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第五十九話(カイル歴506年:13歳)子弟騎士団創設

2022/12/1更新

登場人物名が被ってしまっている事を教えていただきました。

公開済のお話でもこの先、両者が登場するので、少しだけ名前を変更しています。

お知らせいただきありがとうございました。

「貴族って、本当に度し難いどうしようもない奴ら、そういう奴らを指す言葉なんですね……」


クランがこぼした愚痴にダレクは苦笑して答えた。



「僕もどうしようもない貴族の一人なんだけどね……」



「いえ、ダレクさまはあいつらとは全く違いますよ。奴らは、血統で何でもできると思ってるんですから」



そう、先ほど王都の学園で起こった出来事にクランは憤慨しているのだ。



「いよいよグリフォニア帝国が攻めてくるらしいぞ」


「国境の辺境伯は、迎撃の準備を進めているそうだ」


「前回負けた奴らは、次は数で押し切る作戦らしい」



王都の貴族でも辺境の情勢に精通しているものがおり、その一端を聞きかじった子弟たちの間では、秘匿情報が公然の秘密として囁かれていた。



「な~に、前回はあれだけ醜態を晒したんだ。数倍の兵力で攻めてきても恥の上塗りだけさ」


「辺境の蕪男爵にしてやられるような奴らだ。由緒ある貴族である我々の相手にもならんわ」



「その蕪男爵の長男も、運の良いことだ。蛮族の弱兵相手に武勲を上げて、既に準男爵様よ」


「私も武勲を上げる機会に恵まれたいものですな」



「そうだな、彼らの幸運にあやかりたいものだ」


「私たちなら、それに倍する戦果を上げられたものを」



戦を知らず、貴族の身分だけを矜持にしている彼らの会話は、程度が低過ぎて子供の妄想話にもならない。


そう思って、ダレクは学園内でも彼らと交わることをせず、意識的に距離を置いて、超然としていた。



ところがある日、彼らがとんでもないことを言い出した。



「我らも王国を支える貴族の子弟、この難局に対し、出陣して王国貴族の有様を示す時ではないか」


「賛成だ、辺境の田舎貴族とは違う、王国を支える真の貴族の有様を、見せてやるべきですな」


「武勲や恩賞は選ばれた我々にこそ、遣わされるべきものだ。

我々の武威を示せば南方の蛮族など、再び侵攻する気にもならないだろう」



もはや蛮勇としか言いようがない。


雄弁を振るう彼らだが、自身が実際に戦場で戦う事など想定していない。後ろに隠れているだけだ。

戦いとは配下が行うもの、配下が命を懸けて得た戦果を手にするだけ、それが当然と思っている。



学園で過ごして1年、剣技では学園一、いやすでに【剣聖】の階位にある兄は、王国全土でも比類なきもの、そう呼ばれ称賛されている。


そんなダレクも、彼らにとっては前線で戦う、使い捨てに近い手駒、そんな程度の認識しかない。


貴族の生徒達からは人気のないダレクだが、平民や騎士爵、準男爵などの準貴族家系の生徒達からは、人気があり、尊敬され慕われていた。


その事自体、貴族家系の子弟からすれば面白くない。


人望、能力(剣技・用兵)、実績(武勲)、どれを取っても、彼らには無いものをダレクは持っている。



「男爵といっても所詮辺境の成り上がり、自らも先頭に立ち、見苦しく戦うのが似合いというものよ」


「どうだろう、我ら貴族子弟で子弟騎士団を結成し、此度の戦、出陣を陛下に願い出るというのは?」


「それは面白い! 我ら門閥貴族が中心になって声を掛ければ、賛同、参加する者も多かろう」


「今回は我らが武勲を上げ、本物の貴族とは如何なるものか、正しき者の姿を民にも見せてやるべきだ」



高位な立場にある貴族の子弟で、無謀な提案が議論されていることなど、ダレクは知る由もなかった。



そしてこの無謀な提案は……


『若者たちの心意気やよしっ!』


と意気上がる門閥貴族を通じて、国王に上奏され設立と出征の認可が下りてしまう。

