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第五十七話(カイル歴506年:13歳)残留部隊

テイグーンにも春が来た。


雪解け水が山の頂から流れ、西側の平原にも幾多の小さな流れがそそぎ込み、大地を潤す。

堀にも少しずつ水が溜まりだした。


日々厳しい訓練を行なっている魔法士たちも、訓練地で春の訪れを感じる余裕も出てきた。


これまで訓練の推移を見ていたが、かねてからヴァイス団長とは協議していた、予想される次回の戦役に対する、魔法士の役割分担を発表した。


だがこの発表は色々波紋を呼んだ。

俺と共に参陣する者と、テイグーンを守る残留組に分けたのだが、残留組から色々不満が出た。



「なぜ私をご一緒させてくださらないのですか?」


魔法士全員を一堂に集めた会議で発表を行ったあと、クレアが詰め寄ってきた。



「うん、クレアならそう言ってくれると思ってた。ありがとう。この後個別の話をするから、その時に理由を伝えるので、ちょっとだけ待っててね」



クレアをなだめながら、会議は一旦散会とし、個別の打ち合わせに入った。



先ずはクリストフだ。

彼も残留組と言われ、物凄く不満な顔をしていたひとりだ。


個別会議の席には、俺、ミザリーさん、アン、傭兵団からはヴァイス団長、2人いる副団長のひとりキーラ副団長が同席している。


因みにキーラ副団長は女性ながら剣は剣豪レベルで拠点防御戦を得意とする双頭の鷹傭兵団でも若いが傑出した存在だ。



「クリストフ、今回の割り振り、なぜ君を敢えて残留組にし、防御を担ってもらうか分かるかな?」



ずっと不満げな表情のクリストフに説明した。

それは以前にヴァイスさんに説明したことと同じだ。



「クリストフには今回、関門防衛指揮官を任せたい。その理由はたくさんあるけど、全部伝えるね。


魔法士の中でヴァイス団長に用兵を学んでいること、近隣の地形、特に関門付近の地形に通じていること、関門工事にも携わり運用に非常に精通していること、最古参で各魔法士の魔法や特性を理解していること、いっぱいでしょ?


こんな理由で、自警団を率いるのはクリストフが妥当と考えているんだ。

風魔法士の特性をいかして、弓箭兵の運用を任せたいし、最上位チャンピオン大会優勝の経歴も士気の向上に効果的だと考えている」



ここまで説明して、クリストフの表情は少し変わった。



「でも、最も大きな理由は他にあるんだよね。


敵軍の一部がヒヨリミ子爵領と魔境の間を抜けてくる可能性が高いことなんだ。だから守りの要として、俺が信頼する者にテイグーン関門、防御指揮官の任を引き受けてもらいたい。


