、各領地で腕を磨いた民と、戦場でも活躍した兵が、ここテイグーンに集った。


皆で改めて、勝利とカイル王国の栄光を祝い、競技を楽しんで欲しい」



父の挨拶も相当気合が入っている。


今回はゴーマン子爵に協力してもらい、音魔法士2人に、魔法でこえを拡大してもらっている。

以前、戦場でゴーマン子爵と話した際、その可能性を提案し、それが可能と回答をもらい手配した。


そして、来賓を代表しハストブルグ辺境伯、ゴウラス伯爵の挨拶が続く。



「それでは、参加選手の入場です! みなさま、大きな拍手をお願いします」



司会の女性の合図で、大きな拍手が起こるなか、全身をマントに包み、深い帽子で素顔を隠した2人が進み出ると、入場通路を挟んで、2列の大きな炎の壁が立ち上る。



「おおっ!」



ひと際歓声が大きくなった。そして炎の壁に挟まれた通路を、参加選手が颯爽と走って入場する。

そう、ちょっとしたオープニング演出、やってみたかったんです。


クレア、クローラには、余計な面倒をかけたけど。

貴賓席を含め、会場全体が驚く演出に、俺はちょっと自己満足に浸った。



そして、2日間の日程で合同最上位競技会が始まった。



◯初日 第一部 個人戦 <順位組投票>


都合42名が、腕を競い合い、一位と二位を決める。



<競技参加者>


・エストール領での定期大会上位入賞者5組30名(赤~白組)

・他領地からの選抜者1組12名(茶組)



