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第七十二話:サザンゲート防衛戦④(開戦2日目)戦場で暗躍する者

七十一話より時系列が少し戻ってます。

また、場所もテイグーンからサザンゲートに移ります。


副題に時系列と場所を記載しておりますので、よろしくお願いします。

「馬鹿者っ! 軍令を無視するだけでなく多くの兵を失い、あまつさえ味方に余計な犠牲を出し、窮地に陥れるとは何事かっ!」



ハストブルグ辺境伯の怒号が飛ぶ。



「戦場に不要な従者を連れ、遅参するだけでも論外。けいらは一体何を考えておるっ!

王都に戻り次第、我が職責を以って卿らの罪状を問うものとする。それまで謹慎しておれっ!

なお、今後の戦功に依っては、罪一等減じることも考慮するが、許可なく出陣は固く禁ずる!」



辺境伯は怒り心頭だったが、何とかこの場で平伏する彼らを処断することは思い留まった。

彼らの出自が、この時は彼らを救うこととなった。



「学園であんな馬鹿と一緒に学ぶことになるとは……日頃の兄上のご苦労が偲ばれます」



俺は小声でこっそり呟いた。



「お前も15歳になったら俺の仲間入りさ……」


兄の返答に、俺は明るくない未来に身を震わせた。



「ワタシハ、ガクエンニハ、イキタクナイデス」


俺は更に小さく呟いた。



ゴート辺境伯が、所定の目的を達し軍を引いたため、それまで砦に入場せず、待機していた援軍が続々と入場してきた。


結局新たに援軍として加わった戦力は合計9,150名と第一子弟騎士団の1,200名になった。



4伯爵軍:5,000名(出陣時 5,000名)

8子爵軍:2,800名(出陣時 3,200名)

9男爵軍:1,350名(出陣時 1,800名)