傭兵団からはキーラ副団長が参謀として、クリストフを補佐するよう話はできている」



「なーに、3,000人程度の敵なら簡単に撃退できる算段はありますよ。今の君なら指揮も問題ない」



ヴァイス団長が補足してくれた。



「微力ながら、謹んで拝命いたします。私が浅はかでした。申し訳ありません。

テイグーンと皆は身命にかけてお守りいたします」



納得した顔でクリストフは一礼した。


その後、全員で対策や対応を協議し、予算は使用して良いので準備を進めるよう依頼した。



「クレア、待たせてごめんね」



泣いた跡の様子が残るクレアの顔を見たとき、かなり心が痛んだ。



「クレア、俺は今でも覚えているよ。魔法士みんなに戦場に行けるか?と質問した時に真っ先に手を挙げて応えてくれた日のことを。凄く嬉しかった」



「では何故今回私をお連れいただけないのですか? 私ではお役に立てませんか?」



「今回の敵はおそらく以前と比較にならない大軍だ。


翻って我々は王都から援軍が来るまでは数的に劣勢、サザンゲートの砦にて籠城することになる。

そうすると敵軍の一部を迂回させて魔境側からテイグーンに攻めてくる可能性が高いと考えている。


前回の例からもヒヨリミ子爵は全く信用できない」



この時点でもクレアの表情は晴れない。



「クレアは魔法士のなかで最も俺を理解してくれていると思っている。

だからこそクレアに頼みたいんだ。


関門の防御指揮はクリストフに任せる事にしたけど、用兵面では彼の能力と采配に不安はない。

ただ、軍事以外は彼の得意とすることではないので、防衛戦全体を俯瞰して見れる参謀クレアが必要となると考えているんだ。


防衛総指揮官のミザリーさんにも参謀クレアが必要だと思う。

彼女は軍事は門外漢で、特に魔法士の戦闘に疎いため、戦局に応じ2人に意見できるのはクレアしかいないと思う。


時には2人を支え、時には2人の尻を叩き、2人の間に立ちうまく連携するよう補佐して欲しい。

予想外の事態には、俺ならきっとこうするはず、そう考え、クレアなら対処できると信頼している。

全ての責任は俺が取るので気負わずにいて欲しい」



話すうちに、クレアの表情が変わって来たので、少し安心して続けた。



「テイグーンは俺が心血を注ぎ、皆と一緒に作り上げた町、いわば俺の分身だ。

クレアには俺の分身を守って欲しいんだ」



「確かに承りました。私にとってもテイグーンは我が身も同然。

何としても、もう一人のタクヒールさまをお守りいたします」



入って来た時とは打って変わった、晴れやかな笑顔でクレアは微笑んだ。



同じく、残留組で不満顔だったエラン、メアリー、ローザにも、それぞれ理由を説明した。



きちんと理由と俺の思惑を伝えると、皆、納得してくれた。

特にエランは関門防御戦で要となる。

エランとメアリーがいるから、強固な防御陣地を作れるし、維持や活用が可能になる。



その後も、出征予定者、留守部隊予定者の全てと面談し、意思確認と状況の説明、担務の依頼を行った。


面談の最中、早速クレアが中心となって、風魔法士(クリストフ、カーリーン)、地魔法士(エラン、メアリー)、水魔法士(サシャ、アイラ)、火魔法士(クレア、クローラ)などと防衛戦術の議論や、準備依頼などを行っていた。


彼女が本気になってくれれば、もう一安心だ。



「でも今回、リリアとマリアンヌを連れていかれるのは驚きました」


ミザリーさんの言葉にヴァイス団長が応じた。



「2人とも肝が据わっている、訓練を見ていて傭兵団に欲しいと思ったぐらいです」



元々リリアは商品取引所で囲っていた魔法士の候補者だった。テイグーン騒乱時に彼女は、侵入した賊を率先して討ち取った功績もある。7人の賊のうち、彼女は一人で3人を討ち取った。



元々施療院出身のマリアンヌも負傷者の処置には慣れている。テイグーン騒乱の時には、盗賊団に重傷を負わされた、商品取引所の警備兵や駐留軍の兵士に対し、治療にあたっていた。


普通なら目を背けたくなるような負傷を負った彼らに対し、当時、聖魔法士として治療に当たったローザに的確な指示を出し、結果、彼らの命を救っている。



今回はこの実績を買って、女性ながらこの2人を出征メンバーに入れていた。



「クレアが納得してくれて良かったです。彼女ならミザリーさんの補佐も十分こなせるし、盗賊団との実戦も経験してます。クリストフの尻も上手く叩いてくれると思いますよ」



ヴァイス団長の評価も俺と等しかった。


全ての打ち合わせが終わり、会議室を出る際、クレアたちはまだ残って協議を進めていた。

早速翌日にはクリストフの名で、魔境側の隘路、関門に関わる箇所への工事申請と関門防衛用具の追加購入希望が提出されていた。



「うわぁ、エグいなぁ。これ」



攻めて来る敵に思わず同情してしまいそうな、作戦と罠だった。

俺は最優先で認可決裁を行い対応を進めてもらった。


まだまだ準備することはあるけど、体制は整った。

月日の流れるのは思ったよりも早い。


新たな追加工事はすぐさま地魔法士たちによって密かに行われ、他のものは訓練にも余念がない。



季節は夏に変わっており、もう猶予はほとんどない。

ご覧いただきありがとうございます。

ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。毎回励みになります。

また誤字のご指摘もありがとうございます。

こちらでの御礼で失礼いたします。


これからもどうぞ宜しくお願いいたします。


<追記>

日々投稿も一か月継続できました。

無事50話まで進めたのも、応援いただいたお陰と感謝しています。

これからも感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

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