第四百五十三話(カイル歴516年:23歳)物騒な新婚旅行① 有意義な船旅
第四百五十三話から書式を一部、正しい形に改めております。
これまでもずっと変えようと悩んでいたのですが、今回を機会に以降は改めることにしました。
途中での変更となって混乱を招いてしまい申し訳ありません。
フェアラート国王夫妻の婚礼の儀が終わった翌日、俺たちはサラームへと下る船中に居た。
『国王夫妻は各国の代表と共に公国を巡り、クラリス王妃に公国を案内すると共に各国代表には公国の威を見せる』
どうやら対外的にはこのように触れられているようだった。
なんせ国王夫妻の他に三カ国の元首が同行してるなんて、口が裂けても言えないからね。
そのため俺たち国賓は、婚礼の儀が終わったあと自国に帰ったことになっており、率いた軍勢も大半は帰国させている。
ただカイル王国からの軍勢は、たまたま帰路が同じことで随伴していることになっているだけだ。
「それにしても、のんびり船旅とはいかないものだな?」
大河のを下る船のデッキで俺は、両側の岸辺を見ながら大きく息を吐いた。
この河はフェアリーより南から海まで続いているが川幅はとても広く、対岸までは優に三百メルはあるかのように思えた。
その中心部より右岸よりを船はのんびりと進んでいるのだが……。
「そうですね。ずっと岸辺を物々しい軍勢が固めていますものね。これも新たに行われた工事の成果、ということでしょうか?」
「そうなると……、右岸の道はずっとサラームまで続いているのでしょうか? ちょっと陸路を進む方々には申し訳ない気もしますが……」
少しばかり長閑な田園風景を楽しもうと思い、ヨルティアとユーカを誘って舷側に出てみたものの、右岸の岸辺には延々と警護の軍勢が続いていたからだ。
「ああ、フレイム侯爵の説明によると、最終的には海まで繋げるそうだよ。今回はVIPご一行だから、事情を知る近衛師団も大変みたいだね?」
彼らは万が一の襲撃に備え、新たに普請された川沿いの街道を進んでいる。
しかも細かく各隊に別れ、船に並走する者たちと先回りして夜間警備に就く者たちで街道はごった返している。
陸路側での警備に動員された兵は公国から二万騎、カイル王国からは二千騎がその任に当たっているから、街道の混乱も仕方がないとは思うけど、ね。
それだけの軍勢が行き交っているため、舷側から見える景色は戦場さながらの物々しさがあった。
「確かにこれでは、のんびり……、とは行きませんね。それでも私にとっては初めての船旅で、とっても楽しいですわ。ミザリーさんには申し訳ないですが……」
ユーカの言う通りかもしれない。
ヨルティアは俺と戦場に同行する傍ら、以前にも船でサラームまで下っているから、あの時と比べると俺と同じように違和感もあるだろうが、ユーカは初めてだから新鮮なのだろう。
因みにミザリーは船室で公国と帝国、二か国の文官たちと顔を突き合わせて打ち合わせ中だ。
新たに建設中の国境街道と途中に設けた街の各国間割り振り、免税都市とするにあたり通商上の協定などを詰めている。
本来ならフェアリーで行う予定のものだったが、できればミザリーにもサラームの街を見せてやりたかった。なんせ彼女が育てた文官たちが今も活躍しているし、彼ら彼女らの活躍振りも見たいだろうと思って、ね。
そこで俺の我儘として、先方の文官たちにも同道してもらい往路の船上で行うこととしていた。
「気に病むことはないさ。今はミザリーにとっての戦場、現地に着いたら今度は俺たちが戦場に出る番だからね。彼女はサラームでゆっくり休んでもらうさ」
魔法士でも戦士でもないミザリーは、魔境での狩りには同行できないからね。
同じようにアリシア女王も、狩りの間はサラームで過ごしてもらうことになっているので、仲の良い二人で観光を楽しんでもらえばいい。
「ただ……、落ち着かないのはそれだけが理由じゃないけどね」
そう言うと船首側に設けられていた東屋から賑やかな笑い声が響いた。
俺の意図したことを悟ったヨルティアとユーカも苦笑していた。
何故なら……、本来はこの船旅に十隻の船が用意され、それぞれ各国の代表が分乗する予定だったんだよ?