「タクヒールさま、投票の最終結果が出ました」



ギリギリ始まる前に、クレアから差し出されたのは驚くべき内容だった。



【集計結果】


個人戦勝者投票券販売総額 金貨5,000枚



【個人戦オッズ】


一番人気 白-赤 4倍

二番人気 赤-白 5倍

三番人気 白-茶 6倍

四番人気 茶-白 8倍

五番人気 赤-茶 9倍



「明日の団体戦は、明日朝まで受け付けしているため、未集計ですが、今日の様子を見て買う人も多いようです」



「そっかぁ、でも、白組がダントツで人気だね」



「白にはリリアとイリナが居ます。特にリリアはテイグーンの町では人気ですし……、兵士の間でも」



そうだった。リリアは去年野盗の襲撃で活躍した立役者だし、従軍した兵士は彼女を知っているから。


そしてカーリーンの活躍以来、【クロスボウ女子】は人気が高い。


同じ意味では、アラルも先の戦いで従軍しており、それは兵士の間では周知の事実だ。

そのためアラルのいる赤組も二番人気となっている。


それにしても茶組が思ったよりも健闘している。



そして大歓声の中、個人戦が開始された。



前半戦の固定目標では、予想外の大接戦、というか、エストール領の大苦戦となった。

前評判通り、白組(リリア:3位)と赤組(アラル:5位)は健闘しているが、茶組の勢いも凄い。



第1位はハストブルグ辺境伯の選手、第2位はキリアス子爵が送り込んだ選手だった。

そしてコーネル子爵領の選手が第4位、ゴーマン子爵領の選手は第8位に食い込んでいた。



自慢の各選手を送り込んできた領主たちは、満足気に成り行きを見守っている。



そして、移動目標の後半戦に移ると、また波乱があった。

リリアが凄まじく追い上げを見せ、逆にアラルはプレッシャーか、目標を外す事が多くなった。



最終的には……


見事リリアが逆転優勝を獲得した。


第一回もそうだったけど、男性はプレッシャーに弱いのか、重要な場面で振るわない、そんな傾向もあるのかも知れない。


逆にイリナは、中間順位から一気に追い上げ、5位にまで上り詰めた。



1位 リリア

2位 ハストブルグ辺境伯選手

3位 キリアス子爵選手

4位 コーネル子爵選手

5位 イリナ



そして各選手にはハストブルグ辺境伯から直々に表彰と賞金が授与された。

今回、各貴族のスポンサーもあり、賞金はいつもより多い。



1位 金貨100枚

2位 金貨60枚

3位 金貨30枚

4位 金貨20枚

5位 金貨10枚



勝者投票券は、3番人気の白-茶、6倍の払い戻しが決まった。



「やりましたわっ!」

「ほんとですねっ!」

「私たちの勝利ですねっ!」



異様にはしゃぐ3人の令嬢たちの姿があった。


彼女たちは密談の結果、白と茶を基軸に3パターンの金貨1枚の投票券をそれぞれ複数口、買っていた。



「予想通りでしたわ。でも本当の勝負は次ですわ」

「手持ちが倍になりました。次は……、ですものねっ」

「わたくし、ちょっと買い足そうかしら?」



ユーカ、クリシア、フローラが意気込みを語る。



横で見ていた俺は、いつもよく見る光景、マウントを取ってから、とことん追い込む、母や妹の姿が目に浮かんだ。



「ちょっと寒気がしたんだけど……」

「兄さん、俺もです……」



二人は恐らく同じ光景が目に浮かんだのだろう。



競技が終わった後、テイグーンの町で、ちょっとした騒動の報告が入った。

受付所で、護衛に囲まれ行列に並ぶ、その場には場違いな、お嬢様が3人居たと……



「お嬢様がた、仰っていただければ私共が代わりに手配いたします。どうか、迎賓館のほうへ……」



付き添った者が必死に押しとどめようと説得する。



「何を言っているのですか! 自分で並んで、自分で選び、買うからこそ楽しいのですよ」



「フローラさまの仰る通りです。私達から、払い戻しを受ける楽しみ、取り上げないでください」



「明日は、どれぐらい投票しましょうか? お姉さまたちと一緒だと、楽しくて仕方ありませんわ」



……お嬢様方に、余計なものも目覚めさせてしまったのではないか、俺は頭を抱えることになった。



「タクヒール卿、今日は存分に楽しませてもらった。娘たちも大いに楽しめたようで重畳だの」



「ありがとうございます。それはなによりです」



晩餐が終わり、サロンで談笑の時に、辺境伯から改めて声をかけられた。



「ゴーマン卿とも良き繋がりができているようでなによりじゃの」



「はい、色々とありがたくご教示いただいているところで」



「何を言う、今も教えを乞うているのは儂の方ではないか」



笑ってたしなめるゴーマン子爵に興味を持ったのか、辺境伯が座に加わる。



「ほう?ゴーマン卿が教えを乞うとは面白い、儂にも話を聞かせてもらえぬか?」



「はい、私は到着以来この町を幾度となく巡りましたが、気になる事に気付きまして、今それを聞いておりました。

この町には、余りにゴミが少ない。また、どの街でも大きな街路では馬糞の類は目につきます。

なのに、それが全くと言ってよい程、無いのです。

そのことに疑問を持ちまして……」



俺は説明した。



・随所にゴミ箱を設け、その利用を徹底していること

・ゴミの回収も、時間を決め毎日行っていること

・この作業は町で働く人足が輪番制で行っていること

・それとは別に、巡回ゴミ拾いを行っていること

・巡回は孤児院の子供たちや町の子供たちが行うこと

・それぞれに手当を払い、意識付けを目的にしている



「なるほど! 

外から来た人足も、自身が回収する立場になれば、否応なしに順応せざるを得ないか!

しかも、子供たちがゴミを拾っているとなると、大人としては無暗に捨てることはできんの。

ゴーマン卿、実に面白い話じゃの、我らが領内でも取り入れるべき、示唆に富んだ話じゃ」



「仰せの通り、戦場に限らず、我らが目のいかぬところ、そんな知恵に溢れているお話です」



「タクヒールよ、儂は其方やダレクが、わが陣営にいて本当に良かったと思うぞ、礼を言う」



「私も、彼がいるお陰で、独りにならずに済んでおります。このような楽しい旅は初めてで……」



「それは其方の気難しさと、その近寄り難い振舞のせいじゃ!」



「仰るとおりですな。私は外でも内でも孤独でした。

唯一、長女のユーカだけが、こんな私にも分け隔てなく接してくれましたが……」



「うむ、こちらに来てからというもの、今までの卿を知る者からすれば、全く別人と思えるの」



3人は和やかに談笑しつつ、夜も更けてきたので散会することとなった。



そして……

この時間になると本領を発揮する者もいた。



「では皆さま、これより私と不肖の倅めが、皆さまをご案内させていただきます」



一行は夜の闇に紛れながら、門をくぐり南街区の最奥へと足早に消えていった。



とある一室。深夜にも関わらず、密議を交わす3人の影があった。



「すまんの、夜遅くに呼び立ててしまって。先ずは其方に話を通しておきたくての」



「滅相もございません。私でお役に立つのであれば……」



「察しておろうが、あの2人の件じゃ。

まぁ、一人の方は良いところも、悪いところも父に似ておる。将としての器は母譲りだがの。

もう一人の方は、実は私でも時折末恐ろしく感じることがある。良い意味で我らの想像を超えておる」



「不肖の者として、お手を煩わせておりますか?」



「いやいや、2人とも将来が楽しみな器じゃ。

そこでお主に相談での。我らはそれぞれの娘をお主の息子たちの妻にと考えておる。

そこで其方の考えも聞きたくての」



「私は当主でもなく、爵位も持たない身ですが?」



「建前上はな。

だが実質は、子爵家の差配は其方の一存であろう? 息子たちの将来について、其方の存念などを聞かせてくれんかの?」



「私が政治に関わるお話をさせていただくのは憚られます、彼らの母として、皆さまにお話してもよろしゅうございますか?」



「ほっほっほっ、それが聞きたくて呼んだのじゃ」



こうして、それぞれの夜は更けていった。

ご覧いただきありがとうございます。


ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。毎回励みになります。

また誤字のご指摘もありがとうございます。

こちらでの御礼で失礼いたします。


これからもどうぞ宜しくお願いいたします。


<追記>

九十話〜まで毎日投稿が継続できました。

このまま年内は継続投稿を目指して頑張りたいと思います。


また感想やご指摘もありがとうございます。

お返事やお礼が追いついていませんが、全て目を通し、改善点など参考にさせていただいております。


日頃の応援や評価いただいたお陰と感謝しています。

今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ママンに任せておけば問題なし 妹は嫁に出さないといけないとしても近場で囲いたいですね 家同士一連托生なところが望ましい
[良い点] 女性は、怖い。 [気になる点] ヒヨリミさんは、どうしているのか? [一言] 毎日、楽しみにしてます。無理せず、更新をボチボチお願いします。 対疫病 どう、展開するか、楽しみにして…
[一言] 蚊帳の外の父親www
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