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第五十話(カイル歴505年:12歳)テイグーン争乱:暗躍

「一旦町中まで引けっ! 数は俺達の方が多いんだっ」


盗賊たちは、町の中心方向に逃げようとするが、行く手を火の壁が遮る。

合間を縫って抜け出た者には容赦なく矢が飛来する。



やっとの思いで火と矢を振り切った時には、盗賊たちは2割ほどの人数を失っていた。



「裏通りに逃げ込めっ」



中央広場近くまで逃げ伸びて、この先の民を蹴散らして退路を確保する予定だった。


しかし、兵は殆ど居ない筈の前方から、予想外の矢の雨が降り注ぐ。集団で道に沿って逃げていた盗賊たちは、逃げ場もなく、矢を受けて倒れるものも多い。


予想外の人数で前方から迎撃に駆けつけてくる集団を見て盗賊たちは狼狽した。


彼らは慌てて方向を転じ裏通りへ走り出したが、まともに付いて来ている者は既に当初の半数もいない。



「それにしても、中央広場から来る奴ら、50人やそこらの人数じゃありませんぜ」



町に駐留する警備の兵、傭兵団の人数を合計してもせいぜい50人だ。

駐屯兵詰め所や領主館分館には居たのは20名ほど。


そのため、残りの30名程度を打ち倒せば、町の正門まで逃げ出せると思っていた。



実際に中央広場から彼らの迎撃にでた兵士は傭兵団を含め20名程度だった。


ただ、エストール領には射的大会でクロスボウの腕を磨いたものがそこら中にいる。

多くの住民も娯楽として練習場を利用している。


また、定期的に魔物襲撃の避難訓練、防衛訓練などを実施しており、町の住民に大きな混乱はなかった。


一部の住民達は、防衛訓練の流れ通り、射的場からクロスボウと矢を受け取り、中央広場で配置についた。



「せっかく苦労して築きあげた俺たちの町を」


「祭りの邪魔をしやがって、無粋な奴等め!」


「領主さまのために」



祭りを邪魔された領民達の怒りも凄まじかった。


領主館分館の方向から、中央広場に向かって逃げ来る盗賊を迎え撃つ兵士たちの背後には、100名近くのクロスボウを持った、即席の弓箭部隊が追随していた。


そして、兵士の号令に従い一斉に矢を放った。


盗賊達は多勢に無勢、立場を逆転し、追い立てられる側となり、順次捕縛されていく事になる。



「役に立たん奴らだ」


「せっかく良い獲物に誘導してやったのにこの様な醜態を晒すとは」



「せめて領主館だけでも焼き陥せれば良いものを」


前回さくねんは煮え湯を飲まされたのだ、今回こそ本懐を成し遂げねば我らの立つ瀬がない」



盗賊団の討ち取られていく様子を陰で眺めつつ、毒づく一団が居た。

そう彼らは昨年、エストの街を盗賊や元農民をそそのかし、襲撃させた張本人たちだ。



「このままではエロール様に顔向けできん」


「わが領の困窮を尻目に、我が世の春を謳歌するこの地に、裁きの鉄槌を」



「今は町全体が混乱し、戦えるものは皆奴らが引き付けてくれている、この機に手薄な商品取引所を我らで襲撃するか?」


「罪は奴らが全て被ってくれることだしな」



「我ら七名で襲えば成果も上がるだろう」


そう言うと彼らの姿は暗闇に消えていった。



公営の商品取引所は、夜間も臨時で営業していた。


今のところ、領民の食糧や生活必需品の多くはバルトがフランの町からテイグーンに輸送している。


ここでは、領民が個人で購入したり、商人や飲食店が仕入れを行ったりしている。


まとめ買いで大口購入すれば割引が受けれるため、敢えて個人が商人や飲食店用の大口窓口で購入し、露店で販売するものもいる。


露店なら、商品取引所と違い、いちいちカウンターに並ぶ事もなく、目の前に並んだ商品を買える。


しかも購入者が払う値段はさほど変わらない。そのため、気軽な露天で商品を買う者も沢山居る。

そうやって、露天などの小規模店舗と共存している。



商品取引所は常に混んでいて、カウンターが横にズラッと並び、応接室や商談室を除けば、従業員はカウンターの内側、購入者は外側で、窓口越しに接する事になる。