なのに何故、俺の乗った船に首脳陣が集まるんだよ!
これなら万が一の事態によってこの船が沈めば、首脳陣は全滅だよ? リスク分散した意味がないじゃないか! ってか、どんだけ寂しがりなんだよ!
始まりは出立直前の会話だったんだけどさ。
◇
サラームに戻る際、俺はわざわざフェアリーまで出向いてくれた、ティア商会の会頭ハリムとサラーム代理総督のザハークに声を掛けた。
「わざわざフェアリーに来てもらったのに、ゆっくり時間が取れなくて申し訳なかったね。
代わりにサラームへの移動で船を使うので、船中でゆっくり報告を聞ければと思ったのだけど……、構わないかな? もちろんそれなりの人数と多少の荷なら乗せれるスペースは確保しているよ」
「もちろんです、公王陛下と凱旋なんて仲間たちに羨ましがられますよ。サラームで組織した各組織の会頭も連れてきているので、この機会に改めてご挨拶させてやってください。奴らも感激しますよ!」
「承知いたしました。私もヨルティアさまからお聞きした、新たな交易路についてお話を伺いたいと思っていたので。陛下や公妃さま方と同船できるなんて、仲間の奴らも大変な土産話になりますよ」
だがこの話を、何故か俺の傍らで聞いていた人物がいた。
だってさ、普通にしれっと近衛騎士団の軍服を着ているから、俺だって気付かないさ。
「それはいいな、あの時の船旅はとても愉快で刺激的だったぞ。私も酒盛りに加えてもらえるかな?」
「え?」
「あ? 兄さん! いえ、こっ、こっ、こ、国王陛下!」
「……」
大丈夫かハリム、ニワトリみたいになっているぞ?
以前に『兄さん』と会ったことのないザハークも事情を察し、真っ青になって震えているし。
「クリューゲル王、それはそれで差し障りが……」
「ああ……、そうだったな。確かにこの服を着ていては差し障りがあるか?
我が友の指摘はもっともな話だし、乗船時には『兄さん』らしく衣服を改めておこう」
いや、そう言う意味でもないし、そういう問題でもない。
それに一応……、新婚旅行でしょうが! 新婦と別の船で良いのかよ?
俺が話しかける間もなく、既に国王はどこかに行ってしまったけどさ。
「「……」」
ザハークとハリムは思いっきり固まっていた。
「あの……、これで俺たちが乗船を辞退したら……、不敬に当たりますよね?」
「ハリムの言葉は正しい、かな」
(ごめん)
「首を切られたり……、しませんよね?」
「そこまではされないと思うけど……、ごめん、諦めてくれるか?」
(ザハーク、これも試練だ、諦めてくれ)
これで彼らは楽しい酒宴に招待されることが確定してしまった。
更に……、彼らの想像の斜め上を行く事態に発展した。
出発時にザハークやハリムたちは勢ぞろいして一列に並び、国王が乗船するのを待ち受けていたんだけどさ。
「友たちよ、私も楽しく飲んで語らえる仲間を連れてきたぞ。皆で杯を交わそうではないか」
「なぁっ!」
俺は『兄さん』の後ろに続いた仲間たちに、思わず変な声を上げずにはいられなかった。
だってさ……。
「俺も国王から……、おっと『兄さん』からお誘いを受けてな。タクヒール殿が市井から拾い上げたという、面白い男たちと酒が飲みたくて、な。お邪魔させてもらった」
ってかさ、貴方は帝国の皇帝陛下でしょうが!
