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2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~  作者: take4
第十二章 列強同盟編(歩み出した戦後世界)

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第四百五十七話(カイル歴516年:23歳)物騒な新婚旅行⑤ 遠征がもたらしたもの

 シャノンの切迫した声が響く中、早々に切り札のひとつを切らなくてはならない状況を悟った俺は、心の中で舌打ちしていた。

 これじゃあ第三波というよりも総攻撃だろう。


「各自、投擲弾用意! 合図があり次第、右側に広がるくさむらに投げ込め! 風魔法士は配置に付け!」


 この投擲弾は以前にビックブリッジでも活躍したもので、手投げ型の制圧弾だ。

 制圧弾の成分であるカプサイシンは魔物によって効果が違い、哺乳類型や爬虫類型の魔物には劇的な効果があるが、鳥類型には大して効果はない。ただし……、目や粘膜には大きなダメージを与えることができるので、今はそれで十分だ。


「投擲弾、投射! 投擲後は左側に向き直り自由射撃開始! 風魔法士は右に対し常に風上を保て! 

左の岩場は防御膜を敷いて対応! 残った魔法士はめくら撃ちで構わない、撃って撃って撃ちまくれ!」


 俺の命に魔境騎士団の兵たちは、腰に下げていた拳大の投擲用制圧弾を一斉に投げ入れると反転、今度は左の岩場に向かってエストールボウを構え矢を放ち始めた。


 一方で投げ入れられた投擲弾は各所で赤い煙を上げ、風魔法士によって叢の向こう側へと拡散してされ始め、各所から姿の見えない魔物が上げる断末魔の絶叫が響き渡り始めた。

 そこを目掛けて各魔法士は次々と攻撃魔法を放ち始めた。


「叢を抜けてくる魔物は俺たちで! ヨルティアは足止めを、カーラとシグルは抜けた魔物への対応!

後ろで戦う兵たちに届かせるな!」


 くそっ、左右から挟撃されたせいで無茶無茶忙しいし、大まかな指示以外は慣れた兵たちの対応に任せるしかなかった。

 そんな時……。


「後続の部隊が居る方向からも爆炎が上がっています! 併せて最後尾からは鐘の音も!」


 おいおい、同時に後列も襲っているのかよ。

 もうこれは波状攻撃どころの話じゃない。まるで俺たちは縦深陣を敷いた隘路に誘き寄せられ、包囲殲滅戦を受けている状態に陥っているようだった。


「くそっ、魔物がこれをやるかよ?」


 ここで俺は、軍略を知る人間を相手にしているような錯覚さえ覚えた。

 しかも奴らは自分たちに有利な地形を選んで襲ってきており、視界の開けた前方からは一切襲ってきていない。


「タクヒールさま、もうっ」


 うんヨルティア、分かっている。

 後方が攻撃されている今となっては、俺たちも限界だ。まして最精鋭の魔境騎士団は前衛を中心に配備している。


「円陣を敷いて負傷者を中に! 戦いつつ後退! 最後尾にはヨルティアと俺が!」


「ふふふ、我らも殿しんがりをを」


「お供しますわ」


 そう言うやいなや、グリューゲル王とクラリス公妃は俺と共に最後尾に就いた。

 送り狼となって襲い来る魔物たちを薙ぎ払いながら……。


 その中には赤く巨大な虎のような魔物も何匹かいたけどさ、ヨルティアの重力魔法で身動きできなくなったところを狩りまくった。


 そして……、やっとのことで防衛拠点にまで戻ったが、そこもまた魔物の攻撃を受けていた。

 俺たちはそこで更に半日、延々と攻防戦を繰り返したのは言うまでもない。





 日が傾きかけた頃になってやっと魔物たちの波状攻撃も落ち着き、俺たちはさっさと魔境を撤退したが、誰もが憔悴しきっていたのは言うまでもない。

 一部の例外を除いて……。


「結局……、火竜には出会えませんでしたわ」


 おい、じゃじゃ馬! それは残念そうに言う話じゃないぞ?