「敵は別動隊を出しても20,000名、こちらは援軍を全て足してやっと約18,000名、この差は大きいなぁ」



俺もぼやくしかなかった。



「魔法士で必殺技とかないのかい?」


「兄さん、それがあったら……悩みませんよ」



「そっか、てっきりお前のことだから、何か秘策でもあるのかと思っていたよ」


「今できることといえば、大胆な兵力の再編ぐらいだと思います。味方はバラバラ過ぎますから」



「そうだな、今できることといえば……」


「ええ、それで……」



「そうすると、編成はこうか? ……」


「はい、そうすれば……」



二人の作戦会議は続き、それは後に、ハストブルグ辺境伯にも意見具申として提出されることになった。



サザンゲートの砦の一角、この広間に謹慎を申し付けられた第一子弟騎士団を率いる者たちが集っていた。



「我らがこの様な辱めを受けるとは、我慢ならん」


「勝敗は兵家の常と言うではないか、これでは汚名返上の機会も無いではないか」


「それよりも、蕪男爵をはじめ第二子弟騎士団の平民どもが武勲を挙げているのは耐え難い屈辱だ」



暗い燭台が僅かな光を灯す一室。そこに彼らは集まっては、口々に身勝手な不満を漏らしていた。

謹慎している筈の、第一子弟騎士団の面々は、自らの置かれた立場も忘れ盃をあおり続ける。



「あ奴に目にものを見せてやることはできないのか」


「……」


「お話中失礼します。私からご提案させていただきたい事がございます」



どこから現れたのか、暗闇からぼんやり浮かぶ人影が彼らの前に進み出た。



「何だ、名案でもあるのか?」


彼らの一人が尊大に応じた。



「ここは戦場でございます。矢は敵から、前から飛んでくるとは限りません」


「ほう、続けよ、だが誇り高き我らの意に添わなければ、そなたの立場はないと心得よ」



「我らから見れば、辺境の子爵家など、吹けば飛ぶようなもの。それを心得ての発言と覚悟しろよ」


別の1人も追随する。


「もちろん心得ております。先ずは我が配下より入手した情報からお話させていただきます」



不平を言っていた第一子弟騎士団の面々は、段々と目がうつろになっていく。

だが、それを自覚している者は誰もいない。



「そもそもソリス男爵家は敵軍、ゴート辺境伯から並々ならぬ敵意を持たれております。そして、その矛先は男爵よりも嫡男ダレクに向いております」



彼は危険とも思える、常軌を逸した提案を披露する。



「この際です。彼を前線に引き出し、囮となってもらいましょう。


光魔法を使わせ、敵軍にその存在を知らしめれば、ゴート辺境伯軍が殺到するでしょう。

彼らは積年の恨みで、死兵となって彼一人を襲うことと思います。


所詮、奴一人が奮戦しても敵いません。大地にその骸を晒し、二度とお手を煩わすこともないでしょう」



「だが、奴をどうやって誘い出す?」



「配下の情報によりますと、間もなく軍の再編成が行われ、あ奴めは騎兵部隊として前線に出ます。


機を見て第一子弟騎士団が出陣し、窮地に陥ったと奴が思えば、必ず救援に来るでしょう。

共同して反撃、そう思わせて我々は兵を下げます。奴の始末は敵兵が嬉々として行うことでしょう。

そして、敵が本懐を遂げたと安堵した隙に、皆様は反転し攻勢に転じていただきます。


最終的に、味方の騎士の仇を見事に討った栄誉は……、栄えある第一子弟騎士団のものとなります」



「なるほど、我々も本懐を遂げるためには、自らも前線で囮として晒すと、そういうことだな?」


「仰る通りでございます」



「だが、奴が救援に来なかった場合はどうなる?」


「そうだ、我らがみすみす敵の餌になるではないか」



幾人からは、彼の作戦に疑問の声もあがった。

それに対し、薄気味悪い笑みで提案者は応じる。



「救援に来なければ、奴は味方の窮地に対し、何もできなかった卑怯者、そのそしりを受けましょう。

それに、皆さまのお力であれば、王都が誇る精鋭1,200騎が油断なく、正面から戦えば、多少の窮地など簡単に抜け出せるのではありませんか?」



「ふん、あまり上策とは言えんが、奴を陥れ、かつ我々の栄誉を取り戻すとなれば、多少の危険も必要ということか」



「我らが団結して当たれば、難しくもないでしょう」


「王家の正当な貴族、我々に栄光を!」



彼らは虚ろになった目で、不思議な熱気をもって危険な提案を受け入れた。

本来の彼らであれば、一笑に付す、そんな提案にも関わらず。



「みなさまのご賢察、誠にありがとうございます」



暫くのち、サザンゲートの砦の一室、先程とは変わり、小さく、薄暗い部屋には2人の人影があり、声を潜めて言葉を交わしていた。



「どうじゃ? 首尾のほどは?」


「虚栄心に凝り固まり、己の力量も知らぬ馬鹿共です。自分達が餌と分かっていながら、私の暗示まほうに簡単に乗って来ました」



「餌となって共倒れして貰えれば重畳じゃ。無謀な戦で彼らが死ねば、その責は辺境伯にも及ぶ」


「辺境伯は王国にとって国境の要石です。今回で排除できればそれに越したことはないかと……」



「まぁ、どう転んだとしても、我々や彼方あちらの方々の利になることに変わりないな。所であ奴はどうしておる?」


「一室に監禁しております。第一子弟騎士団の奴らも、私を完全にあ奴と思い込んでおりました」



「ほう、貴様も闇魔法あんじの腕を上げた様じゃな。あ奴め、勝手な行動で余計な手間をかけさせおって」


「はい、学園で大人しくしておれば良いものを……」



「それにしても、子弟騎士団結成や、此度の軍令無視、其方が王都まで潜入し、奴らへ仕掛けた闇魔法あんじの成果は上々じゃの?」


「はい、自尊心だけは高く、中身が伴わない輩です。他者を貶め、虚栄心を刺激するよう誘導すれば、たわいもないことで……」



「そうだな、さて、儂の方で、辺境伯には手を打っておくとするか。奴らが暴走しやすいように、辺境伯から言質を取っておくとしよう」


「では、私の方は機を見て、奴らの尻を叩き……暴発させると致しましょう」



「所で、彼方テイグーンの報告も、そろそろ届くころではないか?」


「おそらく……、明日あたりに、町は奇襲を受け、攻め滅ぼされることとなりましょう」



「では吉報は明後日、またはその翌日あたりか? 忌まわしい小僧が狼狽する姿も、一興じゃの」


「はい、それまでに……、もう一人の小僧も済ませておきませんと」



「そうだな、やっと永きに渡る我らが本懐も間もなく叶う。

この王国に引導を渡す、終わりの始まりがな」



2人は暗闇の中、低く笑うと部屋を出た。

サザンゲート砦の夜は更け、あたりを再び静寂が包み込む。

ご覧いただきありがとうございます。

ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。毎回励みになります。

また誤字のご指摘もありがとうございます。

こちらでの御礼で失礼いたします。


これからもどうぞ宜しくお願いいたします。


<追記>

七十話~まで毎日投稿が継続できました。

このまま年内は継続投稿を目指して頑張りたいと思います。


日頃の応援や評価いただいたお陰と感謝しています。

今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
やっぱ阿呆の扱いはこうなるのか。見殺しにしておけば良かったものをよ
こういう展開ってなんで味方陣営には敵の間者がいて敵には送ってないんだろ 敵だけ変に情報持ってたりするし
[良い点] マジでイケメン家宰が一軍に一人いるな
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