そう言えばこの人……、戦場では気軽に一般兵に交じって食事をするような人だったか……。
「私も『兄さん』からお誘いを受けまして、どうやら楽し気な会なので是非!」
「私もですわ」
貴方たちもリュート・ヴィレ=カイン王国の国王に女王ですよね? それって、いいのかよ!
そう言えばクラージュ王も常識破りの王子時代から兵たちからは慕われていたし、アリシア女王も領民に交じって戦うような人で、そもそもが二人とも王族といっても型破りの人物だったな……。
「私も皆々様方と比べれば場違いではありますが……、公王陛下にとっては私も『兄さん』の一人です。
お仲間に加えていただくことになりました」
いや、本物の兄さんだから『兄さん』仲間ってか?
笑えない洒落だぞ?
ただ並み居る王たちに交じって参加しようとする兄の胆力には驚かされたけどさ。
ただ……、暴走する暴れ馬が居ないのはせめてもの救いか?
そこで俺は大きなため息を吐いた。
「もちろん居りますわ。万が一狩りの打ち合わせになったら、私一人のけ者にされる気ですか?」
『げっ!』
やっぱり居た!
いつの間にか目立たぬようメイド服を着ていたじゃじゃ馬が……。
「そう言うことなので僕たちもお邪魔します」
それに続いたのは満面の笑みのジークハルト、青い顔をしたゴウラス騎士団長とフレイム侯爵だったが……。
狩りの段取りや配置は昨夜に散々打ち合わせしたでしょうが! 今更何を?
多分だがジークハルトは興味本位で、騎士団長と侯爵は嫌々ながら儀礼上で付いて来ざるを得なかったのだろうな。
まぁ、頂点に立つものは基本的に孤独だが、ここでの関係はそれを忘れさせてくれるからね。
仕方ないか……。
ただ、兄さんの仲間たちの正体をしらないだけでもザハークやハリムたちは幸せか?
全てを知ったら感激どころじゃ済まないし、土産話どころか話をできないぐらいの出来事になっちゃうけどね。
俺は再び大きなため息を吐かずにはいられなかった。
◇
そんな訳で東屋では、『兄さん』と楽しい仲間たちの会が催され、今も喧騒と笑い声が漏れている。
最初はガチガチだったザハークやハリムたちも、少しだけ酒が回ったのと雰囲気に慣れてきたのか笑顔で酒をもんでいるようだし。まぁ時折、口元が引きつっているようだが、これは見なかったことにしよう。
俺もせめてもの助けになれば、そう思ってラファールを送り込んでいるけどさ。
いつもは豪気に軽口を叩いていた彼も、今はかなり小さくなって飲んでいるようだけどね。
もちろんこれはパワハラではない。
今回の旅に同行しているマリアンヌから、『フェアリーでも夜な夜な出かけて朝方まで帰って来ない』と聞いていたからさ、きっと飲み足らないのだろうと思って、ね。
一日目はそんな感じで有意義(?)な宴席を過ごしたが、彼らも旅に浮かれていた訳ではない。
二日目はしっかり酒を断って翌日に備えていた。
俺自身は逆に二日目の方が有意義な船旅だったと思えたぐらいだ。
先ずは三か国のトップとカイル王国の代表を交えたマルチ会談で、国境に建設される街の占有スペースの割り振りや免税案など、前日に文官たちが作成した基本案の承認と条約の締結。
次に二国間のバイ会談が随時行われ、通商は今後の連携などが話し合われた。
この場では最も活躍していたのはアリシア女王だった。
各国の首脳部も、若くまだあどけなさの抜けない容貌にも関わらず、彼女の手腕には驚いたことだろう。
今から思うと、船旅の空き時間を有効活用できるようにクリューゲル王の配慮だったのかもしれない。
宴席にかこつけて、ね。
そしてまる二日の船旅を終え、早朝に船はサラーム近郊の渡し場へと接岸した。
俺たちはこのまま、国境付近にある魔境に直行することになる。
様々な不安を抱えながら……。
最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
次回は04/20『サラームの夜』を投稿予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