 あそこで滅多に出ないと言われた火竜まで出てきたら、確実に犠牲者は出ていたんだからな!


「ふむ、負傷者は出してしてしまったが、これで当分の間は我が国の南東辺境は魔物に怯えずに暮らせる。

各国の皆様には改めてお礼を申し上げたい」


 確かにあの魔物の数は尋常じゃない。

 あんな数が居たらいつ溢れ出してくるかも知れないし、スタンピートが起こっても不思議ではないだろう。

 いや……、既に全方位から攻撃を受けたあれは、正にスタンピート状態だったけどね。


「それで公国南部一帯の農村は、魔境公国と等しく防壁で囲われているのだな? 魔境があることを羨むだけの立場であった帝国われらも、近くに住まう領民たちの恐怖、改めて思い知ったわ。

今後は開発地域での対応も、少し考えを改めねばならんな……」


 だろうな。サラーム郊外の魔境では楽勝ムードだったからね。彼らには本当の恐ろしさを知ってもらう良い機会にもなっただろう。


 そのためにも新たに行う実験地は、きっちりと防壁で囲い、周辺地域の安全を保障する体制を築かねばならない。

 そのための予算もしっかり貰うからね?


 ただ俺は、ここの魔境に行くのは二度と御免被りたい。それが正直な気持ちだ。

 こんな場所、命が幾つあっても足らないし、あれ以上奥に進めば確実に犠牲者が出ていただろう。


「それに……、今回のことで俺も初めて、かつてグロリアスが味わった恐怖の一端を知ったわ」


 そうだろうな。最終防御拠点以外は素材回収の余裕すら全くなかったが、それでも回収できた魔物の数は優に五百を超えているんだからな。

 これはかつて帝国軍が数千の犠牲者を出して壊滅的打撃を受けた『悪夢の夜』と同等規模の数だぞ?


「しかし改めて聖魔法士の力には驚きましたよ。我らはかつては敵軍でありながら、多くの者たちが命を救っていただきましたが、それを目の前で見ていたわけでもなく……」


 だよな、今回は死者こそ出なかったものの、それは即死した者が居なかっただけの話だ。

 数十名が瀕死の重傷を負ったが、彼らはマリアンヌらの活躍で命を拾ったに過ぎない。それを含めて戦闘継続不能となった負傷者は百人に近しい。

 

 かつての俺の様に、ボコボコにされて聖魔法で復活した者を含めれば、全体の三割近くは負傷したことになるしな。


「ところで今回の遠征で回収した魔物だが、帝国は一部を除いて大部分の権利を魔境公国に譲渡したい。

そもそもが我らの発注した武器、それに使用する素材を回収するための魔物討伐であったからな」


 確かに帝国からは最新型の強化型クロスボウ、一万台の発注をもらっているしな。

 ただ最も高い部品(魔物素材)を譲渡されたとなると、納入価格はそれなりに割り引かないといけないか?


「それは私も同じです。発注したクロスボウの素材として必要なものは、自ら少しでも協力できればと思って参加させていただきました。また兵たちとっても、今回は素晴らしい経験になったと思います」


 あれ? クラージュ王はそんな思いで参加していたのか?

 てっきり俺は脳筋仲間たちに触発されたのかと思っていたけど……。


 ただ兵たちにとっては『恐怖体験』としてトラウマにならないことを祈るばかりうだけどさ。

 彼らからも五千台の発注をもらっているし……、帝国と同じ対応にするか?