更に、防犯のため、カウンター内部は分厚い木の壁や頑丈なドアに守られており、中に居れば安全だ。


そのため、主に女性の職員中心で運営されている。



「ぐわっ!」



突然暗闇から現れた男が、商品取引所の入口に立つ警備兵に切り掛かった。

深手を負い、倒れた警備兵を踏み越えて、覆面をした一団がなだれ込んできた。



「目撃者は全員殺せ!」


「奴らの仕業に見せるため持てる金貨は奪っていけ」


「悪く思うなよ、蕪男爵の元で働いた自身の愚かさを嘆くがいい」



先頭の男の合図で、続く6人はカウンターを超え内側に侵入しようと試みた。


先の騒動で来客は居ないが、残っている職員は女性ばかり10名ほどしか居ない。兵士として訓練を受けた彼らにとっては簡単な仕事、そう思われた。


ところがカウンターを蹴破ろうとした者たちは、ことごとく失敗した。

頑丈な木の格子に阻まれ、無様に弾き返されていた。



「ぐっ!」



カウンターの上で身を屈め、開口部から侵入しようとした一人が、絶叫してのけ反り後ろに倒れる。



「なっ! なんだそれはっ」



隣にいた侵入者は、倒れた者の胸にささる矢を見て思わず声を上げた。


同時にカウンター内部の女性達が一斉に何か、クロスボウに似た武器を構えている。



「一射目だけ気を付けろ、一度撃ってしまえば再装填まで時間がかかる」



気を取り直した彼らが、再びカウンター内部に侵入しようと試みた。


だが事態は彼らの予想を裏切った。



「そんな筈はっ、あの武器は一体……」



襲撃者は消えかける意識のなかで辺りを見回した。

先程まで周りにいた5人も全て床に倒れている。



彼は一射目をかわし、あり得ない事だが連続して放たれた二射目もかわした。


だが、更に三射目、四射目、五射目と矢は連続して一人の女性から放たれた。


驚愕している間に次々と矢を受け、倒れてしまった。



「この事を報告しなければ……」


既に彼の思いは声にはならない。



心でそう思った所で彼の意識は途絶えた。永遠に。

侵入した腕に覚えのある7人の賊は、女性達によって全て撃退されてしまった。



町を挙げて逃げ散った盗賊団の捕縛が行われた。


クロスボウを持った領民達と兵士が協力し、街中をしらみ潰しに捜索し、各所で盗賊達は追い詰められ、討ち取られるか、捕縛されていった。


商品取引所を襲った怪しい一団も壊滅した。


こうして、夜半にはほぼ全ての捕縛が完了したが、夜が明けて、明るくなるまでは警戒態勢が続いた。


なお、幸いだったのは町の住民には死者がなく、軽傷者のみ、兵士や警備兵は数名の重傷者と20名近くの負傷者を出したが、ミアとローサの活躍で瀕死のものも命を取り留め、傷の軽い者は既に完治している。



テイグーンの町で初めて行われた収穫祭は、闖入者ちんにゅうしゃにより血塗られたものとなってしまった。


皆が無事だったのは幸いだけど、このまま祭りの中止もできないよね。


奴等の妨害に屈した事にもなるし。


取り敢えず、今の捜査を完遂させてから、祭りの、前夜祭からの仕切り直しを考えないと……



「でも、今回の襲撃……、腑に落ちない点が多過ぎる」


「いずれ色々調べてみないといけないな」



当初は、突然の盗賊の襲撃に怒り心頭だった俺たちにも、そう考える余裕も生まれてきた。

ご覧いただきありがとうございます。

ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。毎回励みになります。

これからもどうぞ宜しくお願いいたします。


今週は連休もあり、週末は少し書き溜めができたので、本日は時間をおいて3本投稿予定です。

お時間あればぜひご覧くださいね。

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― 新着の感想 ―
[気になった点]そういえば盗賊たちの人数が不明でイメージしづらいです。領主館分館の正門に5名の警備が駆け付け盗賊たちより少数だった事から7人以上だとは思いますが、実際はどうだったのでしょう?
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