王都の騎士団長や実戦を知る貴族たちは、この事を知り、頭を抱えてこの対応を悩んだという。



「自領をも巻き込む大戦が起こる中、王都でご遊学とは、蕪男爵のご子息は優雅なものですな」



「これはヒヨリミ子爵家のエロール様、先年はテイグーンにて弟がお世話になりました」



ここでダレクも大人気ないとは思いつつ、正面から言い返す決断をした。



「私はてっきり王都に滞在と思っておりましたが


ある時は魔境のほとりで盗賊団の殲滅任務

ある時は隣領の窮地に手勢を率いて駆け付け

ある時は王都の学舎にて学生として貴族の範を垂れ


まさに八面六臂のご活躍、と感嘆しておりました」



エロールは昨年かいた大恥を思い出したのか、怒りで顔を赤くしていた。



「エロール様の御心配には及びません。

私もソリス男爵軍の一員として、間も無くサザンゲートに駆けつける予定です」



「ふん、今度は敵も大軍、しかも籠城戦では小細工する余裕もなかろう、せいぜい頑張るが良い」



「エロール様はこのままご遊学ですか?」



「私はこの度、王国貴族の子弟で結成された、栄えある子弟騎士団の一員として戦場に赴く予定だ。その煌びやかさだけでも、目を奪われるような軍団となろう、まさに私の初陣に相応しい」



「そうですか、それでは次は戦場でお会いする事になりそうですね。ご健勝をお祈りいたします」



「彼奴ら馬鹿か、いや馬鹿とは分かっていた、が、それしにても、度し難い」



エロールの前から立ち去った彼は独り溜息をついた。



どうやら子弟騎士団結成の件、クランも噂を聞きつけてきたらしい。それが思わず、貴族を侮辱するとも取られかねない暴言につながったようだ。


まぁ彼は真実を言っただけではあるが……



「クラン、我々もそろそろエストール領に向けて出発しよう。

今頃父も兵の招集に掛かっていると思う」



「承知いたしました。ただ、学園長からダレクさまに急ぎ来るように、との呼び出しが来ております、如何いたしますか?」



一抹の不安を感じつつ、ダレクは慌てて学園長のもとに向かった。



「よく来た、ソリス・フォン・ダレク準男爵」



そこには、学園長のクライン・フォン・クラウス公爵と王都騎士団長ゴウラス・フォン・ウィリアム伯爵がいた。



「まぁ掛けたまえ、ここには君と、我ら2人しかおらん、今日は君の本心を聞きたくてな」



ダレクは何故ここに王都騎士団団長が?といぶかしみながらも、勧められた席についた。



「子弟騎士団の件は聞いているかね?」



神妙にうなずくダレクに対し、学園長は続けた。



「全くもって、若者の暴挙に乗ってしまう大人も度し難いが……、彼らが出征するとどうなると思うかね」



「実際にグリフォニア帝国の将兵と戦った君の思う所を忌憚なく話して欲しい」



王都騎士団長もそれに言葉を重ねた。



「無礼を承知で申し上げますが、グリフォニア帝国の将兵は強敵です。我々が勝てたのは敵が我らを侮っていたこと、策がはまったこと、それだけです。同じ策は二度と使えないでしょう



戦を知らぬ貴族の子弟たちが暴走すれば、初陣で彼らは最初で最後の経験を積むことになるでしょう」



「つまり戦って敗れ、命を散らすか……」



「はい、騎士団長の仰る通りです。彼らは戦の経験もありません。また敵を弱兵と侮っています。統制も効かず武功を焦り猪突することは目に見えています」



「学園長……、我々と見解は同じようだな」



「ですな、度し難い者達ではあるが、あたら若者が無為に命を散らすのも見捨てておけぬ」



「それよりも、彼らが引き金となって戦線崩壊を招く可能性もある。それだけは看過できぬ」



「今回の戦いに王都騎士団は参加しないのですか?」



ダレクの質問に校長から予想外の回答が返ってきた。



「王都騎士団は別方面の危機に備え、そちらに向かっている。

ハストブルグ辺境伯麾下には、南方に領地を持つ伯爵以下の貴族が入ることになるかの。


現在カイル王国には紛争中の国境が2か所あるのは知っておろう?

