第七十七話:サザンゲート防衛戦⑨(開戦5日目)冥界からの使者
「」の使用について、ご指摘をいただきました。
教えていただき、誠にありがとうございます。
取り急ぎ、今回から修正をしましたが、既出分については少しずつ対応してまいります。
どうぞよろしくお願いいたします。
日が暮れかかったサザンゲート砦に、早馬が到着した。
「急報っ! 急報っ! ソリス男爵家タクヒール様に至急、お取次ぎ願いますっ!」
使者は直ちに砦内へと通され、今後の対応を協議していた面々が待ち構える部屋に案内される。
「構わぬ、こちらの方々にも報告をお聞かせしろ」
平伏する、闇魔法士ラファールに父が声を掛けた。
その場に居たのは、ハストブルグ辺境伯、キリアス子爵、ゴーマン子爵、ソリス男爵、コーネル男爵、ヴァイス団長、兄ダレク、タクヒールの8名だった。
「はっ、皆さまがたにご報告申し上げます、先ほど西の魔境境界から、敗走してきたグリフォニア軍兵士を確認いたしました。その数約300! 恐らくテイグーン方面よりの敗残兵と思われます」
来たか!
それではきっと……、俺は安堵のため息を漏らした。
「兵は、ほぼ全員が深手を負った負傷兵ばかりです。
更に、後続には彼らを追う、膨大な数の魔物の存在が確認されております。
兵に危険が及ぶため、詳細な数の確認はできておりませんが、相当な数です」
「侵攻軍の一割だと! 戦局はどうなったのだ?」
「敵陣から先、ヒヨリミ子爵領と魔境の境に続く領域は、魔物で溢れかえっております。
テイグーンよりの使者も、おそらく魔物に阻まれ到着しておりません」
ラファールはゴーマン子爵の問いに恐縮して答えた。
「テイグーンが失陥していれば、わざわざ危険な道を通り、負傷兵が戻ってくることはないと思われます」
俺は代わりに答えた。
「確かに、テイグーンの町ならば3,000名程度の侵攻軍、仮に勝利すれば駐留する程度の余裕は十分にあります。彼らは敗走したと断言して良いでしょう」
兄が続いて補足する。
「では……、テイグーンは我らの期待に応え、持ち堪えてくれた、いや、それ以上の戦果を挙げたということか?」
「恐らくは、そのように考えて間違いないと思います」
吉報に破顔したハストブルグ辺境伯に俺は答えた。
「そして奴らは、魔境の畔に住む者の禁忌を犯しました。魔物の大軍勢を引き連れ、敵の陣地に到着しているかと……」
「閣下っ! 我らも急ぎ諸将を集結させ、対応を進める必要があると思われますっ!」
常に冷静沈着、そのキリアス子爵が狼狽して俺の言葉に割り込んだ。
※
緊急事態として、サザンゲートの砦では、主だった貴族たちが招集された。
そして、ハストブルグ辺境伯が彼らの前に進み出た。
「先ほど、サザンゲート平原西側に潜伏させてあった、斥候より報告が入った。
魔境側より西、ソリス男爵領に侵攻した敵軍の別動隊が、多数の兵を失い、負傷者の列が敵本陣に逃げ帰ったと」
「おおっ!」
「なっ!」
俺は、諸将が感嘆のどよめきを発する中、ひとり、思わず違和感のある、驚きの声を発してしまった男を見逃さなかった。
「ここに居る者なら、大量の負傷者を連れ、魔境の畔を通り逃げ帰る、この意味が分かるであろう。
彼らは、やってはならぬ事をやってしまった。
これより我々は、我らが領内に侵入する魔物に対する備えに動く。直ちにだ! 時間の猶予はない」
こうして、この緊急かつ危機的な状況について、対応が指示された。
<方針>
帝国軍が魔境より引き連れた魔物は、サザンゲートを越え、その先にも害を及ぼす可能性がある。
これに対し、急ぎ、近隣の農村や町を守る部隊を派遣することと、サザンゲート平原にて、魔物を食い止める措置をとる必要がある。
物見は急ぎ呼び戻し、代わって完全武装の偵察部隊を配置、魔物の動静を確認しなくてはならない。
隣接する町、村への防衛部隊の派遣
サザンゲート砦の東側と西側に急ぎ防塁を構築
防塁より北側への魔物の侵入を絶対阻止する
夜間は守勢に徹して、陽が昇れば敵陣を強硬偵察し、侵攻軍の状況を確認する。
彼らが、魔物の襲撃で混乱、または目立って兵力を損じている場合、これを機に奇襲を行い、一気に彼らを掃討し、国境の向こう側まで押し返す。
その後、サザンゲート平原一帯で、大規模な魔物掃討作戦を展開、人界に侵入した魔物は全て葬る。
<対応>
この方針に対する対応として、各隊に指示が飛ぶ。
◯近隣の街と村の防衛
「魔物との戦闘経験があり、余力のあるクライツ、ボールド、ヘラルド各男爵が担当せよ。
