第四百四十二話(カイル歴515年:22歳)新領地施策①
戦勝記念式典が終わった翌日、カイラール経由で帰国するクリューゲル陛下とクラリス殿下を見送ったのち、俺たちは復興と開発に向けて一気に動き出した。
五か国が盟約を結び連合を結成したことで、外敵の脅威は去ったが問題は他にもあった。
急激に領土が倍以上になった俺たちにとって、領地を維持する兵力だけでも一杯一杯だった。
まして未だに闇の使徒は健在であり、第一皇子の行方も知れておらず、大きく力を失ったとはいえイストリア正統教国すら健在なのだ。
片や俺たちは復興だけでなく、抱える人員が増えたことで膨大な人件費を支えるため、全力で開発事業に着手していた。
やるべきことは多い。
そのため俺は基本方針を定めるために先ず主要者を招集し、今後の検討と優先度を定めることにした。
俺の呼びかけで集まったのは内政全般を取り仕切るレイモンド、その手足となって動いていたユーカにクリシア、旧領方面の差配をしていたミザリーとアンにクレア、そして商業を担当するヨルティアとその関係でもうひとり、以前からずっと声を掛けていた人物、元ウロス王国の子爵、ヴィリレ・メルカンテ・ディ・サヴォイアだ。
彼には将来的に一都市を預かる内政官、または行政部門の一角を任せるが、特命を帯びて海路の交易を任せても良いと考えている。
まぁ今回は初めて来訪したこともあり、オブザーバーとして成り行きを見てもらうだけだけどね。
その他にも会議のオブザーバーとしてエランとメアリー、サシャにカーリーンが同席している。
彼らは会議で決まった内容を実際に担当する身だから、聞かせておいた方が良いとレイモンドが判断していた。
「せっかく戦乱が落ち着いたけど、今度は内政でまた忙しくなる。いつも皆を頼ってばかりで申し訳ないが、改めて俺が今の時点で考えていることを共有したい」
そう言って俺は当面の課題である五点を共有した。
・軌道に乗り安定している旧領の再開発
・食料の安定確保を目指した大規模農地開発の推進
・魔境復活事業の前段階となる整備事業
・委託事業としての国境整備事業
・二人の辺境伯に預けた新領土の開発支援施策
「まず旧カイル王国領だった地域の状況について、ミザリーから報告してもらえるかな?」
「はい、旧領については私とアンさま、クレアさんとで分担して開発を進めています。
そのため私からは主にテルミラの状況について報告させていただきますので、先ずはこちらの資料をご覧ください」
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テルミラ一帯開発計画
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テルミラの外壁を更に一段拡張し、周辺一帯をまとめる魔境公国第二の首都を目指して整備する。
そのため周辺域の灌漑農地を拡大し大規模な緑化計画を並行して進め、将来的には一帯での居住可能人口の上限を三万五千人規模まで引き上げる。
都市計画 テルミラとイザナミで人口三万人規模を抱える街とする
灌漑用水 現行は一本の灌漑水路を更に増やし、大山脈から水路を新設して一帯を潤す
周辺農地 灌漑用水路に沿って大規模な開拓村を二十か所ほど建設し、五千人が住まうの農地を開拓する
緑化計画 灌漑によりサザンゲート平原の大規模な緑化を推し進め、テルミラ一帯を広大な放牧地とする
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「凄いな……、以前にちらっと聞いたけどさ、それよりも更に進化していない?
サザンゲート平原一帯って、途方もない規模じゃん!」
「はい、人手と実施手段に目途が付きましたので、一気に推し進めます。メアリーさんやサシャさんから、サザンゲート平原もかつては広大な密林の生い茂る魔境だったと聞きました。
元は豊かな大地であったことから、水資源さえあれば荒涼とした平原も緑化できると思います」
確かにな、そのことは俺も王都の学園にて歴史の授業で習った内容だ。
だがそれは、途方もないことだと思うけど……。
「ミザリー、人手と実施手段に目途が立ったというのも説明してくれますか?」
師匠から問われたミザリーは嬉しそうに答えた。
「はい、先ずは人手ですが、帝国からの避難民を受け入れた経緯で約一万名の入植希望者と、彼らの中から入植地が完成するまでの間は人足として働ける方を二千人ほど確保できました。
もちろんこれには、今回の戦勝を知りカイル王国側からの移住希望者も含まれています」
確かにな、イズモだけでは収まりきらなかった避難民は、数万人規模で一時的にテルミラやイザナミ、イシュタルやディモスで受け入れていたはずだ。
そして俺たちはこれまでの戦いでも連戦連勝だったことで、経済も常に右肩上がりであることから、カイル王国の各地からも移住希望者が殺到しているらしい。
「開発に関わり学園からの魔法士手配も順調です。今は授業の一環、魔法士たちの『実習』として派遣は定着しており、王国内の貴族各家も『研修』といった形で魔法士を無償供与してくれています。
これにより常に地と水の魔法士は三十人程度は確保できています」
「ははは、言うことないな」
「まぁこれも全部、メアリーさんとサシャさんのお陰なのですけどね。講義と実践をテルミラで行えるように学園に働きかけてくれたので。今はテルミラとイシュタル、そしてディモスの新規開発に振り分けています」
あの二人……、今更のようだが俺に『召集令状』が来たとき、学園に同行させると決めて良かったと思う。
今でも狸爺や王都騎士団には独自のパイプを持っているらしいし。
「ではイシュタルやディモスも既に動き出していると?」
「はい、イシュタルとディモスについては私から報告させていただきます」
そう言ってクレアが立ち上がったが、大きく目立ってきたお腹のせいか立ち上がるのも少し難儀なようだった。
「あ、クレアやアンは座ったままで構わないからね。途中で気分が悪くなった時も遠慮なく、ね」
「ありがとうございます。二つの街で一時的に受け入れている新規住民は約一万名を超えており、その殆どはイストリア正統教国からの難民でしたが、今や彼らも貴重な戦力となってくれています」