南と東の国境が現在最前線として緊張状態にあるが、南は辺境伯ハストブルグと麾下の活躍で守り切っている。


だが、東側のイストリア皇王国との国境線が危険な状態での。情報は封鎖されているが東側国境では既に敗戦し守備する辺境伯ハミッシュの軍は大きな痛手を被っておるんじゃ。


そのため、次に侵攻があれは持ち堪える事は不可能と見ている」



騎士団長も苦々しく答えた。


「どうやら、グリフォニア帝国とイストリア皇王国が裏で通じているらしくてね。

我々も、時を合わせて再侵攻してくる可能性が高い、という情報を掴んでいる。


片や、ハミッシュ辺境伯は敗戦の痛手から立ち直っておらん。そのため、次に侵攻があればたちまち敗北し、この王都まで侵攻を許すことになるだろう。

王都騎士団としては、それは看過できん事態だ。なので王都騎士団全軍で東の国境へ向かう」


そこでだ」



「状況は承知しました。そこで、私に何か?」



「そのため君には、第二子弟騎士団を率いて欲しい」



「騎士団長とも話し、お主なら適任と思うてな」



2人は長い前置きののち、本題に踏み込んできた。



「え? 第二? 子弟騎士団とは一体……?」



学園長が補足した。



「今回の門閥貴族子弟の動きに釣られ、準男爵や騎士爵、一部平民の子弟まで子弟騎士団に参加を求めてきておる」



「そこで隊を2つに分割し、準貴族と平民からなる部隊を独立させ、第二子弟騎士団とした。

無用の混乱を防ぐためにな」



「無礼を承知で申し上げます。

南部貴族の寄せ集め混成軍に、戦を舐めきった、戦いも知らない、第一子弟騎士団、第二子弟騎士団で何ができるでしょう?」



ダレクは一旦言葉を切り、思いのたけをぶつける。



「王都の方々は、本当に、南を守りたいとお考えですか? 私には全くそうは思えません。

正直これでは援軍にすらならないと思います。

特に、第二子弟騎士団には、戦場で盾になって死ねと、そして、それを率いろと仰るのですか?」



ダレクは怒っていた。

勿論無茶な命令だ。言ってる方もそれを承知しているのだから、余計に腹が立つ。



「我々としては、君の実家にも大いに期待していてね。男爵家に似合わぬ数の魔法士を集め、日々訓練に余念がないと聞いている」



「大量の魔法士を実戦投入、これは王国でも、耳目を集める快挙となろう、事が公になるとすればな……」



騎士団長、学園長の含みのある言葉に、ダレクは彼らの意図を悟った。



『タクヒールの奴、魔法士の件、王都にまで筒抜けじゃん。ちょっと自重しろよっ!』


とダレクは心の中で叫んだ。



「私に拒否する権利は無いようですね……、危機の際には第二子弟騎士団の安全を最優先する、これをお認めいただけるなら、お話を伺います」



「ハストブルグ辺境伯麾下のキリアス子爵は、もともとは王都騎士団所属で私の部下だ。彼にも文を送り事情は説明しておく。

なに、第一子弟騎士団の連中は最前線で戦う器量などない、せいぜい敗走する敵の背を討つ程度だろう」



そんな甘くはない。彼らは必ず暴発する。

そして、味方は彼らに引きずられ、混乱することになるだろう。


彼らと心中などもっての他だ。

ダレクはそう思ったが、言葉にせず黙って頷いた。



「では、第二子弟騎士団は、第一子弟騎士団とは、『完全な別部隊』として、『個別に行動する』こと、それぞれの部隊の安全を最優先すること、をお認めいただいた、そう考えて宜しいですね?」



「ああ、それで差し支え無い」



「仮に、第二子弟騎士団が、独断専行により壊滅しても、第一子弟騎士団は責を負わないものとする、『その逆も然り』、その点を補足し、先の3点を記載した命令書をいただきたく思います」



「ふふふ、兄弟揃って……、聞いてた以上に優秀じゃな、重畳なことだわ。

騎士団長、それぐらいは、問題なかろう?」



「……、確かに、命令書の件は承知した」

ご覧いただきありがとうございます。

ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。毎回励みになります。

また誤字のご指摘もありがとうございます。

こちらでの御礼で失礼いたします。


これからもどうぞ宜しくお願いいたします。


<追記>

日々投稿も一か月継続できました。

無事50話まで進めたのも、応援いただいたお陰と感謝しています。

これからも感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
王族や中央貴族は無能しかいないのか。まさにこの親にしてこの子ありやわ。
その意気や良しって、王族も都貴族子弟レベルのお花畑な絶望感
[気になる点] ダレクと呼んだり兄と呼んだり・・・w ごちゃごちゃ使い分けてる意図がよくわからない。 誤字にしては多すぎますし。 兄と表記すると主人公視点のナレーションに見えるからやめた方が良いと思い…
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