今すぐ準備を整え、可及的速やかに出立せよ」
「畏まりましたっ!」
3名は担当する町、村が告げられると、直ちにその場を辞し、出立の準備にかかった。
◯偵察部隊
「ヒヨリミ子爵は、完全武装の部隊を分散して各地に派遣、急ぎ物見たちを呼び戻せ。
周りが暗闇になる前に、急ぎ対応を進め、その後は、本日構築した防塁に入り、夜間の警戒を厳重にせよ」
「承知いたしました、では、これより……」
ヒヨリミ子爵も席を立った。
◯防塁構築
「コーネル男爵、地魔法士と共に、大至急防塁を設置せよ。本日築いた防塁の左右に、広大な土壁を展開をさせよ。時間との勝負だ、作りは荒くても構わん。
魔物を一匹たりとも、それより北に通さぬように」
「畏まりました。事は急を要します。ソリス男爵からも、地魔法士をお借りできれば幸いです」
父から了承を得て、コーネル男爵が席を立つ。
◯防塁防衛
「貴族連合軍第一軍は、新たに築く左側の防塁を防衛、第四軍は右側を任せる。
土壁ができるまでは、設営部隊を守り、完成後は警戒と防塁強化を部隊内で交代で実施せよ。
それぞれの連携を怠らぬよう留意して対応せよ。篝火は出し惜しみせず、暗闇を作らぬようにな。
ここより北の安全は、卿らの奮闘に掛かっておる」
「応っ!」
貴族連合軍の第一、第四軍に属する諸将が立ち上がる。
◯奇襲部隊
「それ以外の者は、明朝、夜明けと同時に敵軍への奇襲を準備!
交代で休息をとり、出撃の準備を怠らないように!
恐らくは、これで片が付く。明日は卿らの活躍に期待している」
「応っ!」
残った諸将は皆、緊張と高揚の混じった顔で席を立った。
急遽、だが全力で行われた対応は、魔境の畔に住まう者、魔物による襲撃の恐ろしさを知る者たちの、至極当たり前の対応だった。
魔境の禁忌を知らない、グリフォニア帝国の陣営は、あまりに暢気過ぎた。
※
「先程から不愉快な報告ばかりではないかっ。そもそも奴らはテイグーンなど、最早空き城同様、進めば簡単に落ちると大言壮語しておったではないか!」
無言で平伏する側近に毒づきながら、第一皇子グロリアスは酒杯をあおる。
「夕刻より、砦に立てこもる奴らが、慌てて戦場に防塁を築いているとの報告もあったが、其方たちはどう思うか?」
「……」
「それも分からぬか……」
第一皇子はため息をついて周りを見る。
「恐らく、我々が考えている以上に、敵の騎馬隊は損害を受けているのではないかと思われます。
そのため、こちらの騎馬隊に対処することを目的とした防塁ではないかと」
意を決した一人が、主君の問に答えた。
「では何故、必要以上の篝火を焚いている。我らに行動が丸見えではないか?
これまでも、小賢しい奴らの策に振り回された。そんな見え透いた事を、奴らがやると思うか?」
「……」
「そなた、物見を連れて自身の目で見て参れ! 私が納得する答えが出るまで、帰陣はまかりならん」
「はっ!」
短く答えた側近が困惑しながら天幕を出た。
単に奴の言う通りなら、こちらも対応は簡単だ。
麾下の伯爵共、彼らの率いる騎馬隊を全て徴発し、親衛軍の鉄騎兵、騎馬隊と統合すれば、4,000騎前後にはなる。
敵の騎馬隊は恐らく2,000騎前後、倍の機動戦力で敵軍を蹂躙すれば良い。
使えない伯爵共と残った軍勢は、敵の弓箭兵の矢除けとして使い潰せばよい。
此方の兵力が著しく減ったいま、敵が砦に籠り籠城戦となれば、こちらは決定的な攻め手を欠く。
だが、陣を敷き、戦場に出て来るようなら、此方の騎馬隊は数も練度も優勢で、作戦の執りようもある。
そう考えていた刹那、近隣の味方陣地から悲鳴と混乱した声が上がった。
彼らの陣地には、暗闇の中から、彼らを冥界へと誘う使者が訪れたからだ。
これが、【血塗られた悪夢の夜】の始まりだった。
ご覧いただきありがとうございます。
ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。
凄く嬉しいです。毎回励みになります。
また誤字のご指摘もありがとうございます。
こちらでの御礼で失礼いたします。
これからもどうぞ宜しくお願いいたします。
<追記>
昨日で、初投稿から3ヶ月目に入りました。
全くの初心者で、投稿自体が初めての私が、これまで頑張れたのも、皆さまの応援のお陰と、感謝の気持ちでいっぱいです!
このまま年内は継続投稿を目指して頑張りたいと思います。
今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。