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イシィタル・ディモス開発計画
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イシュタル周辺に新たな開拓村を造成し、戦乱に備えて空き地だったイシュタルの第三区画にも街並みを広げ、居住可能な個所を設け街だけで四千人規模の定住人口を支える街に、周辺の開拓村と合わせて将来的には人口一万人規模を擁する街とする。
元より余裕のあったディモスは街の一部を拡張し最大居住人口を三千人に引き上げ、隣接する川の流域に規模の大きい開拓村を二十村ほど造成し、将来的には一帯で人口八千人を擁する街とする。
第八都市開発計画として、イシュタルとディモスを結ぶ街道の途中に新たな街と開拓村を建設する。
街は遺棄された旧ヒヨリミ子爵領にあった町を再構築し、開拓村を含む一帯で人口三千人規模を擁するものとする。
都市計画 イシュタルとディモスの拡充、第八都市の新規建設
灌漑用水 イシィタルからの排水路を迂回工事させて第八都市の農業用水に、元からあった川を上水としても活用する
周辺農地 新たな開拓村をイシュタルに五か所、ディモスに二十か所、第八都市に二十か所建設する
第八都市 街の規模はディモスに倣い、周辺の開拓村と同様に魔物や野盗襲撃に備えた防御施設を整備
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いや……、これも更に大風呂敷を広げた形になるな。
ただ新たに一万人が恒久的に生活できる場となれば、この程度の開発は必須だとも思うけどさ。
「既に開発に当たる人足は移住希望者の男性から二千名、受付所や商品取引所を管理する人員として女性を中心に六百名ほどの育成を進めています。また職人を希望する方々の五百名は、男女問わず家族と共にアンさまに預けています。
現状では世話役となる方々を、移住者連絡会の協力を仰いで選出しており、彼らの中から五百名規模の自警団も編成できております」
「うん……、完璧だと思う。ちなみにその他の人たち今はどうしている感じ?」
それ以外の保護した人員を、ただ食わせていくだけではもったいない。
何らかの形で自立してもらわないといけないからね。
「はい、千名ほどは既にイシィタルやディモスで職を得ており、その家族と共に移住が完了しております。
それ以外に四千名程度ですが、収穫期は兵士の方々が不在だったので各農村で手伝いを、これからは建設現場を支えるため支援作業に当たってもらう予定です。
この結果、子供と老人以外はほぼ何らかの役割を担ってもらっています」
「ありがとう。クレアが現地に行ってくれて本当に助かったよ。
それでは次にアンから報告をお願いできるかな」
「はい、先ずは先ほどクレアさんが仰った職人希望者ですが、全てカールさまに預けております。
経験のある方や見込みのある方はテイグーンの職人街に、それ以外の方はガイアに移住いただき工業団地で大量生産ラインに従事していただいています」
そう言ったあと、アンもまた書面を用意していた。
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テイグーン一帯再開発計画
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新領土開発でクサナギ等に移住した人々が抜けたテイグーン一帯は、カイル王国からの移住希望者を中心に移民者を受け入れ、稲作とサトウキビ栽培、工業の中心地として存在感を際立たせる。
傭兵団と魔境騎士団の主要駐屯地が新領土やアイギスに移転した今、テイグーンを学芸と工房の街として新たに生まれ変わらせるため、街の再開発を行う。
未だ余力のあったアイギスの休耕地は、人員が補充できたことで全てで稲作とサトウキビ栽培を行い、更に稜線の上段に耕作地を増やして生産力を向上させる。
人員が増加したガイアの工業団地もまた拡充し、隣接する地に居住専用の開拓村を新設して受け入れるが、完成するまでの当面の間はガイアの臨時収容施設を活用する。
都市計画 テイグーンの第二区画の半分(北側)を取り壊して学校と学生の寄宿舎を建設する
職人街 賃貸住宅の一部を廃し、工房エリアを倍に拡充してその一角に職人用の職業訓練学校を設ける
アイギス 耕作面積を一気に増やし、米とサトウキビの収穫増を図る
ガイア 工業団地を拡大し、隣接する場所に従業員が居住できる開拓村を新規に造成する
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「一時はクサナギなどの新領地開発で成長が停滞していたテイグーン一帯も、今回の救民施策や特需によって再び活気を取り戻しております。工業製品だけでなく食料増産にも力を入れ、誰もが魔境公国を支える柱と成長させるべく、懸命に取り組んでおります」
そう言ったアンは、とても誇らしげに報告していた。
彼女は俺と共にゼロからテイグーンを立ち上げた一人だ。それが更に飛躍しようとしているのだから思いも一入なのだろうな。
「この結果、タクヒールさまの旧魔境伯領は一帯で人口約五万人を抱えるようになり、当初の計画を達成することになります。これに続き編入された元コーネル子爵領、テルミラやイザナミを除く元ハストブルグ辺境伯領、元キリアス子爵領の開発も追って進め、元カイル王国側の直轄領だけで人口二十万を支える地としたく思います」
ははは、ミザリーも同じか。
人口二十万ってさ、ちょっと前から考えれば夢のような話だったしね。
魔境伯として領地を拝領した頃は人口五万人すら遠い夢のようなものだったしね。
これらの領地は全て、元が最辺境の地だった故に開発できる余力(土地の余剰)はふんだんにある。
そして今やそれらは辺境ではない。
魔境公国にとって屋台骨を支える一帯なのだから……。
旧王国領については大まかな情報は共有できた。
そしてここからは更なる開発が必要な新領土の話となる。
最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
次回は01/30『新領地施策②』を投稿予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




