第七十三話:サザンゲート防衛戦⑤(開戦3日目)反撃の狼煙
七十一話より時系列が少し戻ってます。
また、場所もテイグーンからサザンゲートに移ります。
副題に時系列と場所を記載しておりますので、よろしくお願いします。
「皆の者、急遽の招集に応じてもらい感謝する。
これより敵軍に対し、攻勢に出るための再編成と、陣割を行う。先ずは儂の存念を皆に話したい」
各貴族軍の当主及び主要構成員が一堂に会していた。
「各位も既に承知の通り、一部の敵が戦場を迂回、キリアス子爵領とソリス男爵領に進軍を始めた。
だが心配には及ばぬ、両名とも事前に危機を予期し、この事への準備も怠りない。
ここに集まった各位は、目の前の戦闘に集中してもらいたい。キリアス卿、状況を!」
「はい、数的に優位だった敵軍は、その兵力を分散しました。これまで数に押されていた我々にとって、これは好機と言えます。
敵軍は初日の戦闘で3,000名の兵力を失っており、分散した兵力を除くと、現在我々と対峙している兵力はおよそ20,000名と推定されます」
「では、我々の18,000名とほぼ拮抗しますな。やっと出番が来たということですな」
今回、援軍として参加している伯爵が応じる。
「だが我々には圧倒的に不利な点があります。
数的にはほぼ同程度でも、戦闘集団としての戦力差が、隔たり過ぎていることです」
「我々の戦闘力にご不満があると申されるか!」
別の伯爵が激高しかけている。
「そうではござらん。敵にあって我々にないもの。
それは集団としてまとまった兵力です。その違いを言っておるのです」
※
実は前日の夜、父と兄、ヴァイス団長と俺の4人でハストブルグ辺境伯に意見具申を行った。
同席していたのは、キリアス子爵とゴーマン子爵だ。
今、両陣営の集団戦力を比較すると、危機的状況にある。
<第一皇子親衛軍>
鉄騎兵:3,000騎
騎兵 :2,000騎
歩兵 :3,000名
弓箭兵:4,000名
<ゴート辺境伯>
鉄騎兵: 500騎
騎兵 :1,000騎
歩兵 :2,000名
弓箭兵: 500名
この2集団だけ切り取っても、騎兵も歩兵も戦闘集団として突出している。
味方陣営で最大勢力の、ハストブルグ辺境伯でさえ、騎兵は1,200騎しかいないのだから。
サザンゲート殲滅戦で落ち目のゴート辺境伯でさえ、騎下には鉄騎兵を含め1,500騎の機動兵力がある。
この圧倒的不利な状況下でも、戦慣れしていない貴族軍はおそらく、合流(遅参)した汚名返上と、武勲獲得のため積極的に打って出るよう言って来るだろう。
そうなると、ハストブルグ辺境伯は砦を出て対陣せざるを得ない状況に、追い込まれる可能性もある。
それに対して、大胆な軍の再編成を実施する提案を行った。
※
「目下、一番脅威なのは、第一皇子が率いる親衛軍の鉄騎兵3,000騎と騎兵2,000だ。数でも我々を圧倒し、威力は計り知れない。
先日、それより遥かに少数の、ゴート辺境伯の軍に対し、身を以てそれを示した者も居るだろう」
ハストブルグ辺境伯が辺りを睥睨しながら言う。
「では、辺境伯は座してこのまま砦に立てこもり、敵をやり過ごせと仰せかっ」
先ほど激高した伯爵が声を上げた。
「では、同数の兵力を預けるから、この中で第一皇子の親衛軍に相対し、武勲を望む者はおるか?」
辺境伯の問いかけに誰も応えることがなかった。
先ほど激高した伯爵でさえも……
「これより、兵力の再編成を実施する!