「加えて持参したバリスタですが、半数は婚礼の祝いとしてフェアラート公国に、半数は発注の試供品としてグリフォニア帝国に贈りたいと思うのですが、受け取っていただけるでしょうか?」


 おおっ、これは思わぬプレゼントだよな。

 実際に拠点防御であのバリスタは大活躍していたからな。魔境から領民たちを守る最前線に配備するのもアリだと思うし。


「これは嬉しい話だな。帝国への納品が終われば、次は我が国も発注したいと思っていたところよ。

あれが有れば魔法士でない者でも、魔法士を凌ぐ活躍が期待できることだし、先ずは魔境近くの防衛施設と近衛師団に配備したい」


「ははは、帝国としても願ってもないことだ。早速だが昨日懸案として議題に上がった国境地帯に配備しようと思う」


「因みに我が国は、各国の友たちに魔境の掃除を助力いただいた立場だからな。同じく素材は全てタクヒール殿にお譲りする。今回は処理の時間がなくそのまま持ち帰っているが、感謝の一環としてフェアリーにて全て素材化した上でお送りさせていただく」


 いや、皆は良いのか? 数だけでも相当なものだぞ?

 ざっくりの概算だけど……。


 赤虎   :10体〜20体程度

 火喰鳥  :100体以上

 火蜥蜴  :100体以上

 火狐   :200体以上

 その他  :100体近く


 その殆どを貰って構わないのか?


「あの……、大盤振る舞いでとても嬉しい話ですが、本当に良いのですか? 魔境公国やカイル王国でも滅多に入手できない高価な素材ですよ? もちろんクロスボウの納入価格は、素材分を引かせていただく心積りですが……」


「帝国は何の問題もないな。今回は幹事役として色々世話になったし、同盟の立役者でもあるしな」


 いや、それは違う!

 何故か幹事役を、結果的に務めざるを得ない状況になっていただけだ。

 皆が余りにも自由人過ぎるからさ。


「公国も問題ないぞ。そもそも我が友は、我らの婚姻を導いてくれた最大の功労者だしな。感謝してもしきれるものではないわ」


 いや……、導いたというよりは結果的にそうなっただけ、そういう話もあるけどね。


 予想以上に早く南部戦線で勝利できたからこそ、西部戦線に駆け付けられた。その結果として西部戦線も片が付き、公国反乱軍討伐に動けた。

 そういう意味では二人の婚姻の立役者は、当時の第三皇子との盟約を導いたジークハルトってことになるよな? 全てはそこから始まっているし。


「我らは大恩ある魔境公国と公王陛下に対し、少しでも恩返しができればと思っております。些少なことですが、これもその一部かと……」


 そう言われても三カ国の奪還も、実のところ全て俺たちの自己都合だ。闇の使徒の件もあったし、国境の安定も当初は大きな理由だった。

 結果的に旧三カ国からは広大な領土の割譲を受けているし、恩と言われる話ではないからな。


「ではありがたく頂戴します。我らはそのお礼として国境の街の整備を。またお預かりしている調印書はカイル王国を加えて皆さまの元にお返しします」


「ふふふ、あっという間だったな。先ずはグリフィンに戻ってから我らも帝都に戻るが、次の再会を楽しみにしているぞ」


「ああ、楽しい時間ほど早いものよ。国境の街が完成した暁には、再び我が友たちと集い共に盃を交わそうぞ!」


「得難い経験とご厚意に感謝を! 私はいつでも駆けつけさせていだだきます」


 げっ、なんか……、既に次の集まりが決定しつつあるような……。


「「「次回もまた頼むぞ(頼みますよ)、幹事(殿)」」」


 誰が幹事だよ! いつから俺は引率者や幹事になったんだ?

 くそっ、もうこの流れは変えようがないのか?


「承知しました。私も楽しみにしておりますが、今後は今回のような無茶振りはナシですからね」


 だださ、各国の元首が勢ぞろいするような大義名分があるイベントなんて、この先そうそうある訳がない気がするんだけどさ……。国境の街ができた祝いって、軽すぎないか?



 笑顔で答えつつも、俺は心の中で大いに頭を抱えていた。

 だが、俺たちが国を開けている間にも、新たな枠組みが組まれた世界は予想を超えた流れを加速していた。

 その結果として俺たちの再会もまた然り……。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は05/18『王都からの呼び出し』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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