それにより指揮系統を一本化、集団として対抗できる軍を作り上げ、しかる後に打って出る!」
一同は静まり返った。
<組織改編>
◯弓箭兵団
キリアス、ゴーマン両子爵、ソリス、コーネル両男爵、第二子弟騎士団の軍勢は弓箭兵団として合流。
◯貴族連合軍
援軍に駆けつけ、現存する約9,000名の貴族軍を4つの集団として、貴族連合軍として再編成する。
◯連合騎馬隊
貴族連合軍から、騎馬部隊を2,000騎を徴発、辺境伯の騎馬隊1,200騎と合流し連合騎馬軍とする。
徴発した騎兵に代わり、辺境伯の歩兵部隊2,000名は各貴族連合軍の指揮下に入る。
◯後衛部隊
ヒヨリミ子爵とクライツ、ボールト、ヘラルド3男爵の軍は、全軍が出陣した後の砦の防衛と、予備兵力として、味方の後衛を担う。
なお、砦の防衛部隊には、第一子弟騎士団も加える。
<編成後兵力>
連合騎馬軍:3,200騎
弓箭兵団 :3,100名
貴族連合軍:2,300名X2、2,200名X2
後衛部隊 :2,400名
この内容が発表された際、騎馬隊を徴発されることになる、貴族連合軍の多くは不満顔であった。
「なお、我が指揮下でも、騎馬隊が上げた武勲は、所属する貴族家の武勲とし、代わりに出した歩兵隊の上げた武勲も、配置した貴族連合軍のものとする」
これで、貴族連合軍は武勲の美味しい所取りだ。
「また戦勝時の論功行賞にて、総指揮官の得られる褒賞は、その半数を全貴族に、此度の出兵数の割合に応じて分配し、残りの半数は連合騎馬軍に参加した騎兵の数に応じ分割する」
「おおっ!」
多くの貴族が思わず声を上げた。
更に、これでは褒賞も美味しい所取りになる。
前回のサザンゲート殲滅戦では、ハストブルグ辺境伯は指揮官論功行賞で2万枚の金貨を王より下賜された。
今回、侵攻軍を撃退できれば、報奨はその比ではないだろう。
これが彼らの意思を賛成側に押し出す結果となった。
俺はこれを聞いてかなり焦った。昨夜の提案で……
「彼らを釣るにはそれなりに餌が必要です」
とは言ったが……
辺境伯は「任せろ」と笑って答えただけだった。
前回の例で換算すれば、辺境伯は本来2万枚の金貨が得られるところ、今回は、僅か5千枚になってしまう。
そして、伯爵クラスでは、武勲がなくても自動的に1,500枚~2,000枚の金貨が手に入ることになる。
これでいいのかなぁ……
そう思ったが、辺境伯も背に腹は代えられない。
今回の戦に対する辺境伯の覚悟が改めて伝わった。
「明日は日の出とともに砦を出立、サザンゲートの平原に陣を構え、敵軍を迎え撃つ」
「応っ!」
目先の報酬で貴族たちの士気はすこぶる高い。
明日の陣割も反対する者なく、すんなり確定した。
<左翼> <中央> <右翼>
騎騎騎騎騎騎騎騎
④④④①①①① ===防壁=== ②②②②③③③
④④ ①① =弓弓弓弓弓弓弓弓= ②② ③③
<左翼>
①④ 貴族連合軍第一軍、第四軍 4,500名
<右翼>
②③ 貴族連合軍第二軍、第三軍 4,500名
<中央>
前衛:連合騎馬軍 3,200騎
後衛:弓箭兵団 3,100名
各貴族連合軍は、4名の伯爵がそれぞれ指揮官となり、その騎下→麾下につく子爵、男爵たちが割り振られた。
その中で各伯爵が主導となり部隊を再編成し、それぞれ集団を作っている。
連合騎馬軍は、ハストブルグ辺境伯が直接指揮し、弓箭兵団は、キリアス子爵が指揮する予定だった。
「なお、弓箭兵団については、兵団の運用に一日の長がある、ソリス男爵に指揮を執ってもらう」
いや……良いんですかっ?
キリアス子爵やコーネル男爵はともかく、ゴーマン子爵は?
あれ? ゴーマン子爵も満足そうに頷いてるし……
「では、これより各隊は準備に掛かれっ! 各部隊内での連携など、事前に詰めておくように!」
辺境伯の言葉で軍議は散開した。
弓箭兵団はキリアス子爵の呼び掛けで、その後も夜遅くまで配置や作戦、伝達手段など、詳細な打ち合わせが行われた。
俺からは、風魔法士の運用、攻撃方法の伝達手段や、騎馬隊(ヴァイス団長)との連携を説明した。
因みに、ヴァイス団長と傭兵団の一部、兄ダレク(及びクランと直属騎兵)は、連合騎馬軍に配属されている。
次の戦いで弓箭兵がいかに活躍できるか、これは2人の力に掛かっているといっても過言ではなかった。
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<追記>
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